別々に発生した水上スポーツの2大イノベーション
ウイングフォイルを構成する“ウイング”と“フォイル”は、別々のイノベーションとして水上スポーツシーンで発生しました。
ウイングはウィンドサーフィン界のキングと呼ばれるロビー・ナッシュの手によって2019年にハワイで誕生し、インフレータブル・サーフウイングとしてすぐに商品化されたのです。
一方のフォイルは、2000年代後半にハンドメイドで作られるニューアイテムとしてハワイ・マウイ島で誕生しました。
その後、2017年に国際ヨットレースの最高峰アメリカズカップにおいて、その使用艇に採用されたことにより、急速にマリンスポーツ全体に広がり、2019年から世界中で本格的な商品化が始まったのです。
ウイングとフォイルの関係とは
ウイングとフォイルは、それぞれが独立したアイテムですが、深い関係性があります。
ロビー・ナッシュがウイングを開発したきっかけは、先に注目され始めていたフォイルのムーブメントが、ウィンドサーフィンそしてSUPにも及んだことでした。
スピードが出せるウィンドサーフィンでフォイルで浮上することは訳ないことですが、人力でパドルするSUPやサーフィンでは、なかなか浮上スピードに到達しません。
ロビー・ナッシュが生み出した「ウイングフォイル」
自らがウィンドサーフィンやカイトなどのギアブランドを率いているロビー・ナッシュは、爆発的な流行が始まっていたSUPに対して、パドルに代わる推進力=もっとも知りぬいた風をセールやカイトではなく、もっと手軽に利用できないかと考えたのです。
そして到達したのがウイングだったのです。
2大イノベーションはこうして合体し、「ウイングフォイル」として産声をあげました。まったく新しいウォータースポーツの誕生です。
水上と水中、2つの翼でパフォーマンスする「ウイングフォイル」
ウイングフォイルは、フォイルという水中翼が取り付けられたボードの上に操縦者が立ち、ウイングというセール(帆)とカイト(凧)のちょうど中間のようなギアを持って風を受けて進むスポーツです。
一人でボードの上に立って操作する点は、ウィンドサーフィンやカイトボーディングと同じなので、風を利用した第3の水上ボードスポーツといえるでしょう。
ウイングフォイルの仕組みとは
「ウイング」と「フォイル」は、いずれも揚力という力を発生させ、それを利用するためのギアです。
揚力とは流れの中に置かれた板状の物体が受ける力の中で、流れの方向に垂直な力のことて、流れに対して角度をつけた時に発生します。
飛行機の翼や、ヨットやウィンドサーフィンのセール、カイトボーディングのカイトは、この力を推進力にして進んでいます。
ウイングフォイルにおいては、水上(陸上)に吹いている風がウイングに、水中の水の流れがフォイルに作用し、それぞれに揚力が発生します。
この水中と水上の2つの翼がウイングフォイルのパフォーマンスを生みだすのです。
メイン動力を生み出す水上の翼=ウイング
ウイングは風を捉えてその力を推進力にするメインエンジンです。
セールやカイトと同じように空気の流れ(=風)を捉えてパワーを生み出すので、直感的に理解できるのではないでしょうか。
最大の特徴は、骨組みなどに金属はもちろん、FRPさえもほとんど使用されていないインフレータブル(空気注入式)タイプであることから、極めて軽量なところです。
ウイングを引き込んで風をはらんだときは別ですが、風に流しておけば、女性でも片手で楽に持てるほどの軽さ。
また、カイトのように自分から大きく離れたウイングを操作するわけではないので、30mクラスの長さのライン(糸)の重量もありません。
浮上を担当する水中の翼=フォイル
フォイルは乗っているボードを水面から浮かせるための翼です。
水上スポーツにとって、いかに高いスピードで水面上を移動できるかということは、永遠の命題です。
その高いスピードの最大の障害の一つは、気体である空気よりも抵抗が大きい液体である水の抵抗、特にボードと水との衝突による抵抗です。
ボードを水面から浮かせてしまえば、その抵抗は劇的に減少します。
悪路を走る自動車よりも、空を飛ぶ飛行機の方が圧倒的に速いことと同じなのです。
ウイングとフォイル、それぞれ単独でも広がる大きな世界
ウイングとフォイルの2大イノベーションは、それぞれ単独でも大きな広がりを見せています。
陸上や氷上・雪上に広がる“ウイングスポーツ”
水上で風を利用するために生まれたウイング。
しかし、水上だけではなくスノーボードやスケートボード、インラインスケート、スキーやアイススケート、陸上や雪上、氷上の各フィールドでも、それに合ったボードなどとの組み合わせで利用が可能です。
単独でも大きな可能性を秘めているウイング
ウイングを使ったスポーツを一つのスポーツカテゴリーとして位置付けしたGWA(Global Wingsport Association)という国際協会も立ち上がり、先行するウォータースポーツではすでに種目も設定され、ワールドツアーがスタートしています。
さらに陸上・氷上・雪上などのスポーツでも、参加の動きを見せはじめています。
ウォータースポーツを激変させた“フォイル”
フォイル=水中翼によってウォータースポーツは激変しました。
ウエイクボードやボディボードとフォイルの組み合わせもチャレンジされ、ヨットはもちろん、車椅子の水上スキーでも行われるほどの広がりを見せています。
フォイル再注目のきっかけとなったメガヨットレースのアメリカズカップでは、フォイル艇で競うことが標準になっています。
さらに、ウィンドサーフィンのレース競技でもフォイルボードを使用するようになり、ワールドツアーのレギュレーションが変更されました。
また、オリンピックの使用艇も今までのボードではなく、フォイルボードに決定したことも激変の証です。