国内屈指の野外ダンスミュージックフェス「レインボーディスコクラブ」は、音楽と自然、多国籍な来場者によって年一で生み出されるスペシャルな空間。静岡・東伊豆で10年近く開催されてきた本フェスには、サステナブルな取り組みと地域との共生という軸が貫かれています。今回は丁寧に育まれてきたこのイベントの舞台裏を、主催者へのインタビューを通じて紐解いていきます。

最高なフェス体験にできるかは、来場者のマナーあってこそ

レインボーディスコクラブ(Rainbow Disco Club、以下RDC)は、単なる音楽イベントではありません。主催者は「続けてきたからこそ見えてきたものがある」と語ります。

都内のクラブイベントのような洗練された空気と大自然の環境が溶け合うRDCは、唯一無二の音楽体験とともに来場者と主催者、そして出演者の関係性を築いてきました。

イベントの中心にあるのは“共創”の精神。音楽はもちろん、来場者のマナーや地域の理解、そしてRDCや地域スタッフの支えによって、会場や周辺が快適な状態に保たれています。

「おいしい」「カッコいい」からはじまるリサイクル

2024年の開催では、神奈川・丹沢水系のミネラルウォーター「DECON(デコン)」との協業により、アルミボトルの導入が行われました。このボトルは高いリサイクル性を持ち、会場には専用の回収ボックスが設置

会場に水の持ち込みは許可されており、来場者の間にはマイボトル文化も浸透しつつありますが、終日屋外で過ごすのでやはり水は必需。デコンの水を購入した人たちからは、「水がおいしい」「ボトルのデザインがかっこいい」といった声も多く聞かれたそうです。

また、NPO法人アイプレッジと連携し、分別を呼びかけるスタッフの配置や掲示物の設置などを通じて、環境負荷を最小限に抑える努力が続けられています。

「僕たちのような規模のイベントでは、リユースカップを作る方が環境に悪影響を及ぼす場合もあります。だからこそ今回のように他社と協業する形で、より良い方法を探っていきたいと考えました」と主催者。

みんなの意識で保たれるいつでもクリーンな会場

大いに盛り上がった芝生のメインフロア。翌朝、まだほとんど人のいない会場には、ゴミひとつ落ちていません(あったら拾いたくなるほどクリーン)。その背景には、徹底した清掃と来場者の意識の高さがあります。

夜9時に音が止まると、NPOスタッフが中心となり、すぐに清掃を開始。来場者が夜帯にスタートする屋内会場に移動している間に、新しい一日を迎える準備を整えてくれているのです。

「一度汚れてしまうと元に戻すのが難しいからこそ、みんなで維持することが大事」。

会場のゴミ拾いはお客さんも手伝ってくれることが多いのだという主催者の言葉から、強制ではなく、自然に広がる行動の清さがRDCの空気を作っているのだと感じました。

ルールで縛るのでなく、個々のモラルでカッコいい行動を!

RDCでは、明文化されたルールよりも“場の空気”がマナーを育てています。誰かがゴミを拾う姿を見て、自然と同じ行動が広がっていく。初めて来場する人たちも、その空気に触れるうちに振る舞いが変わっていく。

主催者は「“かっこよく遊ぶ”、という価値観を共有することで自然とモラルが保たれ、それが会場内だけではなく、それぞれの日々の生活にも変化を与えていくことができればうれしい」と話します。

子どもや親を連れてこれるフェス。ファミリー層も多数

RDCは年齢層の幅広さも特徴です。親子連れの姿も多く、最近では三世代での来場も珍しくありません。親が子を連れてくるだけでなく、「成長した子どもに親が連れて来てもらう」日も遠くないでしょう。

そんな循環が生まれることも、RDCの魅力のひとつです。主催側も小さな段差の整備など、安全性への配慮を年々アップデートしており、家族で安心して楽しめる場づくりに力を入れています。

町長さんもファンになる!?地域と一緒に育むイベント

開催地である静岡県東伊豆町との信頼関係もRDCの大きな柱です。町長をはじめ観光課や地元業者と連携し、仮設トイレの設置やゴミ回収、芝の修復など、すべては地域関係者のサポートのもと、進められています。

町長は毎年RDCの会場に足を運んでくださるのだそう。「今年はRDCオリジナルTシャツを着て、応援に来てくださいました。そんな町長さんの姿に励まされます」と話す主催者の言葉には、感謝と敬意が込められていました。

地域に寄り添い、循環していくフェスのかたち

RDCは、開催時期をゴールデンウィーク前に移したことで、観光地である東伊豆の繁忙期を分散させたり、また訪日や在日問わず外国人来場者も多かったりと、町に経済的なメリットを生み、地域の活性化につなげています。

イベント終了後には土壌の修復や芝の張り替えなど、自然環境の原状回復も徹底して行われています。これらの取り組みは一過性のイベントではなく、地域と共に歩む“循環”の象徴ともいえるでしょう。

地盤を固めたところで、まだまだやりたいことはたくさん!

RDCは、15年以上にわたり続いてきたなかで、音楽的クオリティや空間の快適さなど、多くの部分で成熟を遂げてきました。しかし、主催者側は今もなお「やりたいことが山ほどある」と語ります。

ステージ数の追加や開催日数の拡大、さらには新たな仕掛けの導入など、未来に向けたアイデアが尽きることはありません。「伊豆に会場を移した10年前は『どうやったらチケットを売れるか』ばかりを考えていました。

でも今は、来場者の足元の段差にまで目を配れるようになった。そういう意味で、自分たちも成長を感じることができます」と主催者は自身の変化を振り返ります。

一人ひとりがつくるフェス

フェスを良くするのも悪くするのも、来場者一人ひとりの行動次第です」と語る主催者の言葉が印象的でした。会場での過ごし方だけでなく、近隣の温泉や飲食店など、地域と接するあらゆる場面での思いやりと行動がRDCの価値を高めています。

フェスは“提供されるもの”ではなく、“共につくるもの”。RDCはその本質を体現する場なのだと感じさせられます。主催者は「長く続ける中で、僕ら主催者も、来場者も、少しずつ成長してきたという実感があります。それぞれが意識を持ち寄ることで、今のRDCがあるんです」と締めくくりました。

Rainbow Disco Clubは、音楽フェスの枠を超え、持続可能な地域との共生、そして個人のモラルを育む場として機能しています。毎年、様々な地から会場にやってくる人々でつくりあげるRDCの“フェス”という文化が、これから先も音が心地よく振動するように伝わっていくでしょう。
 
取材協力:Rainbow Disco Club
写真提供: Ken Kawamura/Masanori Naruse/Yosuke Asama

朝倉奈緒

ライター

朝倉奈緒

ファッション誌の広告営業、独立系音楽会社で一通り経験後、フリーランス編集&ライターとして独立し、カルチャー・アウトドア・ナチュラルフードを中心に執筆。現在Greenfield編集長/Leave no Traceトレーナーとして、自然を大事にしながら楽しむアウトドア遊びや学びを発信。プライベートではキャンプ・ヨガ・音楽に親しみ、玄米菜食を実践中。