「自然の中へ行こう」と聞くと、多くの人は山や海を思い浮かべるかもしれません。しかし、日本ドッグヨーガ普及協会主宰・大沼則子さんは、「自然はどこにでもある」と話します。犬との暮らしやヨガ、そして余命を意識した病気との向き合いを通して見えてきたのは、人も自然の一部だということ。自然を特別なものではなく、日々の暮らしの中に見いだす則子さんの視点は、忙しい現代人に新たな気づきを与えてくれます。
ドッグヨーガが教えてくれる「自然はどこにでもある」ということ

「自然というと、山へ行かなきゃ、森へ行かなきゃって思う人が多いですよね」
そう話す則子さんは、「自然」をもっと広い意味で捉えています。街路樹も、道端に咲く草花も、空も風も自然。もちろん、私たち人間も自然そのもの。
さらに、「以前、尊敬するヒーラーの方から『プラスチックも自然なんだよ』と言われたことがあるんです」と振り返ります。最初は驚いたものの、その理由を聞いて納得したといいます。
プラスチックの原料は石油であり、その石油も地球が長い時間をかけて生み出したもの。そう考えると、人が「人工物」と呼ぶものも、元をたどれば自然の恵みの中から生まれています。
「私たちは自然から切り離されているんじゃなくて、自然の中で生きているんですよね」
もちろん、山や海などの大自然と身近な自然では、パワーの違いはあります。けれど、自然は“わざわざ探しに行くもの”ではなく、いつでも身近に感じられるものなのです。
犬との散歩で気づく、身近な自然と季節の変化

愛犬との散歩は、則子さんにとって自然と向き合う時間でもあります。犬は立ち止まって匂いを嗅ぎ、草むらを歩き、小さな変化を見つけます。
その姿を見ていると、自分も自然と目線が低くなり、「新芽が出ている」「花が咲いた」「季節が変わった」といった日々の変化に気づくようになるそうです。
「犬を飼っていると、自然を感じやすくなりますよね」
忙しく過ごしていると、私たちは目的地へ急ぎ、周囲を見る余裕を失いがちです。一方で犬は、「早く目的地へ行こう」とは考えません。その瞬間に漂う匂いを感じ、風を感じながら歩いています。
散歩は犬を運動させる時間ではなく、人が自然を感じ直す時間でもあるのかもしれません。
犬や花が教えてくれる「今を生きる」ということ

則子さんが動物から教えられたことの一つが、「今を生きる」という姿勢です。動物は昨日の失敗を悔やんだり、明日の心配をしたりしません。ほかの動物と比べて落ち込むこともありません。目の前の出来事を、そのまま受け止めながら生きています。
「花もそうですよね」
タンポポはバラになろうとはせず、ひまわりは桜になろうとはしません。それぞれが、自分の命をそのまま咲かせています。
「みんな、ありのままで生きているんです」
ヨガでも、「本来の自分に戻る」という考え方を大切にしています。だから則子さんにとって、動物も自然もヨガも、どこか同じことを伝えてくれている存在なのかもしれません。
保護犬・ゆめちゃんとの暮らしで見つめ直した「生」と「死」

長年ドッグヨーガを伝えてきた則子さんですが、実は長い間、自身では犬を飼っていませんでした。「いつか一緒に暮らしたい」という思いはありながらも、ご縁がなく、レッスンではぬいぐるみを使い続けてきたといいます。
そんな則子さんのもとへやってきたのが、保護犬の「ゆめ」ちゃんでした。
「ずっと探していたんです。本当にご縁だったと思います」
初めて犬と暮らす日々は、それまで伝えてきたドッグヨーガやヨガの考え方を、自身の暮らしの中でも改めて実感する時間になりました。
今年の春、則子さんに希少ながんが見つかります。診断を受けたとき、真っ先に頭に浮かんだのは、自分のことではなく、ゆめちゃんの存在でした。
「私に何かあったら、この子はどうなるんだろうって」
それをきっかけに、“生”や“死”について、以前より深く考えるようになったといいます。とはいえ、「病気になったから考え方が変わった」というわけではありません。
長年ヨガやアーユルヴェーダを通して大切にしてきた「今を生きる」という考えを、ゆめちゃんとの暮らしの中で、より身近に感じるようになったといいます。
「私たちは自然の一部なんです。ゆめもシニアになり、これまで大きな手術を2回乗り越えてきました。そんな姿を見て、生きる力ってすごいな、と感じています。私自身も今回病気になり、ゆめの生きる強さを見習いながら、自分の身体と向き合っています。
そこで改めて感じたのが、『自然』というのは『健康で美しいもの』、山や海、森や草花だけではないということです。
生まれることも、老いることも、病気になることも、治っていくことも、そして死ぬことも、すべて自然の営みの中にある。だから今回の『病気』さえも、私自身の一部であり、自然の一部なんだと、今は感じています。『病気』は本当の自分からのメッセージでもありますから。」
自然は山や森だけにあるものではなく、日々の暮らしの中にも息づいている——。そうした視点は、犬と暮らす毎日の中で、より確かなものになっていきました。
犬と静かに過ごす時間、自然の中で深く呼吸をする時間。その積み重ねは、忙しい毎日の中で忘れがちな「本来の自分」に立ち返るきっかけにもなります。
ゆめちゃんとの出会い、そして病気との向き合いは、則子さんに新しい価値観を与えたというより、20年以上伝え続けてきた思いを、暮らしの中で改めて確かめる時間になったのかもしれません。
ドッグヨーガを20年以上続ける原動力は「情熱・使命感・愛」

好きなことを仕事にし、それで生計を立てるのは、決して簡単なことではありません。ましてや20年続けられるのは、並大抵のことではないと思います。その秘訣について尋ねると、まず一声は「勢いですね」と則子さんは笑います。
「若かったから、何も考えていなかった」と謙遜しつつも、少し間を置いて、「情熱と使命感、何より愛」が根底にあったのだと教えてくれました。ドッグヨーガは、犬とポーズを取ることが目的ではありません。犬とともに呼吸を整え、自然とのつながりを思い出し、本来の自分に戻っていく時間です。
「これまでの20年は、『情熱・使命感・愛』で、社会を変えようと力を注いできましたが、でも長年続けてきた今は、『がんばって命を守る』ではなく、『それぞれの命が自然に輝けることを願う』という、ちょっと肩の力が抜けた感じになってます。」と則子さんは微笑みます。
これからは、もっと自然体で、自分らしく生きていきたい。そして、人も動物も植物もすべての命が、それぞれの命をそのまま輝かせて生きられる、則子さんはそんな社会を願い続けています。
取材協力/写真提供:日本ドッグヨーガ普及協会 代表 大沼則子さん
ライター
朝倉奈緒
ファッション誌の広告営業、音楽会社で制作やPRを経験後、フリーランス編集&ライターとして独立し、カルチャー・アウトドア・自然食を中心に執筆。現在Greenfield編集長/Leave no Traceトレーナーとして、自然を守りながら楽しむアウトドア遊びや学びを発信。キャンプ・ヨガ・野菜づくりが趣味で、玄米菜食を実践中。