東京都と埼玉県にまたがる「狭山丘陵」には、映画『となりのトトロ』の舞台のモデルとされる豊かな森が広がっています。「トトロの森」と呼ばれるこの場所は、かつては都市開発の波にさらされましたが、市民や団体、企業によるナショナルトラスト運動によって守られ、今なお四季折々の姿で人々を魅了しています。本記事では、トトロの森の誕生の背景から、市民の取り組み、ナショナルトラスト運動の成果などを紹介していきます。

トトロの森誕生の背景

トトロの森 ナショナルトラスト運動

狭山丘陵は3,000ha以上の里山景観が残る貴重な緑地です。しかし1970年代から、この緑地周辺を対象とする宅地開発計画の話が持ち上がり、豊かな自然が開発により消失してしまう危機が迫っていました。自然を愛する人々がこの緑地を守るために動き、市民が土地を買い取り保護するナショナルトラスト運動が生まれたのです。

1990年に市民からの寄付を募る活動が始まり、1991年に初めて土地を取得。この地域が、映画となりのトトロに描かれている森のモデルになったと言われていたことから「トトロの森1号地」と名づけられました。以降、小さな林地を一つずつ買い取り“点”を“面”へとつなぐ発想で保全域を拡げてきました。現在ではトラスト取得地は66カ所に達し、都市と自然が隣り合う場所での先駆的なナショナル・トラスト事例となっています。

ナショナルトラスト運動とは?

ナショナルトラスト運動とは、市民からの寄付や会費をもとに土地や建物を買い取り、自然や文化を守る活動のことです。19世紀のイギリスで始まり、日本でも各地で広がってきました。行政任せではなく、市民が主体となって貴重な環境を次世代に残す取り組みです。

トトロの森を守った市民の取り組み

トトロの森 ナショナルトラスト運動

豊かな森をトトロの森として取得し、その場所を維持管理、発展させていくために多くの人々が尽力しました。ここではその活動について触れていきます。

小さな寄付から大きな波へートトロの森を守る活動

トトロの森を守るナショナルトラスト運動は、自然を守りたいと思う周辺住民たちの団結によって始まりました。森を「トトロの森」として守るため、トトロの生みの親である宮崎駿氏やスタジオジブリ創設者の鈴木敏夫氏などに許可をとり、1990年「トトロのふるさと基金」を設立し寄付を募ります。

その後スタジオジブリの関係者が支援に加わり、自然と文化の両面から広報活動が進展。2008年には海外のアーティストが参加したチャリティ「Totoro Forest Project」がアメリカで開催され、収益が基金に寄付されました。現在ではクラウドファンディングや相続財産の遺贈寄付、企業のCSR活動など多様な資金調達手法が導入され、SNSを活用した広報や環境教育イベントも展開しています。

始めは周辺住民の小さな寄付から始まりましたが、今や大きな企業や世界中の人たちを巻き込む大きな運動となり、森を世代を超えて守り続ける大きな力となっています。

運動を支えている地域住民たち

この運動を継続させてきたのは、市民一人ひとりの思いと行動です。活動初期、丘陵に隣接する市の地域住民は「子どもや孫にこの森を残したい」と募金活動を展開しました。森の管理に参加した住民は、雑木林の手入れや清掃活動を自主的に行い、荒れた土地を少しずつよみがえらせていきました。

現代でも地域のボランティアが「トトロの森で何かし隊」として草刈りやゴミ拾い、生態調査を続けており、子ども連れの参加者も増加中です。こうした住民一人ひとりの行動が運動を下支えし、未来へと継承する原動力となっています。

ナショナルトラスト運動がもたらした成果

トトロの森 ナショナルトラスト運動

トトロの森の取り組みは、具体的にどのような成果を挙げてきたのでしょうか。ここではその一部を紹介します。

種の保存

トトロの森では、市民ボランティアによる草刈りや竹の伐採などの地道な管理が続けられてきました。その結果、失われかけていた里山本来の環境がよみがえり、希少な植物や昆虫が再び息を吹き返しています。

代表的なのはカタクリの花の回復で、2011年にはわずか9輪しか咲かなかったものが、2021年には2,000輪以上に増えるまでに復活しました。こうした数字は、保全活動が単なるスローガンではなく、生態系に確かな成果をもたらしている証拠です。森を守る取り組みは「未来へ命をつなぐ活動」として、種の保存に大きな役割を果たしています。

子どもたちへの教育

トトロの森は、人と自然をつなぐ場になっています。学校や地域の団体がフィールドワークに訪れ、子どもたちは四季折々の森の姿を肌で感じています。森の中で植物や生き物に触れる体験は、教室だけでは学べない環境を大切にする心を育むきっかけになります。

たとえば地域の中学校では、森を訪れて学習するプログラムが行われており、生徒たちが自然と触れ合う楽しさや守る大切さを実感しています。こうした体験を重ねることで、次の世代が環境保全に関心を持ち、自分ごととして行動できる力につながっていきます。

地域社会への貢献

トトロの森は自然保護の場であると同時に、多くの人を惹きつける観光資源にもなっています。狭山丘陵を訪れる人々は、映画『となりのトトロ』の舞台を思わせる自然豊かな景観や景色を楽しめます。となりのトトロのファンの人は、映画に登場するキャラクターがあしらわれた立て看板を見かけるたびにうれしい気持ちになれるでしょう。

また、狭山丘陵周辺はハイカーのためのハイキングコースやランニングコースも整備されており、緑の中で汗を流すアクティビティも人気があります。こうした訪問は地域の商店や飲食店にも波及効果をもたらし、観光と自然保護が共に支え合う仕組みを生み出しています。

現在の「トトロの森」 ― 保全された森と見どころ

トトロの森 ナショナルトラスト運動

トトロの森には、豊かな自然や生き物たちの息吹を感じられるスポットが数多く存在します。1号地付近の森は昔ながらの雑木林が広がっており、カブトムシなど多様な昆虫が暮らしています。通称「虫たちの森」と呼ばれ、生き物観察を行うのにピッタリです。

20号地近くの葛籠入の森(つづらいりのもり)では初夏にホタルが見られることもあり、昔ながらの自然が今なお残っていることを実感できます。13号地では先述したカタクリを見ることができ、春先には美しい花を咲かせるのを観察できます。また、トトロの森の多くが多摩湖や狭山湖の近くに位置しています。これらの湖も多くの生き物の貴重なすみかとなっており、豊かな自然の源になっています。

所沢市のサイトではトトロの森のおさんぽマップが公開されているので、参考にすると良いでしょう。 森の内部は生きもののすみかで危険もあるため、原則として散策路から眺める形での観賞が推奨されています。ナラ枯れ等への注意喚起も行われ、最新の案内を確認してから訪れると安心です。

また所沢市には基金が活動拠点としている古民家施設「クロスケの家」があり、事前予約することで施設を見学できます。施設内にはトトロの森保護の活動内容や歴史に関する資料、等身大のトトロ人形などがあり、大人も子どもも楽しめて、トトロの森について理解を深められますよ。

だれでも参加できる!トトロの森を守る方法

  • 私たちができることは、金額や時間の多寡にかかわらずたくさんあります。まずは自分に合う入口を一つ選ぶのがおすすめです。
  • 会員(トトロの森のサポーター)になる:トトロのふるさと基金の会員になる方法です。正会員・賛助会員・法人会員・こども会員・家族会員など、自身に合った形態を選択できます。
    公益財団法人トトロのふるさと基金
  • ボランティアに参加する:説明会に参加し、草刈りやモニタリングなどの作業に加わります。
  • イベントに参加する:散策ガイドやイベントに参加し、ルールと意義を周囲に伝えます。
  • グッズを購入する:公式ショップの収益で活動を後押しできます。
    トトロの森 オリジナルグッズ ショップ
トトロの森は、人々が里山を“買って守る”という方法で次代へ手渡す、市民主導の自然遺産プロジェクトです。点在する小さな林地をつなぎ、学びと体験の場を育むことで、保全は“特別な人の仕事”から“みんなの暮らしの延長”へと広がってきました。これからも、人々の自然を守りたいという想いと行動があれば、森はもっと豊かになります。トトロの森に関する詳細の確認や寄付は「トトロのふるさと基金」ウェブサイトで可能です。まずは自身にできるトトロの森への関わり方を探してみてはいかがでしょうか。

参考元:
トトロの森 – トトロのふるさと基金
クロスケの家 – トトロのふるさと基金

麦原拓馬

ライター

麦原拓馬

東京都在住の週末バードウォッチャー。
高尾山の登山中にキツツキを見つけたことがきっかけでバードウォッチングに興味を持ちドハマり中。
多摩エリアをメインにアウトドア活動を行っている。
愛犬のミニチュアシュナウザーと毎朝散歩をするのが日課。