クジラやイルカの集団座礁の原因は?
クジラやイルカの集団座礁は別名「マス・ストランディング」あるいは「ライブ・ストランディング」と呼ばれています。
ストランディングは世界中の海で時折発生しており、2017年にニュージーランド南島のゴールデン湾では観測史上最悪となる600頭以上ものクジラが打ち上げられ大きな話題となりました。
日本では平均すると毎年100頭くらいのクジラやイルカのストランディングが報告されています。
クジラやイルカの集団座礁の具体的な原因に関しては未だ解明されていないのが現状ですが、専門家達の間では多くの異なる意見が交わされています。
一体、どのような原因が考えられているのか見てみましょう。
病気や怪我
クジラやイルカには自らが出す音波の反響を受け止め、周りの物体との距離や位置を把握するエコーロケーション(反響定位)という能力があります。
しかし、寄生虫や怪我などの影響でエコーロケーションが正常に機能しなくなり、浅瀬に迷い込んでしまい、押し寄せる波と引き潮によって海岸に打ち上げられてしまうという説です。
地理的な要因
海岸線や海底の特徴がクジラやイルカの方向感覚を失わせる場合があり、とくに半島や岬の先端のような場所は座礁のホットスポットになる可能性があるといいます。
餌となる小魚などを追いかけ浅い水域に入り込んでしまい、その結果、打ち上げられてしまったという説です。
リーダーに従う
クジラやイルカの群れにはリーダーがいますが、その1頭のリーダーが何かしらの問題に遭遇すると、グループ全体に影響を与える可能性があるといいます。
たとえば1頭が浅瀬に迷い込み救援信号を発すると、助に来た他のクジラも迷い込んでしまい集団で座礁してしまったとする説です。
船のソナー
現在、ストランディングの最も有力な原因として考えられているのが、実は船が発する「ソナー」なのです。
ソナーは音波の反響によって水中の捜索をするための装置で、多くの船や潜水艦に装備されています。
しかし、ソナーが発する強力な電波によってクジラやイルカのエコーロケーションが正常に働かなくなり、集団のまま最終的には浅瀬に打ち上げられてしまうとする説です。
地震の前兆
クジラやイルカのストランディングは地震の前兆であり、海底プレートの活動によって生じた大きな音波が影響しているとする説もあります。
この説は都市伝説的に語られることも多く、実際にクジラやイルカの集団座礁は日本周辺でも高い頻度で発生していますが、それに続く大きな地震はまったく確認されていないのが現実です。
そのため、ストランディングと地震の関係性は無いとする説が有力です。
座礁クジラやイルカを見つけた時は?
陸に打ち上げられてしまったクジラやイルカが自力で海に戻ることはまず不可能です。
何もせず放置していればそのまま死んでしまいます。
しかし、人間が手助けして海に戻すことができれば助かる可能性があるのです。
日本でも町の職員や水族館職員、地元のサーファーや漁師達の手によって座礁クジラやイルカが救われた事例は少なくありません。
過去には、種子島に座礁した170頭のクジラのうち120頭をサーファーだけで救助した実績もあります。
それでは、実際に海岸で打ち上げられたクジラやイルカを助けたいと思ったら何をすればいいのか見ていきましょう。
日本の法律における座礁クジラ
日本の法律では座礁したクジラやイルカは生きていても死んでいても「モノ」として扱われます。
そのため行政の通達では「そのまま放置することは避け、生きているものは生かしたまま逃がす。死んだ者は埋没または焼却する。」というのが一般です。
ですが法的には、生きていたら助けるとか研究材料にするとかは、全て自己判断に任されているのが現状なのです。
ただし、シロナガスクジラ、ホッキョククジラ、スナメリの三種は水産資源保護法で保護されているので、殺したり個人が所有したりしてはいけないことになっているため、打ち上がっていたら生きていても死んでいても水産課に連絡しなくてはいけません。
逆に言えば、正式に保護されているのはこの3種だけになりますが、日本近海にはシロナガスクジラとホッキョククジラはいませんので、対象となるのはスナメリだけになるでしょう。
打ち上げられたクジラ・イルカを救うには?
まずは最寄りの水族館に連絡をして指示を受けるようにしましょう。
水族館としては業務外のことなので、どの水族館も必ずきちんと対応してくれるとは限りませんが、救助に積極的なところもありますし、それが一番早い方法です。
もしくは、日本鯨類研究所(※下記参照)に連絡をすれば、どこの水族館がいいとか具体的に教えてもらえますし、どうしたらいいのか指示も受けられます。
救助の際の注意事項
座礁したクジラやイルカが生きていて助けてあげたいのなら、なるべく早く海に戻してあげる必要があります。
一般的には48時間ぐらいは大丈夫と考えられていますが、逆に言えばその間に救助しなければいけません。
ただし、人間が危険な目にあうような無理な救助は絶対にしてはいけません。
大型のクジラの場合、動かした尾びれにあたって人間が怪我をすることもありますので十分な注意が必要です。
また、むやみに素手で触らないことも大切です。
なぜなら動物からの感染症に感染した例が実際に報告されていますし、呼吸を浴びるのも感染の危険があるので注意が必要です。
座礁クジラの救助手順
救助する場合には十分な人手を集める必要があります。
まずは、クジラやイルカには体温が上がらないように水をかけたり、濡れたタオルや海藻をかけたりしておきましょう。
小型種の場合は、体の下に布や網を引いて持ち上げ、水深が十分にあるところまで運んで放してあげますが、この時に胸びれや尾びれを引っ張らないようにしましょう。
ただし、大型種の救助はとても難しくなります。
日本において過去の集団座礁における救助では、小型クジラやイルカの救助はほぼ成功していますが、大型クジラの成功例はほとんどありません。
海外では大型クジラの救助に成功した例もありますが、それは訓練を受けた救助隊がいて、適切な指示のできる専門家がいて、機材などが十分に揃っている状況でのことです。
たとえば、クジラの体が重さで砂に埋まらないように、両脇から浮き輪を膨らませて持ち上げる機材があり、そのまま海に持っていくか、タンカーを用意して引っ張る方法があります。
こうした組織や設備は日本にはありませんので、救助ができないこともありえるという現状もしっかりと理解しておきましょう。
海岸にクジラやイルカが打ち上がっていたら?
してはいけないこと
- 無理な救助をしない…クジラの救助で人間が溺れては本末転倒です。
- 大型クジラの後方に近づかない…尾びれの一撃で大ケガもありえます。
- むやみに素手で触らない…クジラにはストレスを与え、人間には感染症の危険があります。
- 呼気を浴びない…人畜共通伝染病の可能性もあります。
- 尾びれ・胸びれを引っ張らない…クジラやイルカが骨折をすることがあります。
- 絶対に食べない…人畜共通伝染病の可能性もあります。
したほうが良いこと
- 人手を集める
- クジラの体を濡らす(やけどや体温上昇の防止)
- 気孔の確保(ただし呼吸を浴びないように注意)
- 対応機関への連絡
どこに連絡すればいいのか?
最寄りの水族館
一番現実的な対応が期待できるのが水族館です。
まずは最寄りの水族館に連絡をして指示を仰ぎましょう。
- 参考サイト:としとしWeb水族館
日本鯨類研究所
水産庁の調査捕鯨を請け負っている財団法人で、国内でクジラやイルカの調査をしている公的な機関はここしかありません。
捕鯨反対派には抵抗があるかもしれませんが、救助活動にも理解のある機関です。
- 公式サイト:日本鯨類研究所
日本海セトロジー研究会
クジラ イルカに関する「ミニ学会」として、調査研究の報告会の開催や開始発行などの活動をしています。
約200名の会員のネットワークを持ち、実際的な対応が期待できる機関です。
- 公式サイト:日本海セトロジー研究会
国立研究開発法人 水産研究・教育機構
水産資源学的な研究を行っている機関で、救助の方法というよりもクジラの種類やデータの取り方などについて学術的なアドバイスをしてくれます。
- 公式サイト:国立研究開発法人 水産研究・教育機構
各都道府県水産担当部
救助を最優先にするなら、まずは水族館に連絡をすることですが、本来、クジラやイルカが集団座礁したり乱獲されたりした場合には、各都道府県あるいは市町村の水産担当部署に連絡することになっています。
各水産担当部署の連絡先は県庁または市町村役場で確認しましょう。
ライター
Greenfield編集部
【自然と学び 遊ぶをつなぐ】
日本のアウトドア・レジャースポーツ産業の発展を促進する事を目的に掲げ記事を配信をするGreenfield編集部。これからアウトドア・レジャースポーツにチャレンジする方、初級者から中級者の方々をサポートいたします。