海外では多くのダイバーが使用しているエンリッチド・エア・ナイトロックス(以下、エンリッチド・エア)。存在を知ってはいるものの、メリットや使用方法を知らないというダイバーへ、エンリッチド・エアをあらためて紹介します。
エンリッチド・エアの楽しみ方
エンリッチド・エアの存在は知っているけれど、普通の空気との違いがわからず、講習や使用を避けているダイバーが少なくありません。ただエンリッチド・エアを使用することで、ダイビングを楽しむ幅がとても広くなります。
約20年間ダイビングを経験してきた筆者のおすすめの楽しみ方は以下です。
*水中撮影(特にマクロ生物)
*海外でのダイビング
*1日3〜4本のダイビングコンテンツを入力
普段使用している空気でも楽しむことができますが、エンリッチド・エアを使用することで、より快適に安全にダイビングを楽しめます。
例えばマクロ生物(水中の小さな生物)の撮影をメインとしたダイビングは、時間があればあるほどダイバーにとってうれしいもの。空気の残量以外に減圧不要時間(潜水可能時間)の制限がありますが、エンリッチド・エアを使用することで、減圧不要時間を延ばすことができます。
ちなみに、潜水可能時間は以下のように変化します。
深度 | 空気(酸素21%) | エンリッチド・エア(酸素32%) | エンリッチド・エア(酸素36%) |
18m | 56分 | 95分 | 125分 |
20m | 45分 | 75分 | 95分 |
22m | 37分 | 60分 | 70分 |
24m | 29分 | 50分 | 60分 |
※筆者自身が計測。ダイブコンピューターによって多少の誤差があります
海外ではダイビングのライセンスを取得する際に、エンリッチド・エアのコースも受講することが主流です。
エンリッチド・エアを持っていることで周りのダイバーと同じガイドを楽しむことができるので、海外でのダイビングをメインと考えている方は、ぜひエンリッチド・エアのコースを受講してください。
なお、エンリッチド・エア用のシリンダー(タンク)をレンタルする場合は追加料金がかかりますが、空気のシリンダーレンタル代にプラス、1,000円前後なのでコスト的に痛手ではない価格です。
海外ではエンリッチド・エアが主流な理由
エンリッチド・エアの発祥はアメリカと言われており、主にアメリカ海軍で利用が進められたことが大きな原因です。1990年後半からレクリエーショナルダイビング(趣味としてのダイビング)として広まり、日本には1998年に入りました。
減圧症のリスクや身体の負担軽減などメリットが大きいことから海外ではあっという間に定着しましたが、日本で広がりはじめたのはここ数年です。当初は空気に比べてコストがかかり、講習や器材の買い替えなどハードルが高かったことが、日本に定着しなかったと言われています。
ちなみに筆者は15年以上前にエンリッチド・エアのコースを受講し、使用できるダイビングサービスが少なく使用する機会がないまま2年ほど経過。海外にいった際に、ほとんどのダイバーがエンリッチド・エアで潜っている光景を見たときは驚愕しました。
メリットとデメリット
エンリッチド・エアは、以下のようなメリットがあります。
*減圧症のリスク軽減
*潜水可能時間の延長
*ダイビングスポットの幅が広がる
*疲労が軽く感じる(科学的根拠はなし)
一番のメリットはやはり「減圧症のリスク軽減」です。通常の空気に比べて窒素の割合が少なく、減圧症のリスクがより低くなります。
減圧症についての詳細はこちらの記事をぜひご参照ください。
上述と重なりますが、浅場での潜水時間が延びることで、余裕を持った安全なダイビングが可能に。海外ではエンリッチド・エアを使用しているダイバーと、そうでないダイバーとチームを分けてガイドするダイビングスポットを変えるほど、案内できる幅が変わります。
また、現時点では疲労軽減効果に関する科学的証拠は得られていないものの、多くのダイバーが主観的に疲労の軽減を感じており、特に車移動のダイバーに好まれる傾向にあります。
筆者が現役時代、日帰りでのダイビング時はエンリッチド・エアを希望されるお客様が増えはじめたなと印象がありました。
筆者自身も、日中ダイビングをし、ショップに戻りそのまま夜まで器材の接客やダイビングツアーの受付を行っておりましたが、エンリッチド・エアを使用しているときのほうが疲労感が少なく、とても助かっていました。
ただ、エンリッチド・エアは万能なわけではなくデメリットもあります。
*酸素中毒の危険性
*深場のダイビングNG
窒素の割合が少なくなることから減圧症のリスクは軽減されますが、酸素の割合が多くなるので、パーセンテージや水深によっては酸素中毒のリスクが高まってしまいます。当日担当するインストラクターと、しっかりとしたダイビング計画を作りましょう。
空気よりも深場で酸素中毒になる可能性が高くなるため、深場のダイビングスポットでの使用は避けてください。使用するイメージとしては以下のような流れです。
エンリッチド・エアを使用するための必要スキル
エンリッチド・エアを安全に使用するために、必ず講習を受けましょう。各団体でコース名や金額は異なります。エンリッチド・エアの取得を考えている方は、受講予定のダイビングショップや団体のWebサイトにて確認してください。
またこちらも団体によって異なりますが、受講は4時間前後の座学が必要とされており、オンライン学習を選択できる団体もあります。インストラクターと海での実践が推奨されているので、約2日間あれば取得できるイメージで予定を組みましょう。
例えば、沖縄のダイビングショップでエンリッチド・エアのコースを取得する場合、「旅行までにオンラインで自宅学習し、現地到着日にインストラクターと陸でシミュレーション、翌日実際にエンリッチド・エアのシリンダーで2本ダイビング」といったような流れが人気です。
エンリッチド・エアを使用することで、呼吸方法が変わるとか、中性浮力(水中でのバランス)が取りづらくなるとか、そういった変化は特になく、通常のダイビングと同様に楽しむことができます。
ただ一番気をつけていただきたいのが、ダイブコンピューターの設定です。この設定を間違えると、減圧症のリスクが格段に上がります。ダイブコンピューターの設定間違えを起こさないためには、講習時から自身のダイブコンピューターでの操作に慣れるということが重要になります。
レンタルがダメということではありませんが、借りるたびに設定や操作方法を調べたり聞いたりする必要があり、大変面倒で、安全面でもよくありません。
ダイバーにとってダイブコンピューターはレギュレーターと同じくらい大事なものなので、レンタルの方は、エンリッチド・エアの講習前にダイブコンピューターの購入も検討されることをおすすめします。
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ライター
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マリンスポーツのジャンルを得意としたwebライター。海遊びの楽しみ方やコツを初心者にも伝わるよう日々執筆活動中。スキューバダイビング歴約20年、マリンスポーツ専門量販店にて約13年勤務。海とお酒と九州を愛する博多女です。