イタリア在住の筆者が日本へ帰省する際、欠かさず持参するのが5リットルのオリーブオイルです。その理由は、日本の新鮮な食材をシンプルに、よりおいしく食べるため。イタリアでは調味料に頼らず、塩とオリーブオイルだけで素材を引き立てるのが日常。料理が自慢の母をもうならせた、その魅力と使い方を紹介します。
イタリア流、素材と向き合う暮らし方

わが家の冷蔵庫を開けると、調味料としてあるのはマヨネーズとケチャップのみ。登場するのは、自宅でハンバーガーを楽しむときだけです。普段の料理の味付けは、オリーブオイルと塩がベース。「そんなシンプルな味付けで飽きないの?」と日本の友人によく聞かれますが、素材の選び方と少しの工夫で、毎日の食事は十分に楽しくなります。
野菜も肉も魚もオリーブオイル+塩がベース
一般的な750ml入りのオリーブオイルを、わが家は2週間ほどで消費します。パスタなどの料理に使うだけではなく、スープやサラダにも惜しみなくふりかけます。
ちょっといいお肉を奮発したら、オリーブオイルと塩でシンプルに。立派な鯛を買った日は、ジャガイモと一緒にグリルして、香ばしく。野菜サラダには、お酢をきかせたドレッシングでさわやかに。あらゆる食材をオリーブオイルと塩でいただきます。
以前は日本に里帰りすると、焼き肉のタレや麻婆豆腐の素などを買っていたのですが、ここ数年はそうした市販の調味料とは縁が切れました。理由は、ほとんどの料理がオリーブと塩で成立するうえ、飽きることのないおいしさが生まれるからです。
イタリアでは、バーベキューにもオリーブオイルを持参します。グリルしたパン、肉、野菜、それらをすべてオリーブオイルと塩で食べるのが定番です。
「生野菜を食べる」習慣もオリーブオイルがあってこそ!
イタリアでは、新鮮な野菜に良質なオリーブオイルをかけて味わう習慣が古くから親しまれてきました。社会人類学者クロード・レヴィ=ストロースも著書『食卓作法の起源』のなかで、イタリア料理の普及が“生で食べる”というスタイルを広く知らしめたと記しています。
“生野菜=サラダ” という食べ方が世界に浸透した背景には、日常的に上質なオリーブオイルを使うイタリアの食文化が大きく影響したと考えられます。オリーブオイルが野菜の味を引き立てるからこそ、このシンプルな食べ方が暮らしの中で受け継がれてきたのでしょう。
「豊かな日本」と「素朴なイタリア」の違い
日本のスーパーマーケットで目を引くのは商品の多さと新製品の入れ替わりの早さ。それに対してイタリアでは、目新しさよりも 「旬の素材をどう生かすか」 が重視されます。「○○の素」のような調味料はあまり普及しておらず、ジェノベーゼペーストやボトル入りのソースがある程度。それさえも敬遠する人が多いのが実情です。
つまり、イタリア人は、塩とオリーブオイルで素材をじっくり味わうのが大好きなのです。
料理自慢の母をうならせた!今すぐトライできるオリーブオイル活用法

日本の里帰りに必須のお土産、それがオリーブオイルの5L缶です。実家の母が仰天したのは、その量だけではありません。私が作ったオリーブオイルと塩だけの料理を前に「こんなの簡単すぎて料理と呼べないじゃない!」と、そのシンプルさに初めは少々ご不満の様子。
ところが、ひと口食べると「あら、これからはこの食べ方にするわ」と、すっかり納得。そんなわが家のエピソードから、今日からでも始められるおいしいオリーブオイル活用法やレシピを9つ紹介します。
トマト|オイルと塩で“青臭さが消える”簡単マリネ
母の友人にまで伝播した食べ方がこちら。
ボウルにオリーブオイルをたっぷり入れ、塩を加えます。ニンニク1片(半分にカット)、バジルの葉を加えるとさらにおいしくなります。あとはカットしたトマトを入れて和えるだけ。
生のトマトは青臭くて苦手だった母ですが、いまでは毎日この方法でトマトをおいしそうに食べています。こんがり焼いたフランスパンに載せるのもおすすめです。
カボチャ|香ばしさが子どもたちにも人気のグリル
母が腕によりをかけて作るかぼちゃの煮物を孫たちは敬遠。そこで私が、薄くカットしたカボチャにオリーブと塩をかけ、180℃のオーブンで15分ほど加熱。イタリアではローズマリーの葉を散らすこともあります。
カリッと仕上がるこの料理、子どもたちにも好評でした。いつもは煮物にして余らせてしまうカボチャが、あっという間になくなりました。
ポテト|少し焦げ目をつければさらにおいしいシンプル料理
子どもも大人も大好きなポテトは、オリーブオイルと塩をしっかり絡めてオーブンへ。
ポテト1kgならば180℃で30分を目安に調理します。つぶしたニンニク数片と、生のローズマリーを散らすと、見た目も味わいもレベルアップ。各家庭のオーブンによって温度や調理時間は異なりますが、少し焦げ目がつくくらいがおすすめです。ホームパーティーでも活躍してくれる一品で、子どもたちもぺろりと食べてしまいます。
インゲンマメ|夏においしいレモンの酸味がきいた一品
娘が幼少時から大好物のインゲンマメ。山盛りを、オリーブオイルと塩、レモンの搾り汁をかけて食べていました。コツは、柔らかめに茹でること。わが家ではこの方法で、1人200gのインゲンマメを食べきります。
サラダ|野菜とオリーブオイル双方の滋味を実感!
ドレッシングが存在しないイタリアでは、サラダの味つけはオリーブオイルが基本です。塩とヴィネガーを加えますが、娘は塩の代わりに醤油を、夫はオリーブオイルとヴィネガーのみがお気に入り。
母もこの食べ方を知ってからは、ドレッシングを使わなくなりました。ときには塩の代わりに削ったパルミジャーノレッジャーノチーズをかけて食べています。
パン|おやつとしても、小腹が空いたときの一口にも
イタリアのオリーブオイル専門店に行くと、たいていはパンにあわせて味見をさせてくれます。固めのパンを薄く切り、オリーブオイルと塩をかけて食べる方法は、日本のお茶漬け感覚。
バーベキューではグリルでパンに焦げ目をつけて、ニンニクを擦り付け、オリーブオイルと塩をかけて食べます。イタリア人の祖父母が「お腹が空いた!」とおやつをせがむ孫に与えることもよくあります。
スープ類|具沢山のスープにアクセントとして
イタリアのスープは具沢山です。野菜たっぷりのミネストローネ、豆類のスープが定番。スープをお皿に盛ったあとに、オリーブオイルをひとふり。ふわっとオリーブオイルが香り、スープの味わいにアクセントがつきます。
肉|おいしいお肉は究極のシンプリシティで
トスカーナが誇るビステッカ・フィオレンティーナ(フィレンツェ風ステーキ)のお店に行くと、お肉と一緒に提供されるのはオリーブオイルと塩。バーベキューのお肉も同様。好みによって、キュッとレモンを絞ることもあります。
日本の和牛は、「WAGYU」と表記され、世界的なブランドとして知られています。繊細でとろける味わいの和牛こそ、オリーブオイルと塩というシンプリシティで堪能したいものです。
お菓子作りもオリーブオイルで|ワインとともにお菓子を楽しむ
洋菓子といえばバターを使うイメージがありますが、イタリアではお菓子にもオリーブオイルがよく使われます。私が住む町の名物、素朴な固いビスケットもそのひとつ。ワインに浸していただくのが定番です。
イタリアのビスケットは、カプチーノなどのコーヒーだけでなく、ワインと合わせて楽しむ文化があります。ヴィンサントなどの甘口のデザートワインに浸すことを前提にしてるため、ビスケットの生地は軽やかなオリーブオイルでまとめます。ライトな口当たりは素朴ですが、ワインと合わせると、とても新鮮です。
ライター
cucciola
ヨーロッパの片田舎で家族と3人暮らし。
学生時代に都会の生活で心を病んで以降、スローライフとスローフードで心身の健康を維持。気が向くまま、思いつくまま、風まかせの旅行が多数。
アートと書籍を愛するビブリオフィリアで1人の時間が大好き。