季節の移ろいを感じながら静寂な栗駒山を歩きたいと思い、今回は人気のいわかがみ平ではなく、秣岳(まぐさだけ)登山口から歩きはじめました。朝の澄んだ空気を吸い込み、薄暗いブナ林を抜け、木道に残る朝露を踏みしめて進むと、やがて黄金色の木道が目の前に広がります。山頂からは一面に広がる神の絨毯。ゆったりと景色が変わる静かな周回コースは、山をじっくり味わいたい人にぴったりです。歩いたあとは須川温泉でほっとひと息──自然と湯けむりに癒やされる贅沢な1日になりますよ。
栗駒山ってどんな山?

基本情報(所在地・標高・見頃など)
| 所在地 | 宮城県・岩手県・秋田県の県境 |
| 標高 | 1,626m |
| 高山植物の見頃 | 6上旬~7月中旬 |
| 紅葉の見頃 | 9月下旬~10月上旬 |
| 栗駒山天気 | 栗駒山の天気|てんきとくらす |
四季が息づく、彩り豊かな山容
栗駒山は、季節ごとにまったく異なる表情を見せてくれる山です。雪が溶けはじめる春には「花の百名山」の名にふさわしく、足元に小さな命が息づきます。登山道を歩くと、しっとりと濡れた土の匂いがふわりと立ちのぼり、ヒナザクラやイワカガミが可憐に揺れながら咲き、歩く人をそっと迎えてくれます。
5月初旬にはカエデやブナが芽吹き、山肌は淡い緑に包まれ、やがて深い緑へ。尾根を渡る風がワタスゲと共に夏の訪れを知らせます。
そして紅葉の季節。尾根の向こうから、赤・橙・黄金色が波のように押し寄せ、谷まで燃えるように染まる風景は、何度訪れても息をのむ美しさです。10月下旬頃には雪が舞いはじめ、11月の下旬にかけて白く染まる静寂の山歩きが楽しめます。
東北の名峰を見渡す大パノラマ
栗駒山の山頂からは、北東北の名峰が連なり、遥かなる地平へと続いていくような風景が見渡せます。遠くに浮かぶ鳥海山や月山、微かに霞む蔵王の稜線。山々が重なり、空と大地がゆっくり溶け合うような景色に出会えますよ。
秋麗の栗駒山へ──山のモン・サン・ミッシェルに出会う、静かな木道歩き

10月の中旬に須川温泉ルートで歩く栗駒山。紅葉の見ごろは少し過ぎていましたが、紅葉だけではない、秣岳登山口から登る栗駒山の魅力を紹介します。須川温泉へ下山する周回コースなので、「絶景と静寂、そして温泉」という至福のご褒美が待っていますよ。
なぜ「須川温泉ルート」なのか
テレビや雑誌で取り上げられて1度は実際に見てみたいと思っていた”神の絨毯”。人気のいわかがみ平からではなく、あえて秣岳登山口から歩く理由は、”静けさの中で秋を感じたかったから”です。
そしてこのルートには、もう一つの楽しみがありました。山肌にぽつりと浮かび上がる姿から“山のモン・サン・ミッシェル”と呼ばれる、栗駒山ならではの景観。色づく尾根の奥に静かに佇むその姿を、誰にも急かされず自分のペースで眺めたかった──その思いが、秣岳からの一歩を後押ししました。
登山口アクセス
車
| 秋田方面 | 湯沢横手道路「十文字I.C」〜国道342号で約80分 |
| 仙台・関東方面 | 東北自動車道「一関I.C」〜国道342号で約80分 |
公共交通機関
| 秋田方面 | JR奥羽本線「十文字駅」下車 レンタカーで国道342号を約80分 |
| 仙台・関東方面 | 東北新幹線「一関駅」下車 レンタカーで国道342号を80分 |
須川高原温泉駐車場(50分)→秣岳登山口(65分)→秣岳(100分)→天満尾根・山のモン・サン・ミッシェルポイント(10分)→天狗平・須川分岐(20分)→栗駒山山頂(28分)→東栗駒山分岐(30分)→東栗駒山(25分)→東栗駒山分岐(70分)→自然観察路分岐(35分)→須川高原温泉駐車場
森の静けさに胸がざわめく、秣岳登山口へ

秋の澄んだ空気の中、パレットのような彩りに染まる山肌を眺めながら登山口へ向かいました。
登山者が少ないこの道は、木々が影を落とし湿った落ち葉と足元の悪さで、どこか心がざわつく雰囲気です。遠くで鳴く鳥、風が枝を揺らす微かな響き、森の音が際立って聞こえます。「クマが出てきてもおかしくないな」と背筋を伸ばし、音楽を流しながら一歩を踏み出しました。
やがて薄暗い森が開け、山の空気が暖かく流れはじめます。不安が、次第に期待へと変わっていきました。
黄金の草原に足が止まる――木道の先に現れる“山のモン・サン・ミッシェル”
樹林帯を抜け、秣岳山頂の眼下には、色づきはじめた須川湖と須川高原。その一帯は、これから訪れる錦繍の季節を静かに待ちわびているかのようでした。
丸みを帯びた稜線を緩やかに下っていくと、オレンジ色に染まり光輝く草紅葉と伸びる木道が姿を現します。足元から照り返す秋の光、静寂に響く靴音。自然に歩幅がゆっくりになり、夢中でシャッターを切ります。

登り返しの手前でふと振り返ると、細く続く木道の先に、今しがた越えてきた秣岳がぽつりと浮かんでいました。まわりの稜線がなだらかに落ち、そこだけが島のように際立っています。金色の草原の上に、ひとつだけ静かに立つ峰。その姿を目にしたとき、「ああ、これが“山のモン・サン・ミッシェル”なのだ」と腑に落ちました。
神の絨毯を見下ろす栗駒山山頂

山頂へと続く稜線では、風の音が次第に強まり、空がぐっと近づいていくのを感じました。遠くの山々が幾重にも重なり合い、眼下にはエメラルドグリーンに輝く昭和湖が静かに光をたたえています。

紅葉も終盤といわれていた「神の絨毯」も、朱に深みを増し、まるで光の角度で表情を変える織物のように、朱のグラデーションが折り重なっていました。
山頂は、いわかがみ平から登ってきた登山者で賑わっていましたが、不思議と騒がしさは感じません。皆、同じように風を受け、同じ景色を見つめながら、言葉少なに秋の終わりを惜しんでいるようでした。
東栗駒山から望む──秋色が波打つ本峰を前に

山頂からくだり、ひらけた稜線に立つと、朱く染められ栗駒山の大草原が目の前いっぱいに広がります。振り返れば、裾野まで染まり落ちる栗駒山の本峰。視線は、その優美な姿と秋の色へと吸い込まれていきました。
須川温泉へ——湯けむりの中のご褒美

岩肌の向こうから、ふっと硫黄の香りが漂ってきました。ああ、帰ってきた——そんな安堵が胸の奥に広がります。
標高1,126m、栗駒山の懐に湧くこの湯は、登山の終わりにふさわしいご褒美のような場所。湯船に身を沈めた瞬間、エメラルドグリーンの湯がこわばった筋肉をやさしくほぐしていきます。風が頬を撫で、湯けむりの向こうに広がる高原の空気が、全身を包み込むようでした。
強酸性の湯は肌をキュッと引き締め、湯上りには驚くほど肌がなめらかに。「須川知らぬは生涯の損」と称される名湯の言葉に、思わずうなずいてしまいます。
宿泊もできるので、湯治場のようにゆっくりと夜を過ごすのもおすすめです。一日の山旅の終わりに、心も体も癒やされる贅沢がここにはあります。
日帰り入浴
| 料金 | 大人800円 子供400円 |
| 営業期間 | 4月下旬~11月上旬 |
| 営業時間 | 【大浴場・中浴場】9:00~16:00【大露天風呂】6:00~21:00 |
| 電話番号 | (0191)23-9337 |
| 公式ホームページ | 須川高原温泉 |
| Googleマップ | ; |
栗駒山を安全に楽しむために

美しい紅葉や花の名山として知られる栗駒山ですが、標高差があり、天候の変化も早い山です。せっかくの登山を心から楽しむために、いくつか気をつけておきたいポイントを紹介します。
上着や防寒着を必ず持つ
栗駒山は標高が高く、山頂付近では風が強く気温もぐっと下がります。晴れていても、急にガスがかかって視界が真っ白になることも。私が歩いた日も、山麓ではTシャツ1枚で過ごせましたが、稜線に出た途端、急に風が冷たくなり上着が必要になりました。夏でもウインドブレーカーやレインウェアを持っていくこと、秋は手袋やネックウォーマーもあると寒さ対策になります。
混雑を避ける工夫
紅葉シーズンの栗駒山には、全国から多くの登山客が訪れます。駐車場は早朝のうちに満車になることも多く、登山口へ向かう道路が渋滞することもあります。私も一度、ゆっくり出発してしまい、登山口までの渋滞で予定より1時間以上遅れてしまいました。
それ以来、朝のひんやりとした空気の中を歩く“早立ち”を心がけています。静かな山道を独り占めできるこの時間こそ、混雑を避けるいちばんの秘訣かもしれません。
ライター
yuki
幼少期からキャンプや釣り、スキーなどを楽しむアウトドアファミリーで育つ。10代後半は1人旅にハマりヨーロッパや北米を中心としたトラベラー期となる。現在もスキー、スノーボード、ダイビングなど海や山で活動中。「愛する登山」は低山から厳冬期の雪山まで季節問わず楽しむhike&snowrideなスタイル。お気に入りの山は立山連峰!Greenfield登山部/部長の任命を受け部活動と執筆活動に奮闘中。