イタリア人にとってオリーブオイルは食事の基本。質にもこだわり、直営の農家で買ったり、自家製のオリーブオイルを使う人もいます。各地では異なる種類のオリーブが栽培されており、とくにイタリア北部ジェノヴァのオリーブオイルが高級品ともてはやされます。一方、オリーブの栽培に向かない北部の郷土料理はバターが調理の中心。南から来たイタリア人は胃もたれを起こすことに。イタリアの楽しいオリーブオイル事情を、歴史的文化的背景とともに紹介します。
イタリア人がオリーブの木を大切にする理由は?その伝統と文化

イタリア人にとってオリーブの木は、オリーブオイルの原料として欠かせない樹木。社会的にも重要な役割をもつオリーブやオリーブの木がどのような存在なのか、他の油との比較も含めて解説します。
「オリーブ」「バター」「ラード」に見る文化差と価値観の違い
1980年代、イタリア各地ではバターを多用するフランス料理がブームになりました。バターを使った料理を提供するレストランが増えたのもつかの間、いつのまにかバターは存在感を失いつつあります。
食文化を専門とする歴史家マッシモ・モンタナーリによれば、イタリアには古くからオリーブオイルのほかに、バターとラードが使われていました。バターは、古代ローマの人びとが「蛮族(ばんぞく)」と呼んでいた異民族の食文化。イタリア半島の人びとは、食用としてではなく、肌に塗布して使っていたことがわかっています。
一方ラードは、豚肉を食べる風習があったガリア人からもたらされたものです。バターもラードも動物性の油で、中世になると滋養強壮のために食していたという記録があります。
そんなイタリア半島では、伝統的にオリーブオイルこそが最高級品とされてきました。オリーブオイルは「エリートたちの油」と呼ばれ、富裕階級はバターやラードなど動物性の油を敬遠していたといわれています。
オリーブの木が栽培できない半島の北部では、クルミの油を常用していたことがわかっています。こうした伝統は、実は現代も健在。イタリア人の多くがオリーブオイルを最も愛好する傾向は変わりません。
参考:Massimo Montanari著『Gusti del Medioevo I prodotti, la cucina, la tavola』2012年、Laterza刊
平和の象徴として家庭でも大切にされるオリーブの木
古代世界では女神アテナの聖樹とされていたオリーブの木は、キリスト教の時代になると平和の象徴になります。
白い鳩がオリーブの枝をくわえているデザインは、教会を中心にあちこちで目にします。カトリック教徒が多いイタリアでは、こうした事情からオリーブの木は非常に大切にされているのです。
オリーブの木のある景観は、イタリア人にとって平和や豊かな生活のシンボルといえるでしょう。
おいしいオリーブオイルの選び方!質の良いオリーブオイルは直接生産者から

毎日消費するオリーブオイルだけに、イタリア人は購入するときは細心の注意を払います。辛みや香りといった好みは人それぞれ。生産者から直接話を聞きながら購入したり、旅行先で偶然「おいしい!」と直感するタイプを見つけたり。オリーブオイルの入手方法を紹介します。
オーガニック認証のユーロリーフを目印に選ぶ
スーパーでオリーブオイルを買う場合、わが家は「ユーロリーフ」を目印にします。ユーロリーフは、EUによる厳しい条件をクリアした商品につけられているものです。
オーガニックの条件には、次のようなものがあります。
・最初の収穫から3年間有機栽培を行ったものであること
・許可された原料、技術を用いていること
・トレーサビリティが整備されていること
ちなみに、ユーロリーフがついているオリーブオイルは、750ml瓶で10ユーロ(約1,600円)以上することが大半。品質は保証されているため、安心して購入できるのがユーロリーフの特徴です。
イタリア農業・食料主権・森林省(Ministero dell’Agricoltura, della Sovranità Alimentare e delle Foreste)のデータによれば、イタリアにおけるオーガニックのオリーブオイル生産量は年間約4万トン(2023年)。全栽培面積のうち、およそ25%を占めています。
出典:農産食品サービス機関ISMEA(Istituto di Servizi per il Mercato Agricolo Alimentare)
オリーブの品種から選ぶ
イタリアには500種類以上のオリーブの木があるといわれています。主要品種の特徴を知っておくと、好みのオリーブオイル選びやすくなり便利です。
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オリーブの品種 |
主な産地 |
特徴 |
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タッジャスカ(Taggiasca) |
リグーリア州 |
・繊細で軽やか、クセがないため万人向き ・アーモンドやアーティチョークのようなアロマ |
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カザリーヴァ(Casaliva) |
北部ガルダ湖周辺 |
・マイルドな食感 ・ほどよい苦みと辛みがある |
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フラントーイオ(Frantoio) |
トスカーナを中心にイタリア全土 |
・スパイシーで苦みがある ・バルサミコやルッコラのようなアロマ |
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レッチーノ(Leccino) |
トスカーナ・ラツィオ州など |
・フレッシュで軽やか、使いやすい ・苦みと辛みはほどほど |
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コラティーナ(Coratina) |
プーリア州を中心とする南部 |
・苦みと辛みが強い ・酸度が低く高品質 |
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オリアローラ(Ogliarola) |
プーリア州を中心とする南部 |
・苦みと辛みは強め ・力強くバランスがよい |
一般的に北部で生産されるものはクセのないものが多く、中部から南部にかけて風味が濃厚になります。
生産者から直接購入する

若い世代の農業従事者が共同で運営するマテーラのレストラン
わが家で使用している5L缶のオリーブオイルは、毎週開かれる青空市場で購入しています。店主は接ぎ木の名人として有名で、彼の手から生まれる果物は絶品。オリーブオイルにもハズレがありません。「今年のものは少し辛みが少なめ」など、生産者から生の情報を得ることができるのもよいところです。
バカンスで行くアグリツーリズムで、おいしいオリーブオイルに遭遇することもあります。地域や農園ごとに異なるオリーブオイルはスーパーで販売されている商品と比べ割高感はあるものの、価格に見合う品質と味です。
オリーブ生産者が経営するレストランで購入する
イタリアの南部や中部では、オリーブオイル生産者が直接経営するレストランをよく見かけます。レストランでは自家製のオリーブオイルを販売しているため、おいしい料理を食べて、オリーブオイルの風味を確認してから購入するという方法があります。
オリーブオイル漬けの野菜やパテが販売されていることもあり、そのおいしさに財布の紐はどんどん緩んでしまいます。
コンテスト入賞歴のあるオリーブオイルを購入する
コンテスト入賞歴を大々的にアピールしているオリーブオイルを買えば、品質や味わいは保証されるでしょう。わが家も、自宅から車で1時間ほどのところにあるコンテスト入賞の常連生産者の農園に買いに行ったことがあります。
コンテスト入賞の経歴を持っているオリーブオイルは、とても繊細な味わいであることが大半です。食材や調味の邪魔をしないのが理由とされていますが、デリケートな味は好みがわかれることもあります。
価格も考慮し迷ったら味見をさせてもらい、好みの風味か確かめてみるとよいでしょう。
オリーブオイルが登場しない?イタリア北部の郷土料理

乳製品たっぷりのクレスペレ・アッレ・ヴァッレ・ダオスターナ
南北に長いイタリア全土で、オリーブオイルが使われているわけではありません。北イタリアのオイルはバターが主流。北イタリアのオイル事情を紹介します。
寒冷な北部はバター文化
イタリアを旅行していると、ある地点からオリーブの木が車窓から消えます。日照時間が少なく、冬の寒さが厳しいリグーリア以北で、オリーブの木が育たないためです。
実際、ヴァッレ・ダオスタ州滞在中にスーパーに寄ってみたところ、売られているオリーブオイルはごくわずか。選択肢も少なく、オリーブオイルの需要が南部ほどないことがわかりました。
町のレストランや、トレッキング中に立ち寄る山小屋は、いずれもバターやチーズがたっぷりと使われた料理ばかり。バターがおいしいせいか、朝食のクロワッサンも絶品でした。
とはいえ、普段オリーブオイルに慣れている我々ローマっ子にとって、連日のバター満載料理はかなりヘヴィ。自宅に戻ってアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノを食べてホッと一息ついた、という経験があります。
ライター
cucciola
ヨーロッパの片田舎で家族と3人暮らし。
学生時代に都会の生活で心を病んで以降、スローライフとスローフードで心身の健康を維持。気が向くまま、思いつくまま、風まかせの旅行が多数。
アートと書籍を愛するビブリオフィリアで1人の時間が大好き。