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店頭での米不足や値上がりが話題になっている昨今、毎日の食事に占めるお米の存在の大きさを再認識された方も多いのではないでしょうか。この記事では、お米の生産場所である田んぼに焦点をあて、豊かな自然環境親子でできる体験活動についてご紹介します。

田んぼでの自然体験をおすすめする3つの理由

田んぼでの体験の魅力は、誰でも簡単に豊かな自然を実感できることです。田んぼには、山や海、川原などとは異なる独特な生態系が成り立っており、多様な生きものが存在しています。

初夏は田植え、秋は稲刈りなどの作業に参加することで、誰でも田んぼの生きものに触れることが可能です。また、自然環境と食とのつながりを学べる貴重な場でもあります。

以下に、3つの理由について具体的にご説明していきます。

多様な生きものに出合える

田んぼは、田・畔・水路など利用方法が異なる要素がモザイク状に組み合わさった環境であり、それぞれの場所に適応した生きものが棲んでいます。

稲を植える田の部分は、毎年水がためられ、乾かされ、土が耕され混ぜられる、変化の激しい場所です。水路には、田の水位を調整するために常に緩やかな流れがあり、畔や斜面は人が通れるように定期的に草刈りされます。

田んぼで命をつないでいるのは、毎年ひっかき回される田・緩やかな水流・土の斜面・明るい草地・年中枯れないため池など、独特な環境を利用する多様な生きものたちです。

田んぼで活動していると、ほかではなかなか出合えないような生きものが次々に姿を見せてくれます。

親子ともに楽しみながら学べる

広々とした空の下、日常生活を離れ自然豊かな田んぼで一日を過ごすと、癒されるのはもちろん、さまざまな学びを得られます。稲作体験は、食材が大地と水と人の労働によって生み出されていることを、五感を通して理解できる絶好の機会です。

田植えや稲刈りなどの作業は単純な肉体労働ですが、みんなで協力してコツコツと積み上げた成果を目にすると、達成感と爽快感を味わえるでしょう。子どもにとっては危ない作業もあるかもしれません。しかし、大人に見守られながら参加して「自分もみんなの役に立った」と実感すれば自信につながります

もちろん、生きもの探しに夢中になるのもおすすめです。子どもたちの楽しそうな歓声が聞こえるだけで、雰囲気がなごみ大人にとっても作業の励みになります。

田んぼでの活動に没頭したあとは、体は疲れても心は癒され、親子それぞれに学びがあり充実感で満たされるでしょう。

母と子だけでも安心して活動できる

山の中では、イノシシやクマに出合ったり道に迷ったりする危険がある一方、田んぼは人の生活圏内にあり、集団で作業するので比較的危険が少ない環境といえます。

深いため池や水路、背丈を超えるような段差がある場合は注意が必要ですが、危険ポイントを押さえていれば、お母さん一人で子どもを連れて行くことも可能でしょう。

さらに、田んぼの作業は協力しながら進むので、周りの人に気軽に教えてもらったり、助けてもらったりできます。安心と安全を確保しながら自然を満喫したい人にも、田んぼの作業はおすすめです。

田んぼの活動のために押さえておきたいポイント

田んぼの活動に参加したい場合、米の生産を最優先とするのではなく、自然環境を守るために市民の力を必要としている場所を探しましょう。

田んぼは個人の財産であり生産の場であることがほとんどなので、体験できる場は多くありません。

一方で、農業従事者が高齢化し減少するなか、生産効率が悪く利用しにくい場所がどんどん放棄されているのも事実です。放棄される田んぼは、自然環境の面からは価値が高く、保全地域や自然公園として公的に守られている場合があります。

ここでは活動できる田んぼの探し方や選び方、参加する際の身支度についてご紹介します。

活動できる田んぼの探し方・選び方

稲作には水が必要なので、田んぼは川から水を引ける平野や、山に降った雨を利用できる山際の湧き水の近くに存在します。

効率的な生産に向かないのは「谷津田(やつだ)」といわれる山際の田んぼです。一年中水が枯れない湿地で、傾斜があり、機械が入れないことが多いので、圃場整備された平野の田んぼと比べて多くの労力がかかります。

しかし、昔から脈々と利用され続け、田んぼ特有の生きものが残されているのも、この谷津田なのです。

谷津田は、山や丘陵と平野の境目あたり、平野が山に入り込んだような地形の場所に存在します。そのような場所に保全地域や自然公園がある場合は、地域内で田んぼ環境を守っている可能性が高く、サポーターを募集している場合があるので探してみてください。

さらに、田んぼの環境や生きものの保全を目的とした付加価値のついたお米も、広く販売されています。その生産地で、稲作体験が提供されていないか探してみるのもひとつの方法です。

関東地方の場合、田んぼの作業はだいたい次のような流れになります。

4月初旬  苗床に種まき
5〜6月 田植え
7〜8月 雑草取り・草刈り
9〜10月 稲刈り
10〜11月 脱穀

特に田植えと稲刈りは人手が必要なので、アクセス可能な場所で参加者を募集していないか情報収集してみましょう。

田んぼの作業のために必要な準備

田んぼでは、全身泥だらけになる覚悟が必要です。ちくちくする草の葉や虫刺されから身を守るためには、汚れてもいい長袖長ズボンを用意するのが基本となります。なお、ラッシュガードのような素材の服は、綿などに比べて泥を落としやすいのでおすすめです。

また、重要なのは足回り。田んぼの泥の中を普通の長靴で歩こうとすると、長靴が泥から抜けなくなることがあります。サンダルや川遊び用の靴は、役に立ちません。

田植えのときや一年中水が抜けない田んぼでの作業には、農作業用の脚に密着する長靴、あるいは地下足袋をおすすめします。購入を迷う場合は、素足に長めの古靴下をはけば大丈夫。

草刈りや稲刈り、ハザかけ作りなど道具を使う作業には、滑り止めのついた軍手があると安心です。

最後に、帰り道のため、大人も子どももタオルと着替え、靴の替えが必要です。車を利用する場合で汚したくない人は、車内に敷く新聞紙やレジャーシートをご用意ください。

生物多様性の保全と田んぼの価値

田んぼは単なる稲の生産場所ではなく、多様な生きものを育んでおり、日本の自然環境には欠かせない場所です。

日本に稲作が伝来して以来、稲作のサイクルと環境に適応した生きものが田んぼで命をつないできました。環境省の調査によると、近年、農地・草原など開けた環境を好む鳥やチョウの数が大きく減っていることが報告されています。

メダカ、サンショウウオ、ゲンゴロウなどは既にRDB(※)に記載されていますが、スズメやイチモンジセセリのような普通種が将来絶滅危惧種になる可能性があるのです。

田んぼを守ることは、日本固有の生態系を守ることに直結するといっても過言ではありません。

※:レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)に掲載された種について、生息状況等をとりまとめて編さんしたもの

ここまで、田んぼの体験活動の魅力、稲作りに参加できる場所の探し方と作業のための準備についてご紹介してきました。

稲作体験として通年での参加者を募集するために、年度初めにのみ募集を受け付けている団体もあります。3月までに情報収集して4月の申し込みに備えられればいいですね。

今後も田んぼの四季や自然について発信して参りますので、どうぞご期待ください。

ライター

曽我部倫子

東京都在住。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、小さなお子さんや保護者を対象に、自然に直接触れる体験を提供している。

子ども × 環境教育の活動経歴は20年ほど。谷津田の保全に関わり、生きもの探しが大好き。また、Webライターとして環境問題やSDGs、GXなどをテーマに執筆している。三児の母。