釣りは自然と触れ合える魅力的なアクティビティ。しかし一方で、根掛かりして切れた釣り糸やルアーを放置するといった行為で知らぬ間に環境を傷つけてしまうことがあるのです。本記事では、自然にやさしい「エコフィッシング」の考え方と、釣り人にできる行動をわかりやすく紹介します。
釣りは自然と深くつながっているアクティビティ

釣りは自然のリズムに身をゆだね、季節のうつろいや生き物たちの気配を感じられる魅力的なアクティビティです。魚を釣ることだけが目的ではなく、その場の風や光、匂いの中に自分を溶け込ませるような、自然との一体感こそが釣りの醍醐味といえるでしょう。
だからこそ、釣りを楽しむ私たちには、自然とともにあるという視点がとても大切になります。本記事では、「釣りが自然と深くつながっているアクティビティ」である理由を見ていきましょう。
四季の彩りを感じ、生き物と出会えるアウトドア体験
釣りは単なるレジャーにとどまらず、四季折々の自然を五感で味わえる貴重なアウトドア体験です。春の芽吹き、夏の潮風、秋の木々の色づき、冬の凜とした空気。川辺や海岸に立てば、足元に集まる小魚や空を舞う鳥の声に気づくこともあります。そんな瞬間に、自然とのつながりの大切さをふと感じられるでしょう。
「豊かな自然があるから釣りができる」ことを忘れずに
私たちが釣りを楽しめるのは、魚が住む川や海といった自然の環境が健やかに保たれているからこそ。つまり、釣りは自然の恵みの上に成り立っています。釣果に一喜一憂する楽しさの裏には、自然に感謝し、ともに歩んでいく気持ちが必要です。自然とともに生きるという意識を、あらためて大切にしていきましょう。
気づかないうちに自然を傷つけていませんか?

釣りは、自然の中で楽しむアクティビティとして多くの人に親しまれている一方で、「知らないうちに環境に悪影響を与えていた」というケースも少なくありません。ここでは、釣り人が無意識に自然を傷つけてしまう3つのケースを紹介しながら、環境に配慮した釣りの在り方を考えます。
捨てられた釣り糸・ルアーが野鳥や魚に与える被害
釣り場に放置された釣り糸やルアー(疑似餌)は、野鳥や魚にとって大きな脅威です。細くて目立たない釣り糸は野鳥の脚や翼に絡まりやすく、飛べなくなったり、餌を採れなくなったりして命を落とす事例もあります。
また、水中に沈んだルアーや釣り針に魚が引っかかり、傷を負って泳げなくなる場合もあります。回収できず水中に取り残された釣り糸やルアーは自然分解されないため、何年にもわたって環境や生物に被害を及ぼす可能性があるのです。
鉛オモリがもたらす水質・生物汚染
釣りで使うオモリは、現在も多くの製品で鉛が使われています。鉛は強い毒性を持ち、水中で徐々に溶け出して周囲の水質を汚染する物質です。とくに、小さな淡水魚や生物は鉛に敏感で、摂取してしまうと神経系に異常をきたすケースがあります。
また、水鳥が鉛オモリをエサと間違えて飲み込んでしまい、鉛中毒で死亡する事例も確認されています。環境への負荷を減らすためにも、鉛フリー素材のオモリへの切り替えが急務といえるでしょう。
ブラックバスブルーギルなどの違法放流による生態系破壊
特定外来生物に指定されているブラックバスやブルーギルは、その捕食力の強さから生態系に深刻なダメージを与えるとして懸念されています。なかでもブラックバスはゲームフィッシングの絶好のターゲットとして人気であり、自分本位な釣り人による違法放流が大きな問題です。
違法放流された特定外来生物は、漁業や自然保護活動にも悪影響を及ぼします。環境省では「無許可放流は法律違反」と明確に警告しており、放流する際は必ず関係機関の許可が必要です。
違反すると、個人で最高3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、法人の場合で1億円以下の罰金が科されます。特定外来生物と知らずに放流してしまうケースもあるので、事前に環境省の「特定外来生物等一覧」を確認しておきましょう。
参考:環境省|特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律
エコフィッシングって何?自然を守る釣りの新常識

釣りをもっと楽しむために、自然環境に配慮した「エコフィッシング」という考え方が注目されています。エコフィッシングとは、魚や生態系への負荷をできる限り減らしながら釣りを楽しむスタイルのこと。以下のように、環境汚染や生物へのダメージを最小限に抑える道具選びや釣り方を取り入れて、自然との共生を目指すのが目的です。
鉛フリーオモリや生分解性の釣り具を使用する
環境への負荷を抑えるのに注目されているのが、スズやタングステン、スチールを使用した「鉛フリーオモリ」です。従来の毒性のある鉛を使用したオモリとは異なり、鉛フリーオモリなら水質汚染を最小限に抑えられます。また、万が一水中に放置されてしまっても自然に還る、生分解性素材を採用した釣り糸やワームなどにも注目です。
バーブレスフックを使用する
魚に与えるダメージを軽減する手段として、「バーブレスフック(カエシなし針)」が広がりつつあります。一般的なフックは、魚がバレないように針先にカエシ(バーブ)がありますが、刺さった針を抜くときに魚体を大きく傷つける原因になります。
バーブレスフックは魚からすばやく傷を最小限に抑えながら針を外せるため、リリース後の生存率を高められるのがメリットです。
キャッチ&リリースの際に魚への負担を減らす
「釣った魚を逃がす=キャッチ&リリース」は、エコフィッシングの基本的な行為です。ただし、やり方を誤ると魚に大きなストレスや傷を与えてしまいます。魚への負担を最小限に抑えるには、以下のポイントを意識しましょう。
- 手を水で濡らしてから魚に触る
- 迅速なリリースを心がける
- 魚の状態を見てリリースする
「リリースするから大丈夫」と安心せず、魚が元気に戻れるのを最優先に考えるのが、エコフィッシングの基本姿勢です。
今日からできるエコな釣り人の行動とは

自然の恩恵を受ける釣り人こそ、自然を守る行動を意識しましょう。たとえば、釣行後に自分の周囲に落ちているゴミを拾う「マイクリーンアップ」だけでもすぐにはじめられる身近な取り組みです。さらに、地域の清掃活動への参加や、自分のエコ活動をSNSで発信したり家族や仲間と共有したりするのも大きな一歩となるでしょう。無理なくできる行動の積み重ねが、未来の釣り場を守る力になります。
ライター
阿部 コウジ
釣り歴30年以上のアウトドアライター。自然豊かな清流や渓谷に魅せられ、環境と共生する釣りの魅力や自然を大切にしたアウトドアの楽しみ方を発信。釣った魚を食べるのも好き。将来はキャンピングカーで車中泊しながら、日本各地の釣り場を巡るのが夢。