私たちの暮らしにすっかり馴染んだペットボトル。外出先で手軽に買えて、持ち運びもしやすく、便利さを感じる場面は多いですよね。一方、野外でゴミとなり放置されているのを目にすると、環境への負荷も気になるもの。地球環境のために、ペットボトルの利用を今すぐ「やめる」のは難しくても、「少し減らす」ことならできるかもしれません。今回は、ペットボトルとの付き合い方をいま一度見つめ直し、無理のない工夫を一緒に考えてみましょう。

リサイクルされているはずなのに、減らないペットボトルのゴミ

ペットボトル 環境問題 環境への影響

いまや私たちの暮らしに欠かせない存在であるペットボトル。本来、分別・回収の体制が整えば再資源化が進み、街に落ちているボトルは減っていくはずです。

しかし実際には、外出先での分別環境が十分でなかったり、持ち帰りが面倒に感じられたりといった理由から、リサイクルの流れに乗らないボトルも少なくありません。そうして行き場を失ったペットボトルが、街の片隅や川辺、山道などに残ってしまうのです。

ここでは、ペットボトルの現状を丁寧に見つめながら、リサイクルの限界やほかの容器との違いを通して、“減らす”という選択について考えてみたいと思います。

なくならないペットボトルの環境負荷

リサイクルの仕組みが整い、回収率も85%(出典:リサイクル率の算出|統計データ)に達していると聞くと、「ペットボトルは循環しているから環境負荷にならないのでは?」と感じる人も多いかもしれません。

しかし、川辺や登山道、海岸などで、透明なボトルが落ちていることにふと気づくことも。自然の中にあるその姿は、ほんの小さな違和感として目に映ります。

全国川ごみネットワークの2019年の調査では、全国の川沿いで31,890本のペットボトルが回収されました。これは、およそ河川の6mごとに1本が落ちている計算になるそうです。また、環境省の調査によれば、沿岸ごみの上位にはペットボトルとそのキャップが含まれています。

心無い人のポイ捨てだけでなく、風で飛ばされたり、忘れられ放置されたものがそのまま川や海へ流れ出すこともあります。ほんの些細なきっかけから、リサイクルの輪からこぼれ落ちてしまうのです。

こうして流れ出たプラスチックは、海鳥やウミガメ、クジラなどの生きものが誤って飲み込んで、命にかかわる影響を及ぼす場合があります。さらに、細かく砕けたマイクロプラスチックが、食物連鎖を通じて人の体内にも取り込まれていることもわかっています。

ペットボトルは、化石資源からつくられた軽くて丈夫なプラスチック製品です。水や衝撃に強く便利な一方で、微生物によって分解されにくいため、いったん自然の中に出てしまうと長く残り続けてしまいます

便利で身近な素材だからこそ、環境への影響も小さくはありません。リサイクルは大切な仕組みですが、それだけでは追いつかない現実もあります。

紙パック・ビン・缶との比較

環境への負荷という観点から見ると、容器によって使われるエネルギー量には大きな差があります。

環境省の調査※によると、500mlの耐熱ペットボトルは、1000mlの紙パックのおよそ2倍、リターナブル瓶(回収して洗浄・再利用できるガラス瓶)や350mlのアルミ缶/スチール缶よりも多くのエネルギーを使うとされています。

これは主原料のPET樹脂が石油由来で、製造段階に大きなエネルギーを必要とするためです。リサイクルされた場合でも、紙パックやリターナブル瓶との差は小さくありません。

また、地球温暖化の原因であるCO2排出量も紙パックの3倍以上、缶よりも高い水準です。しかし、ペットボトル以外の素材にもそれぞれ課題があります。

たとえば、リターナブル瓶は再利用できる点が魅力ですが、取り扱う店舗が限られており、回収ルートが十分ではありません。また、使い捨て瓶では、エネルギー消費やCO2排出がペットボトルより多くなることもあります。

紙パックは軽くてリサイクルしやすい一方で、開封後の保存が難しく、炭酸飲料には不向き。ミネラルウォーターでは、紙のにおい移りも問題でした。

それでも近年は、キャップ付き紙パックや、紙容器入りミネラルウォーターなど、利便性と環境配慮の両立を目指す工夫が進み、シーンに合わせた選択肢が少しずつ増えています。

(参考)
環境省|容器包装ライフ・サイクル・アセスメントに係る 調査事業 報告書
環境省|資料−1 おもなLCIデータのプロフィール

ペットボトルでなければダメ?

そもそも、清涼飲料にペットボトルが使われ始めたのは1980年代(出典:PETボトルとリサイクルの歴史)。その後あっという間に広がり、いまでは清涼飲料容器の約8割(出典:全清飲レポート2025)を占めています。

軽くて丈夫で、キャップを閉めればこぼれにくく、持ち運びも簡単。サイズの種類も豊富で、日常のあらゆる場面に馴染んでいます。1リットルの飲み物を瓶で持ち歩くことを想像すると、ペットボトルのありがたさを改めて感じる人も多いでしょう。

だからこそ、この便利さを否定するのではなく、ペットボトルに頼りきらない小さな選択を積み重ねていく。そんな視点なら、暮らしを少しずつ見直していくことができそうです。

ペットボトルフリー生活のコツ

暮らしの中にいつの間にか溶け込んでいるペットボトル。その存在に気付くことがペットボトルフリー生活の第一歩です。ペットボトルを手に取る前に、一度立ち止まって考えれば別の選択肢が見えてくるかもしれません。

筆者も最初は不便を感じることもありましたが、慣れてしまえばペットボトルフリーが当たり前になりました。ここでは、日常で“ペットボトルに手が伸びる前”にできる工夫を紹介します。

外でのどが渇いたとき

外出先でのどが渇いたとき、つい自動販売機のペットボトルに手が伸びたり、荷物が多い日は「外出先で買えばいいか」と思ったり—そんな経験は、誰にでもあるものです。

でも、マイボトルを持ち歩くだけで、その日は“ペットボトルを減らせる日”になるかもしれません。最近では、節約やゴミ削減を意識してマイボトルを使う人も増えています。

ボトルが空になったときは、市町村などが設置する給水スポットを活用する選択肢も。市役所や図書館、公園、カフェなど、身近な所に無料の給水スポットが少しずつ増えています。多くは水道水を浄水して提供しており、安心して利用できます。

mymizuのようなアプリを使えば、現在地周辺の給水スポットをマップ上で簡単に探すことができますよ。

ボトルを忘れてしまった日でも大丈夫。飲みきりサイズの紙パックや缶入りの飲料を選んでみるのもひとつの方法です。完璧でなくても、「今日はできた」と思える日を少しずつ増やしていく—そんな積み重ねが、変化へとつながります。

みんなで集まる場で

会議や地域の集まり、イベントなど人が集まる場では、まとめてペットボトルを購入するのが習慣になっていることがあります。忙しい準備のなかで、配りやすく片づけも簡単。ペットボトルが選ばれるのも、無理はありません。

しかし、慣例になっていることこそ、ちょっとした変更が大きな効果を生む余地があります。

たとえば定期的に開かれる会議で、紙パック飲料への変更やマイボトル持参を担当者に提案してみる。それだけでも、積み重ねれば大きな違いになるでしょう。

飲み物を用意する側になったときは「今回、ちょっと変えてみました」と添えてみるのもいいかもしれません。大げさでなくても、その一言が場の空気を変えるきっかけになることもあります。

準備に少し余裕がある日には、大きめのポットで淹れたお茶をみんなで分け合うのも素敵です。湯気の立つ湯のみを囲めば、場がゆるみ、会話も自然とあたたかくなるかもしれません。

家の中の日用品から

ペットボトル 環境問題 環境への影響

ペットボトルは飲み物だけでなく、油や調味料、洗剤、化粧品など、意外なほど多くの容器に使われています。いつもの買い物で手に取るその一本も、少し視点を変えると、ほかの選択肢が見えてくることも。

たとえば、食用油や粉末調味料には、近年紙パック入りの商品が増えており、破れにくく湿気にも強い素材が使われるなど、使い勝手も少しずつ進化しています。

液体の調味料をリユース瓶に入った商品にするのもひとつの方法です。生協や宅配サービスを利用すれば、空き瓶を次の配達で回収してくれる場合が多く、少ない負担で日常に取り入れることができます。

生活洗剤や化粧品類でも、詰め替え用を選ぶだけで新しい容器を減らせます。気づけば、家の中にも意外に「減らせる場面」が多いかもしれません。

ペットボトルが広く使われているのには、それだけ便利で、必要とされてきた理由があります。ゼロにするのは難しい。忙しい日には、つい頼ってしまうこともあるでしょう。それでも、「できる日だけ少し変えてみる」ことなら、きっと誰にでもできるはず。たとえば紙パック入りの商品を選ぶ日をつくる、外出時にマイボトルを持ち歩く。そんな小さな選択の積み重ねが大切です。うまくいかない日があっても大丈夫。“できた日が少し増える”―その一歩が持続可能な社会につながっていくはずです。

曽我部倫子

ライター

曽我部倫子

東京都在住。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、小さなお子さんや保護者を対象に、自然に直接触れる体験を提供している。

子ども × 環境教育の活動経歴は20年ほど。谷津田の保全に関わり、生きもの探しが大好き。また、Webライターとして環境問題やSDGs、GXなどをテーマに執筆している。三姉妹の母。