日本で進む「部活の地域展開」や働き方改革に戸惑う保護者も多いのではないでしょうか。一方、スイスでは日本のような学校単位の部活動は一般的ではなく、子どもたちは地域に根ざしたクラブ(Verein)で、スポーツや交流を楽しんでいます。今回は、スイスで13歳の息子を育てる実体験から、年間約50フランで通える地域クラブの仕組みや「楽しさ」重視の理念、そして学校と地域を切り離すことで得られる「生活の余白」についてご紹介します。

放課後のチャイムと同時に「自分の時間」へ

部活、中学校

「今日、部活ある?」

日本ならごく自然に交わされるこの問いかけ。ところがスイスでは、そもそも「学校の部活」というものが一般的ではありません。放課後のチャイムがなると、生徒たちはそれぞれの予定に向かって学校を後にします。

私の住む地域では、幼稚園児から参加できるスポーツクラブ(Verein:フェライン)があり、子どもたちは学校とは別の場所で、スポーツや仲間との交流を楽しんでいます。

日本の部活文化との決定的な違い

実は日本でも現在、部活動のあり方が大きく変わろうとしています。

2026年度から2031年度までの6年間は、部活動を学校から地域クラブへと段階的に広げていく「改革実行期間」と位置づけられ、休日を中心に※地域展開が進められています。

スポーツ庁

つまり、日本の部活動は今まさに、「学校だけで担う」形から、「地域社会全体で担う」形へと変わりつつあるのです。これまで日本では、放課後や週末、時には早朝から、学校を拠点に同じ仲間と練習に励む「部活」が、青春の象徴として根付いてきました。

顧問の教員のもと、大会に向けてチーム一丸となって努力する。こうした文化は、強い絆や忍耐力を育む一方で、教員の長時間労働や、生徒の過密なスケジュールといった問題をかかえたのも事実です。

こうした背景から、日本でも休日の部活動を中心に、運営主体を学校から地域クラブへ移行していく動きが本格化しています。一方スイスでは、学校と地域クラブの役割が明確に分かれています。

スイスの中学校には「部活」がない理由

スイスでは、日本のように「学校の部活動に所属して、放課後に毎日練習する」というスタイルは見られません。

学校は基本的に学習の場であり、放課後のスポーツや文化活動は、学校の外にある地域のクラブが担うという、明確な役割分担が以前から定着しているからです。

そのため、子どもたちは自分の興味がある地域のクラブを選んで、通っています。学校と地域、勉強とスポーツ。それぞれの役割を分けることで、子どもたちの放課後には別の選択枠が生まれているのです。

スイスの「地域スポーツクラブ(Verein)」の仕組み

部活、中学校スイスには「フェライン(Verein)」と呼ばれる地域密着型のクラブが、サッカーやアイスホッケー、体操、バイクなど、あらゆるスポーツ種目にわたってあります。

幼稚園生から参加できる手頃な受け皿

私の住む地域でも、「子ども体操(Kinderturnen)」といった幼稚園児から参加できるプログラムがあります。年会費は50〜100フラン(約9,900〜19,800円)程度。特別な選抜を受ける必要もなく、地域の子どもたちが気軽に参加できます。

「将来選手になるため」ではなく、まずは体を動かして楽しむ。そんな入り口が用意されていることも、地域クラブの魅力のひとつだと感じています。

結果よりも「楽しさと喜び」を大切にする

もちろん、スイスのクラブにも大会や試合があります。ただ、私が息子のクラブ活動を通して感じてきたのは、勝敗や記録だけではなく、まず「楽しさ」や「体を動かす喜び」が大切にされていることです。

大会に出る子もいれば、純粋にスポーツを楽しむ子もいる。運動が得意な子も、そうでない子も、それぞれのペースで参加できます。そのため、「上手にならなければ続けられない」というプレッシャーが少なく、長くスポーツを続けるきっかけにもなっているように感じます。

息子も4歳のころからクラブに週1回通い始め、13歳になった今も続けています。振り返ってみると、この9年間で身についたものは、運動能力だけではありません。「毎週決まった曜日に、決まった仲間と体を動かす」という習慣そのものが、生活のリズムをつくるひとつの柱になってきたように感じます。

大会の結果に一喜一憂することはほとんどなく、コーチからも「今日は楽しめた?」と声をかけてもらうこともあります。もちろん、技術の向上も大切ですが、「続けること」そのものに価値が置かれているからこそ、息子も無理なく続けてこられたんだと思います。

親の視点で見ても、幼稚園の頃は送迎があったり、年会費の支払いなどの負担はあるものの、「勝たせなければ」「レギュラーに入らなければ」という精神的な負担やプレッシャーは少ないように感じます。

プロを目指す子どもたちは、もっと強くなりたいという向上心の強い子どもを伸ばす専門学校も存在します。たとえば、チューリッヒには、公立でありながら学業とトップレベルのスポーツや芸術活動の両立を可能にする、公的な仕組みが整った学校(※Kunst und Sportschule Zürich)があります。

子どもの本気を支える環境が、地域の外側にもしっかりと用意されています。

Kunst und Sportschule Zürich

学校の枠を超えた出会いと、地域に根ざした場所

部活、中学校地域クラブのもう一つの大きな価値は、異なる学校に通う子どもたちが自然に交じり合う場になっているという点です。

他校の子どもたちとつながる「第3の居場所」

学校ではほとんどの時間、同じクラスや同学年の仲間と過ごします。一方、地域クラブには別の学校に通う子ども達も集まります。学校という枠組みを超えて、同じ地域に住む他校の子どもたちとの交流の場にもなっており、子どもたちにとっては「学校」でも「家庭」でもない、第3の居場所として機能しています。

さらに、クラブにはコーチだけでなく、他の子どもの保護者や地域のボランティアなど、学校とは違う立場の大人たちも関わっています。子どもたちにとっては、先生でも親でもない大人と接する機会にもなり、学校という枠だけでは得られない多様な人間関係が自然に広がっています。

競技大会から「青少年の旅」「クリスマスツリー販売」まで多様な体験

クラブの活動は、純粋な競技大会だけではありません。

夏には「青少年の旅(Jugendreise)」と呼ばれる合宿旅行が企画されたり、年末にはクラブの運営資金集めを兼ねた「クリスマスツリー販売」を子どもたちが手伝ったりと、地域コミュニティ全体を巻き込んだ多様な行事が用意されています。

こうした活動を通じて、子どもたちは技術の向上だけでなく、地域社会の一員としての経験も積んでいきます。

「部活がない」からこそ手に入る、生活の余白

部活、中学校これまで見てきたように、スイスの子どもたちの放課後は「部活」ではなく地域のクラブが支えています。学校がスポーツ指導まで抱えないことで、学校にも家庭にも、日々の暮らしの中に「余白」が生まれると感じています。

朝練も過密スケジュールもない、教員と家庭双方の負担軽減

スイスの学校生活では、日本の部活動で見られるような早朝の朝練はほとんどありません。息子のクラブの活動も、週1回ほどで時間も限られているため、日々の生活には十分な「余白」が残されています。

教員にとっても放課後のクラス指導を抱え込む必要がなく、授業準備や本来の教育活動に集中する環境が整うのではないでしょうか。一方で、放課後に時間的な余白が増えることで、「子どもがスマホやゲームばかりになるのでは?」という心配の声もあるのも事実です。

正直なところ、わが家の周囲の家庭を見渡しても、Youtubeを見る時間やゲームをする時間が増える側面は否めません。しかし、そうした現実と向き合いながら、スイスの親たちが意識しているのは「余白の中で、いかに自分と時間の折り合いをつけるか」ということです。

スクリーンタイム(画面を見る時間)に家庭ごとのルールを設けつつも、親たちはこの「何も予定のない時間」を単に無駄な時間とは捉えていません。画面から離れた時、家で本を読んだり、手作業に没頭したり、友達と出かけたり、家庭でのちょっとしたお手伝いをしたりと、思い思いの時間を探しています。

「大人が用意したスケジュールで埋め尽くさない」からこそ、デジタルとの付き合い方も含め、子ども自身が自律的に時間を使う練習になっているのではないかと感じています。親にとっても過密な送迎やサポートに終われないぶん、心にゆとりを持って子どもと向き合えるメリットがあるのではないでしょう。

「学校」と「地域」の役割分担(職務の明確化)が生む安心感

「学校」と「地域」で担う役割が明確に分かれていることは、単に負担が軽くなるというわけではありません。

教員は教育に、クラブのコーチはスポーツの指導や、子どもが楽しめる環境づくりに集中できるのではないでしょうか。保護者にとっても「学校の先生に放課後の時間までお願いする」という発想がそもそもありません。

もし、クラブの方針やコーチとの相性が合わなければ、別のクラブや種目を探すこともできます。それも、地域に活動の場があることのメリットかもしれません。

部活のないスイスでは、放課後は子どもにとって「自分の時間」。地域のクラブ活動で他校の仲間や大人と出会い、成果より楽しさを軸に育っていく。学校と地域の役割分担がはっきりしているからこそ、教員も家庭も抱え込まず、暮らしに余白が生まれるのだと思います。地域展開へと舵を切り始めた日本の部活文化にとって、スイスの地域クラブはひとつの先行事例として見つめ直すヒントになるかもしれませんね。

アルパガウス 真樹

ライター

アルパガウス 真樹

スイス在住の40代主婦。息子とスイスの自然を楽しみながら、さまざまなアクティビティに挑戦。夏は森の中でのBBQやハイキング。海のないスイスでは、湖水浴が定番なので、夏季は湖沿いで過ごしたりSUPを楽しんだりしています。現地からスイスの自然との触れ合いをお届けします。