サステナブルな暮らしやエシカルファッションへの関心が高まるなか、あらためて綿(コットン)に注目する人も多いのではないでしょうか。衣料品から寝具、タオルまで日常に欠かせない綿ですが、実は国産品はほとんど姿を消しています。身近な素材だからこそ、エシカルな選択をして心地よいものを長く使いたい。そんな思いから、私は古くなった座布団を理想の形に蘇らせました。今回は、綿を打ち直して使い続けるという選択肢を紹介し、これからの綿とのつき合い方を探っていきます。
座布団を捨てない選択

畳の間に欠かせない座布団。日本の暮らしを象徴し、時には懐かしい思い出と結びついているアイテムですが、椅子に座る生活様式が広まって存在感が薄れているかもしれません。
実は座布団の中に詰められている綿は、ほとんどが外国産。それを知ったとき、手間と資源をかけて長距離運ばれてきた綿を、使い捨てにしてよいのだろうかという小さな疑問がわきました。
団らんの記憶には座布団が
子どものころ、正月や夏休みなど親戚が集まる時には、畳の間にいくつもの座布団が並べられました。
普段は物入れの奥に眠っていた座布団が次々と引っ張り出され、縁側で日に当てられ、ふっくらとしていく。並べられた座布団の上を歩いてみたり、積まれた座布団に上ってみたりという記憶がある人もいるでしょう。
座布団は、久しぶりに集まる人たちとの賑やかな団らんの傍らにあり、ただの道具というより “人と人との温かいつながり” を象徴するアイテムともいえます。
自分がくつろぐためにも、誰かを迎えるのにも役立つだろうと考え、私は2枚の座布団を譲ってもらい実家を離れました。それから20年ほどが経ち、久しぶりに物入れから出した座布団は、厚みが無くなり表地はボロボロに。
捨てるのは心が痛むと先延ばしにしていた矢先、「打ち直し」という言葉が目に留まりました。
綿は寿命を延ばせる素材
綿は、打ち直して手入れすることで寿命を延ばせる素材です。
打ち直しとは、布団や座布団の中のわたを一度取り出し手洗い、固く絡まった繊維を機械でときほぐして、必要に応じて新しいわたを足して仕立て直すこと。一般的な丸洗いクリーニングが汚れ落としを中心にするのに対し、打ち直しは綿そのものの力を回復させる工程です。化学繊維の布団は打ち直しできないので、直しながら長く使える天然素材の良さを実感できます。
ときほぐされた綿はたっぷりと空気を含み、あたたかさや汗を吸う力が戻ります。内部にたまっていたホコリやダニが取り除かれるので、衛生面でも安心。
サイズや形を変えたり、好みの表地を選び直したりできるのもうれしいポイント。一度へたったように見えても、仕立手直しによって清潔に、より快適に復元できる綿。その時々のライフスタイルに合わせて表地や形を替えることができ、より長く使える素材なのです。
日本文化を支える海外の綿
日本の座布団の材料である綿は、実はほとんどが海外から輸入されたもの。綿の自給率がほぼゼロのいま、布団に使われる綿も衣料品と同じく、アメリカやオーストラリア、ブラジルなどから輸入されてきました。
綿花栽培には、大量の水が使われているほか、生産効率を上げるために多くの農薬や化学肥料が使われており、労働者の健康や周囲の環境に影響を及ぼすことがあります。さらに、過剰な化学肥料は、土地そのものの力を弱めてしまう可能性が指摘されています。
一部地域では児童労働や債務労働といった人権問題が過去から現在にかけて繰り返し報告されてきました。私たちが何気なく使う座布団の中綿も、遠い国々のこうした現実とつながっているのです。
参照:
Japan | Imports and Exports | World | Cotton, not carded or combed | Value (US$) and Value Growth, YoY (%) | 2012 – 2023
W27:綿花(繰綿)の生産|世界の統計
国産の綿はどこに?

現在、日常的に使われる綿のほとんどは、海外から輸入されていますが、輸入に依存する以前も日本人は綿の衣類を着ていたはず。国内で生産されていた綿は、どうなってしまったのでしょうか?そして、国産の綿は全く無くなってしまったのでしょうか?
国産の綿が減った背景と現状について、見ていきましょう。
綿の自給率0%の背景をたどる
日本で綿が育てられなくなったのには、明治以降、安価で大量供給が可能な海外産の原綿が主流になったという背景があります。
綿栽培は多くの労働力と肥料を必要としますが、経済的価値が高かったことから、15〜16世紀初めにかけて、日本各地に栽培が広がったといわれています。江戸時代、日本では各地で綿作が盛んに行われ、国産の在来綿は糸や布として生活の中心を支えていました。
しかし、明治期に入り機械紡績が導入されると、糸を均一に紡ぐためには長く強い繊維が求められるようになります。国内で育てられていた在来種の綿は繊維が短く、機械紡績との相性が良くありませんでした。
一方で、アメリカやインドなど海外の綿は、機械化された近代的な農業によって品質が安定し、価格も安価でした。さらに、蒸気船や鉄道の発達によって、遠い地域からでも綿花を効率よく運べるようになり、大量輸送のコストが大きく下がりました。
こうした条件が整った海外産綿が急速に市場を席巻し、国内での綿生産は姿を消していったのです。
参照:
オーガニックコットンについて
日本における綿栽培の盛衰と加古川西部地域における綿栽培の歴史が 有する意味|神戸学院大学 矢嶋巌
国産綿の現状と小さな復活の動き
国産の綿をほとんど見かけなくなったいま、各地では小さな復活の動きが続いています。島根の伯州(はくしゅう)、兵庫の加古川(かこがわ)、福島などの取り組みがその例です。また、北海道ニセコ町では、国内最北となる露地栽培での商業用コットンの栽培に挑戦しています。
どれも大規模な産業ではなく、耕作放棄地を活用し、地元産業と結びつけて新たな製品や雇用を生み出すなど、地域の課題解決に綿を活用しようとするプロジェクトです。
このような全国の小さな取り組みを横につなぎ、綿花栽培の普及を目指して、全国コットンサミットも開催されています。
さらに、アパレルブランドの中には、「原料中の国産綿の割合を2%にする」などと目標を掲げ、少しずつでも国産綿を製品に取り入れようとする動きもあります。
私たち消費者が、綿の産地や背景を知ることが、国産綿の生産を後押しすることにつながっていくでしょう。
参照:
北海道初・日本最北 商業的コットン試験栽培に成功 | インフォメーション
私たちの取り組み | 一般社団法人ふくしまオーガニックコットンプロジェクト
加古川産綿花を活用した“かこっとんブランド”商品の開発・製造・販売
全国コットンサミットとは
サステナブルな綿とのおつき合い

暮らしのなかにある綿を、できるだけ無理なく、無駄なく、長く続けていくために、私たちは何ができるでしょうか。
綿がどこで育ち、どんな経緯で手元の製品になっているのかを知ると、日々の選び方にも自然と意識が向き始めます。布団や座布団を買う段階で素材を確認し、化学繊維ではなく綿を選ぶことが、後々の選択肢を広げてくれるでしょう。
買うとき、使うとき、そして使い終えるとき、大きな負担をかけずに、綿と気持ちよく付き合い続けるための自分らしい方法を探していきましょう。
リユース・リメイクで捨てずに長く使う
海外産の綿に頼っている現状では、なるべく捨てずにリユースやリサイクルする視点が役立ちます。綿は、中身を活かしながら寿命を倍に延ばせる素材。使い捨てではなく、ライフスタイルに合わせて仕立て直すことも可能です。
私自身は、地元の布団屋さんに頼んで古い座布団を打ち直してもらうとき、ソファに合わせて綿を足して長座布団にし、汚れが目立たない表地を選びました。
買い替えずに手元の綿を活かすことで、思い出も含めて、今の暮らしに息づいていく感覚が残ります。リユース・リメイクは、物的な必要性だけでなく、心も満たしてくれるでしょう。
オーガニックコットンを選ぶ
海外産か国産かを問わず、オーガニックコットンを意識するのも、エシカルな選択の一つ。
オーガニックコットンは、農薬や化学肥料に頼らずに育てられている点が、一般的な綿との違いです。大量の水や農薬を必要とする綿花栽培ですが、環境への負荷を少しでも減らし、生産者の健康や土地の力を守ることにつながっています。
最近では、日常使いの衣料品を扱う大手チェーンでもオーガニックコットンの商品が増えてきています。オーガニックには人手も手間もかかるため、他に比べて価格は少し高めですが、タオルや寝具カバーなどは生活の中に無理なく取り入れやすいでしょう。
製品の原料や作られ方に思いをはせること。何を買うかを決める基準が少しずつでも変わっていけば、暮らしや社会をよりサステナブルな方向へと動いていくはずです。
国産綿に注目する
長距離輸送によるエネルギー消費やCO2排出を抑えるためには、海外産よりも国産のものを選びたいところ。とはいえ、日本での綿花栽培はまだごくわずかで、需要に見合う量をすぐに確保するのは難しいのが実情です。
まずは、国産綿を使った商品を探したり、地域の栽培体験に参加してみたりすると、いつもの布製品が少し違って見えてくるかもしれません。
さらに、自分で育てた綿をメーカーに預けると製品と交換できる「コットンバンク」というユニークな取組みも登場しています。育てた綿がやがて自分が身に着ける製品の一部になれば、循環を実感でき、国産綿を応援する楽しさを広げてくれます。
国産綿を「探す」から「買う」「関わる」へと行動が広がれば、未来の国産綿を支える確かな力となるでしょう。
ライター
曽我部倫子
東京都在住。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、小さなお子さんや保護者を対象に、自然に直接触れる体験を提供している。
子ども × 環境教育の活動経歴は20年ほど。谷津田の保全に関わり、生きもの探しが大好き。また、Webライターとして環境問題やSDGs、GXなどをテーマに執筆している。三姉妹の母。