前編では沢登りをするパーティーのリーダーなら身に着けておきたい基本的なスキルや登り方、持参すると心強いアイテムについて紹介しました。今回は、滝の水線をダイレクトに登って突破する「シャワークライミング」で滝の上から後続クライマーを確保する技術について、取り上げます。既存の書籍やインターネット記事にはなかった実践的な内容になっているので、お楽しみに。
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シャワークライミングの確保技術
水線をダイレクトに突破するシャワークライミングは爽快!しかし、ロープ確保の方法を誤れば、事故に発展するリスクがあります。
墜落をロックするビレイ方法は危険

沢登りで後続クライマーを確保する方法は、さまざまあります。しかし、通常のクライミングで多用する確保技術をそのまま使うのは危険です。ビレイデバイス※1 によっては、後続で登るクライマーが不意に墜落した時でも確実に墜落を止める「ブレーキアシスト機能※2 」が備わったものがあります。
万が一、ブレーキアシストが機能する「ダイレクトビレイ※3」モードで確保中に後続クライマーが墜落した場合、ロープの流れを自動的に止めてしまうことで宙づりになり、水にたたきつけられて溺れる事態も想定しなくてはいけません。このブレーキアシストは解除に手間がかかるため注意してください。
すぐにロープを流せるエイト環を使うか、写真のようなチューブ型のビレイデバイスの場合、「ボディビレイ※4 モード」の形で確保するとより安全です。簡易ビレイなら肩がらみや腰がらみも、後続クライマーを引っ張り上げながら必要に応じてロープをすぐに流せるので、状況に応じた方法で確保しましょう。
※1 ビレイデバイス・・・クライミング中にクライマー(ロープで登る人)の墜落を阻止したり、ロープを操作して安全を確保するための器具
※2 ブレーキアシスト機能・・・ビレイヤー(ロープを操作してクライマーを確保する人)が使用するビレイデバイスに搭載された、クライマーが墜落した際に自動でロープをロックし、落下を止める補助をする機能
※3 ダイレクトビレイ・・・下から登ってくるクライマーを上部の支点を使ってビレイ(確保)する
※4 ボディビレイ・・・ビレイヤー(安全確保者)がハーネスにビレイデバイスを装着し、ロープを操作してクライマーの墜落を制止するビレイ方法のひとつ
確保方法の例

前提として、ここで説明する方法は筆者のやり方なので、この方法がいつでも必ず正しいとは限りません。実践する場合は状況に応じて判断し、自己責任で行うようにしてください。
筆者は水量が多い滝を登る後続クライマーを確保する際、ビレイデバイスをボディビレイモードにし、支点のマスターポイント※5 にカラビナを追加することで、ロープの屈曲点を増やす方法を取るのが安全だと考えています。
この時、クライマーの動きを上からのぞき込めるようにビレイ位置はなるべくロープやスリングで延長し、滝の落ち口に調整します。こうすることで、もし不意に墜落してもすぐに危険な落下を止めつつ、適当なスピードでロワーダウン※6できます。好みの部分ですが、ビレイデバイスをローフリクションモード※7 にしたり、折り返しカラビナをプーリー(滑車)付きのものにすることでロープを流しやすくする微調整も可能です。
※5 マスターポイント・・・複数の支点をスリングなどでまとめて作った、安全確保のための中心となる支点
※6 ロワーダウン・・・ビレイヤ―(確保者)がロープを操作してクライマーをおろすこと
※7 ローフリクションモード・・・写真に写っているボディビレイモードの確保器を、前後で反転させた状態です。ギザギザがある向きの逆側でロープを制動させる

支点にビレイデバイスをボディビレイモードでセットし、屈曲点を増やさずに上向きに制動をかけてビレイする方法もあります。この方法はできないこともありませんが、力が入りにくい姿勢になるため、墜落の動荷重はなかなか止められず、テクニックが必要。ロープを流すスピード調整も難しいので十分な経験と技術が求められるため、初心者にはおすすめしません。
ムンターヒッチでの失敗談

確保器がなくてもカラビナさえあればできるムンターヒッチ※8 は便利な方法で、緊急時の懸垂下降にも利用できます。また、ロープを流せるので確保にも使われますが、水流がある場所でのビレイに使う際は要注意です。
筆者は過去にムンターヒッチで後続クライマーをビレイしていましたが、水流の中でクライマーが滑落した際、ロープをすぐに流すことができず、肝を冷やした経験があります。その時はナイフでロープを切ることも一瞬考えましたが、仲間による協力のおかげで、力づくで何とか流すことができました。
※8 ムンタ―ヒッチ・・・ロープをカラビナに巻き付けて、摩擦抵抗を利用してロープの動きを制御する結び方

後の検証で、ムンターヒッチはビレイと後続クライマーが登る向きが屈曲していると上手くロープを流せなくなることがわかりました。そして、ノット※9 を反転させないとロープを流せません。
とはいえ、ムンターヒッチはクライマーにとって欠かせないロープワークでもあります。長所と短所をよく理解し、状況に応じた方法で確保してください。
※9 ノット・・・ロープの結び目
自由度の高さが沢登りの魅力

沢登りは山の総合的な力を発揮できる山行形態です。自由度が高い反面、困難な沢の遡行になるほど、フィジカル、登攀力、技術面、ルートファインディング※10 力 、チームワーク力が試されます。
状況に応じてさまざまな技術を使い分けることもあるでしょう。そういったところが頭と体を使うところであり、おもしろい部分でもあります。仲間と困難を乗り越えながら遡上することは最高の経験になるはず。
とはいえ、沢登りの醍醐味は登攀だけでなく、水遊びや釣り、焚き火、キャンプなどさまざまあります。いろいろなタイプの沢があるだけに、好みも人それぞれ。そんな沢登りの体験を共有できる貴重な仲間がいるなら、この上なく素晴らしいことだと思います。
全員で無事に帰ってくるためにも、これから仲間を沢に連れて行くリーダーなら、なるべくいろんな沢を経験し、研鑽することが求められるのではないでしょうか。メンバーの実力を考慮した上で、そこから登るという目的と安全のバランス感覚を養っていく必要があると、感じます。
※10 ルートファインディング・・・地形、岩の形状などを総合的に判断し、安全かつ効率的に登るためのルートを見つけ出す技術
ライター
Sho
1995年生まれ。元新聞記者。写真の趣味をきっかけに2020年から北海道に移住。野生動物や自然風景、山岳写真を撮影する週末カメラマンとして活動している。山岳登攀にも力を入れており、北海道を拠点に沢登りやアルパインクライミング、フリークライミング、アイスクライミング、ミックスクライミングなどジャンルを問わず登るクライマーでもある。写真も山も、挑戦と冒険をモットーに生きている。山帰りは、デカ盛り大好き大食い野郎と化す。