スキーで大切な荷重位置
誰かからスキーを習ったことがあるほとんどの方は、「前体重で」「母指球に力を入れて」などのアドバイスを受けたことがあるのではないでしょうか。
決してその指導は間違っておらず、ゲレンデを見渡しても、ビュンビュン滑っている人でいわゆる「へっぴり腰(後ろ重心)」のスキーヤーは見かけない印象がありますよね。
初心者の方にしろ指導をされる方にしろ、「前体重」が良いのは分かっているけど、「前体重にして」という言葉だけでは良い滑りにつながらないのが、雪の上を滑るスキーの難しさでもあり面白さでもあります。
どうして前体重なの?
そもそもなぜ「前体重」が必要なのか。そもそも「前体重」とは何か。これらについて考えてみましょう。
まず、スキーで言う「前体重」とは、前傾姿勢をイメージすることが多いですよね。では、なぜ前傾姿勢が必要なのでしょうか。
【前傾】からだを前に傾けること。また、前に傾くこと。(広辞苑より)
上述のように、前傾とは文字通り前に傾くことです。斜面において前に傾く意識を持つことで、よりスキー板に対して垂直に乗ることができるからで、スキー板の操作がしやすいといわれています。
実際に斜面で前傾するわけではないのです。スキー指導の際に使われる前傾姿勢とは、斜面に垂直という意味だということが分かったでしょうか。
本当に斜面で前傾することができたら、とても勇気あるスキーヤーですよね!
初心者の上達過程を追う
これまでに考えてきた体重のかけ方について、スポーツ科学の研究においてはどのようなことが分かっているのでしょうか。
プルークボーゲンから初級パラレルターンへの習熟過程を調べた研究では、
1)屈曲動作において、踵荷重では股関節の屈曲角度が大きく(股関節屈曲型)、母指球荷重では足関節の屈曲角度が大きく(足関節屈曲型)、また土踏まず荷重ではその中間の姿勢(中間姿勢型)であった。
2)伸展動作において、踵荷重では後方真上への伸展、土踏まず荷重では真上への伸展、また母指球荷重では斜め前方への伸展動作が見られた。(山岸ら, 1996, p526)
引用:山岸俊樹・関矢貴秋・三浦望慶(1996)スキーにおけるプルークボーゲンから初級パラレルターンへの習熟過程. 日本体育学会大会号, 47(0):526.
とあり、水平な場所において、体重のかけ方によって曲げ伸ばしの方法が異なることが報告されています。
以上のことから、前傾姿勢を維持したまま曲げ伸ばしを行いたい場合、母指球荷重で足関節(足首)での屈曲・伸展動作を行うことで前傾姿勢を保てることが分かりますね。
また、雪上実験においては、後倒・後傾型から中間型、そしてパラレルターン習得後まで習熟過程が進むにつれて、荷重位置の意識が踵から土踏まずに変化したことを報告しています。
つまり、先ほどの荷重位置の意識が実際の動作に影響を及ぼしており、踵よりも前よりの荷重が上達には重要なことが分かっています。
指導につなげよう!
荷重位置の研究をもとに、より理解しやすい言葉で「前体重で滑る」を表現してみました。
「傾斜のある雪上で、スキー板に垂直乗るためには前傾姿勢が欠かせません。母指球に体重を乗せ足関節(足首)で屈曲することで前傾姿勢をとることができ、パラレルターンの習得にも効果があります。」
いかがでしょうか?少し回りくどい感じがしますね(笑)。しかし、多少は初心者の方でも理解しやすくなったのではないでしょうか。
少しでもそう感じてくださる方がいれば幸いです。