自然の中で遊ぶ楽しさを知っているからこそ、その自然を守る責任も感じる—。アウトドアブランド「コロンビア」のCSR活動「エコロンビア」に携わる近藤さんは、登山好きな一人の社員でありCSR担当として、環境と人に向き合っています。今回、そんな彼女に、込めた想いを聞きました。

山と出会い、自然の中で“働きたい”と思ったことが転機に

「暗黒のフリー時代があったんです(笑)」と笑顔で話す近藤さん。彼女が自然と関わる仕事をしたいと思ったきっかけは、まさにその時期だったといいます。

「たまたま知り合いに誘われて、福島の農地でお手伝いをしたんです。その合間に登った磐梯山の山頂からの景色が、本当に素晴らしくて。『ああ、自分はこういう景色のそばで生きていたいんだ』って、心から思いました」

都会育ちの近藤さんにとって、磐梯山での経験はまさに転機でした。そこから「自然と関わる仕事をしたい」と考えるようになり、縁あってアウトドアブランド・コロンビアに入社。最初はプロダクト部門で製品開発や販促の仕事に携わっていましたが、次第に環境活動や社会貢献への関心が強くなり、社内でCSR活動を行う「エコロンビア」メンバーの一員として参画しました。

「当時はまだ“CSRって何するの?”という感じで、自分でも手探りでした。だけど、山で感じたことを仕事にしたいという思いはずっとあって、それが自然と今の仕事につながった気がします」

日本独自の取り組みとしての「エコロンビア」

コロンビアのCSR活動「エコロンビア」は、本国が取り組んでいるCSR活動とは別に、日本独自のプロジェクトとしてスタートしました。リサイクル素材の活用、環境保全、地域連携、社会的弱者への支援など、幅広い分野で取り組みを展開しています。

「“エコロンビア”というネーミングは、造語なんです。でも、“エコなことをコロンビアとして日本でやっていこう”という想いをそのまま形にした言葉で、すごく気に入っています」

たとえば、山梨県の乙女高原では草原を守るためのボランティア草刈り活動を継続的に実施しています。また、新潟県ではフジロックの森プロジェクトと連携し、木道整備や森林保全活動を行っています。さらに、児童養護施設のアウトドアプログラムのための商品提供や子どもたちと山に登る「みらいの森」プロジェクトなど、環境と福祉をつなぐ活動も特徴的です。

「子どもたちと一緒に山に登ると、本当にたくさんの気づきがあります。ふとした会話から、たくましさや純粋さが感じられて、自分自身を見直すきっかけにもなりました。登山は人の心を開きやすいのも魅力ですね」

登山者としてのリアルな視点

近藤さんはCSRという仕事を、常に“ひとりの登山者”としての視点でとらえています。
「私たち登山をする人って、山の景色に癒されたり、元気をもらったりしていますよね。だからこそ、『この景色を未来にも残したい』と自然と思えるんです」

実際、近藤さんはプライベートでも登山を楽しみながら、目についたゴミを拾う習慣があるのだそう。「山って一見キレイなんですけど、飴の包み紙やティッシュなど、小さなゴミが意外と落ちているんです。そういうのを見ると、拾わずにはいられなくて」

CSR担当というよりは、自然が好きなひとりの人間として、行動している—そのスタンスが「エコロンビア」の原動力になっているように感じられました。

ボランティアだからこその難しさ。制度と現実のギャップ

エコロンビアの活動の多くは、社員の自発的なボランティアによって支えられています。それがゆえ、は制度上の課題も立ちはだかっているといいます。

「ボランティアを募っても人が集まりにくく、ボランティア文化の構築がまだまだ課題だと感じています。制度面も整備途上で、活動に関するルールや手当などが明確でないことも、参加のハードルになっています」

CSRが“職務”として明確に制度化されている海外のグローバル本社と違い、日本ではまだ制度整備が追いついていないのが現状です。それでも活動が継続できるのは、「やりたい」という社員たちの情熱があるからに違いありません。

「アウトドアが好き」から始まる環境とのつながり

「アウトドアが好きな人って、環境の大切さに気づくスピードが速いと思います」
自身もアウトドアに目覚めたのは大人になってからだったという近藤さん。磐梯山で見た絶景に感動し、自然と関わる仕事をしたいと考えるようになったその体験は、今のすべての原点になっています。

「自然の中で遊ぶことで、心が整ったり、自分の軸に戻れたりしますよね。そういう体験をした人は、きっと“守りたい”って思えるようになるはずです」

イベントを通じて“自然とつながる”体験を

エコロンビアでは自然体験イベントも企画しています。登山をしながら山の清掃をするなど、ブランドのファンや、自然と関わるきっかけが欲しい人などにも参加しやすい機会を提供しています。

「体験って、すごく強いです。たとえば一度自分で草を刈った場所にもう一度行ったとき、“自分が関わった場所だ”って感じられるのって、すごくうれしいんですよね」

CSRの仕事をしているから特別なのではなく、アウトドアが好きだから、自然が好きだからこそ、自分ごととして行動できる。その感覚を、もっと多くの人に知ってもらいたい—そんな想いが、言葉の隅々から伝わってきました。

「自然が好き」という気持ちを出発点に、仕事として環境に関わる道を選んだ近藤さん。CSRという立場を超えて、「山を愛する一人」として語る言葉には、行動の原点が詰まっていました。コロンビアのエコロンビア活動が、誰かの「自然と関わるきっかけ」になる。そんな連鎖を、彼女は日々、つくり続けているようです。

取材協力:コロンビアスポーツウェアジャパン

朝倉奈緒

ライター

朝倉奈緒

ファッション誌の広告営業、音楽会社で制作やPRを経験後、フリーランス編集&ライターとして独立し、カルチャー・アウトドア・自然食を中心に執筆。現在Greenfield編集長/Leave no Traceトレーナーとして、自然を守りながら楽しむアウトドア遊びや学びを発信。キャンプ・ヨガ・野菜づくりが趣味で、玄米菜食を実践中。