海水浴や潮干狩り、磯遊び―。家族で楽しんできた海辺の時間が、いま少しずつ失われつつあります。原因のひとつは、地球温暖化による海面上昇。このまま進めば、親子での夏の思い出が過去のものになってしまうかもしれません。本記事では、海面上昇が日本の海辺にもたらす影響と、私たちができる取り組みについて紹介します。

海面上昇とは?

海面上昇 日本 ツバル

海面上昇とは、地球規模で海の高さが少しずつ上がっていく現象のことです。

原因は大きく2つあります。1つは地球温暖化によって北極や南極の氷河・氷床が溶け、海に流れ込む水が増えること。もう1つは、水温の上昇で海の水そのものが膨張することです。

国連の専門機関であるIPCC(※)によると、1901~2018年の間に世界の平均海面はすでに20㎝以上高くなりました。さらに、上昇のスピードも加速していて、1900年代には年間約1.3mmだったのが、2000年代にはおよそ2.8倍の3.7mmに達しています。

太平洋にある島国ツバルでは、国土の大部分が海抜数mしかなく、高潮や浸水の被害が日常の心配事になっています。国そのものの存続も危ぶまれ、国外への移住を希望する国民が9割を超えるというニュースが日本でも報じられました。

こうした海面上昇は世界中で同時に進んでいて、日本のビーチや干潟(ひがた)も無関係ではありません。海水浴や潮干狩りで訪れる海辺の環境が、徐々に狭くなっていくこともあり得るのです。

※IPCC…気候変動に関する政府間パネル。世界の科学者や各国政府が協力し、気候変動に関する最新の知見をまとめる国際的な組織。

海面上昇の日本への影響

海面上昇 日本 ツバル

日本周辺の海面も、1980年代後半から上昇しており、2006~2018年の間には1年あたり約3.4mmのペースで海面が上昇しました。日本は海に囲まれた島国です。このままのペースで海面上昇が続くとどのような影響があるのでしょうか?

ここでは、アウトドアレジャーへの影響を中心に紹介します。

砂浜への影響(海水浴場)

青い海を眺めながら広々とした砂浜で遊ぶ時間は、家族にとって特別な思い出です。しかし戦後以降、日本の砂浜は減少傾向にあります。上流のダムによる土砂の堆積や、河川での砂利採取で、海岸へ届く土砂が減ったことなどが原因です。

さらに海面上昇で水没するだけでなく、波の侵食が強まることで砂浜はますます狭まると指摘されています。家族でレジャーを楽しめる砂浜が、今以上に減ってしまうかもしれません。

干潟と磯への影響(潮干狩り・磯遊び)

海面上昇 日本 ツバル

春先の潮干狩りも、海面上昇に影響を受けやすいレジャーです。干潟は潮が引いた時に現れますが、海面が高くなると干潟が出る範囲が狭まり、貝が育つ環境も減ってしまいます。

生きものの宝庫である干潟が減少すれば、海の豊かな自然に触れるチャンスが失われてしまうでしょう。

磯遊びも同様です。かつては安全にカニやイソギンチャク、ウニを観察できた岩場が、常に波にさらされる危険な場所に変わる恐れがあります。

暮らしとインフラへの影響

海面上昇の影響は、海辺のレジャーだけにとどまりません。国土交通省の資料によれば、日本の港湾や空港、幹線道路など、多くの重要インフラは海に近い低地に集中しています。

わずか数十センチの海面上昇でも、台風時の高潮や大雨による浸水リスクを大きく高める恐れがあります。住宅地や工業地帯が浸水すれば、物流の停滞やライフラインの断絶につながり、日常生活にも直結します。

海面上昇は、どこか遠くで起きている話ではなく、私たちの暮らしや経済活動そのものに影響を及ぼす問題なのです。

海面上昇を起こさないための取り組み

海面上昇 日本 ツバル

海の自然を安心して体験できる場所が、これ以上失われないようにしたい―そのためには、地球温暖化の進行を止めることが求められます。地球温暖化は、私たち一人ひとりの活動の結果として生じている問題です。

一方、子どもたちを必要以上に怖がらせてしまわないよう、配慮も必要です。ここでは、日本の取り組みや個人でできること、子どもへの伝え方について解説します。

国の取り組み

政府は地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を減らすため、エネルギーの転換や技術革新を進めています。日本は2050年カーボンニュートラル(※)を掲げ、石油に依存した社会経済を見直し、再生可能エネルギーの導入拡大や電気自動車の普及促進を行っています。

さらに、すでに進行している海面上昇に対応するため、国土交通省では高潮や浸水リスクの高い地域で堤防や防潮堤の整備を進めています。また、港や空港といった海に近いインフラについても、気候変動を前提とした設計や運用の見直しが行われています。

※カーボンニュートラル…人間活動による温室効果ガスの排出量と、森林吸収や技術による除去量を差し引いて「実質ゼロ」にすること。

家庭や個人でできること

「1971年以降に観測された海面上昇は、人間活動が主な原因である可能性が非常に高い(IPCC)」とされていますが、私たちの行動で未来は変えられるのもまた事実です。

日々の暮らしのちょっとした工夫で、温室効果ガスの排出は無理なく減らせます。ここでは、親子で取り組めるアクションを紹介します。

親子で取り込めるアクション
  • 節電、節水をこころがける
  • 移動には公共交通機関や自転車などを積極的に利用する
  • 環境に配慮された商品やサービスを選ぶ
  • 必要なもの以外は買わない
  • ものを大切に使う
  • ゴミは分別し、リユース・リサイクルする
  • 食事は必要な分だけ作り、残さず食べる
  • サステナブルファッション(※)を選択する

※サステナブルファッション…環境や社会に配慮し、素材選びや生産・流通・廃棄までの過程で持続可能性を重視したファッションのこと

小さな行動でも、一人ひとりが継続することで積み重なれば、地球の未来を変える大きな力となるはずです。

子どもに伝える工夫

地球温暖化や海面上昇のニュースには、大人でも不安を覚えます。子どもに過剰な恐怖を与えないよう、注意が必要です。子どもの不安や疑問には、年齢や個性に合わせて丁寧に説明してあげましょう。

予測される海面上昇の被害を防ぐため、インフラ整備も進んでいます。また、悪天候や海が荒れている時には海に近づかない、必要な場合は安全なところに避難するなど、常識的な行動でリスクは減らせます。

出かける際には、万一の時の行動についても親子で話題にすれば、身を守るスキルが高まるでしょう。

「地球温暖化は自分のせいかもしれない」と思ってしまう子どがいるかもしれません。しかし、現在の気温上昇は過去に排出された温室効果ガスの積み重ねによるものです。未来の温暖化を防ぐ行動すればよいことを伝えましょう。

家族でできる具体的なアクションについて話し合い、問題を解決するために前向きに行動していれば、少しずつ不安は和らいでいくはずです。

このままでは、海面上昇によって砂浜や干潟、磯といった魅力的な場所が失われるかもしれません。けれども、私たち一人ひとりの小さな行動の積み重ねは、日本の海の自然を守る力になります。悲観しすぎず、未来の世代も海辺で遊べるよう、いま私たちにできることから始めましょう。

参考記事
ツバル、豪移住へ9割超申し込み 海面上昇、国家存続危機も | NEWSjp
砂浜保全に関する中間とりまとめ|津波防災地域づくりと砂浜保全のあり方に関する懇談会
海洋の健康診断表 日本沿岸の海面水位の長期変化傾向|気象庁
港湾における気候変動適応策の実装方針|国土交通省

曽我部倫子

ライター

曽我部倫子

東京都在住。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、小さなお子さんや保護者を対象に、自然に直接触れる体験を提供している。

子ども × 環境教育の活動経歴は20年ほど。谷津田の保全に関わり、生きもの探しが大好き。また、Webライターとして環境問題やSDGs、GXなどをテーマに執筆している。三姉妹の母。