伊豆半島南端に位置する神子元島は、日本屈指のハンマーヘッドシャーク(シュモクザメ)遭遇スポットとして世界的に知られています。黒潮の恵みを受けた豊かな海域では、夏から秋にかけて100尾を超えるハンマーヘッドが群れを成して登場します。上級者向けのダイビングポイントとして知られ、強い潮流と透明度の高い海が織りなす壮大な海中世界を体験できる神子元島。その魅力と、ダイビングをする上でのマナーを紹介します。
神子元島という特別な海域

神子元島は伊豆半島の最南端、下田沖から約11km沖合に浮かぶ小さな無人島です。この島周辺の海域は、世界最大級と言われる潮流「黒潮」の恵みが交わる特別な場所として知られています。水深40メートルを超えるドロップオフもあり、複雑な海底地形が多様な海洋生物のすみかとなっています。
特に注目すべきは、島の北側に位置する「カメ根」と呼ばれるダイビングポイントです。ここは海底から突き出た巨大な岩礁と複雑に入り組む根が特徴的。更に下げ潮・上げ潮の影響も受け、多様な回遊魚と遭遇できます。
水温は年間を通じて比較的安定しており、夏場は25度前後、冬場でも16度程度を保ちます。透明度は季節により変動しますが、条件の良い日には30メートル以上の抜群の透明度を誇ります。この恵まれた環境こそが、神子元島をハンマーヘッドダイビングの聖地たらしめている理由なのです。
ハンマーヘッドシャークとの邂逅

神子元島で遭遇できるハンマーヘッドシャークは、主にアカシュモクザメです。体長は4メートルほどで、絶滅危惧種に指定されています。
最も遭遇確率が高いのは6月から10月にかけての夏季シーズン。この時期、水温上昇とともに餌となる小魚が豊富になり、ハンマーヘッドたちが神子元島周辺に集まってきます。朝一番のダイビングが最もチャンスが高く、薄暗い海中に突然現れる銀色の群れは、まさに息を呑む美しさです。
ダイビング中の遭遇パターンとしては、深場からゆっくりと浮上してくる群れや、潮流に乗って颯爽と泳ぎ去る個体など様々です。彼らは基本的に人間を恐れることはありませんが、音や光に敏感に反応します。そのため、水中撮影用のライトやストロボの使用は厳禁。静かに息を整えながら、彼らの自然な行動を観察することが重要です。
100尾を超える群れは、音もなく突如出現します。そのためハンマーヘッドダイビングに不慣れなダイバーは、ガイドのブリーフィング(陸での説明)と水中での合図に集中することがハンマーヘッド発見のコツ。ちなみに筆者は、ガイドのハンマー合図に集中しすぎて、私の真横にいるハンマーヘッドに気づかないという経験をしてから、ガイドの指示と周りの観察は6:4ほどにしています。
名前の通りハンマーのような独特な頭部で、間近だとたじろいでしまいますが、大群で大河のように流れる光景はまさに圧巻。遭遇時の感動は言葉では表現しきれません。海中で彼らと対峙した瞬間、自分が大自然の一部となったような深い感動を覚えることでしょう。
神子元島ダイビングの魅力と挑戦

神子元島でのダイビングは、その美しさと同時に大きな挑戦を伴います。まず最大の特徴は強い潮流です。黒潮の影響を受けた海域では、時速数キロメートルの潮流が発生することがあり、これがダイビングの難易度を高めています。しかし、この潮流こそがハンマーヘッドを引き寄せる重要な要素でもあります。
必要なスキルレベルとしては、アドバンスドオープンウォーター以上の資格と、最低50本以上のダイビング経験が推奨されます。特に中性浮力のコントロールと、潮流下でのフィンワークが重要になります。ただし、ダイビングショップやダイビングスポットによって必須スキルが異なるため、詳細はショップへ確認しましょう。
安全面では、必ず信頼できるガイドとともに潜ることが重要です。海況の急変や潮流の変化に対応するため、常にガイドの指示に従い、グループから離れないよう注意が必要です。また、ハンドシグナルの確認や、安全停止の徹底も欠かせません。
スキルや条件などを聞くと少々不安になるかもしれませんが、ガイドたちの尽力もあり、経験本数50本前後のダイバーでも潜れる島となりました。ハンマーヘッドとの遭遇だけでなく、マンタやジンベエザメなど大型回遊魚との出会いも期待できる、極上のダイビングスポットです。神子元島のダイビングを楽しむために、ぜひ自身のスキル確認やスキル向上に繋げてください。
神子元島ハンマーヘッドシャークダイビングのルールとマナー

神子元島でのハンマーヘッドダイビングでは、海洋生物の保護と安全なダイビングのために厳格なルールとマナーが設けられています。これらを遵守することで、美しい海を次世代に残すことができます。
まず最も重要なのは、ハンマーヘッドシャークに対する接近ルールです。特に近年、専用棒の先端にアクションカメラを装着して、ハンマーヘッドに急接近するダイバーが後をたちません。群れを発見しても興奮して急激に接近せず、静かに観察することが求められます。フラッシュ撮影は禁止されており、自然光のみでの撮影が基本です。
必ずガイドの指示に従い、単独行動は厳禁。潮流が強い海域のため、グループから離れることは重大な事故につながる可能性もあります。セーフティーフロート(自身の場所を伝えるオレンジの袋)は必携品。使用方法がわからない場合は、事前に練習をして当日に臨みましょう。
また、神子元島だけでなくダイバーとしての基本ですが、自身のゴミは必ず持ち帰り、珊瑚や岩に触れたり、海洋生物を手で触ったりすることは厳禁。日焼け止めは海洋生物に害を与える可能性があるため、海洋生物に優しい製品を選びましょう。真夏でもウェットスーツを着用し、身体の保護を心がけてください。
これらのルールを守ることで、神子元島の豊かな海洋生態系を保護し、将来にわたって素晴らしいダイビング体験を継続することができるのです。
ライター
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マリンスポーツのジャンルを得意としたwebライター。海遊びの楽しみ方やコツを初心者にも伝わるよう日々執筆活動中。スキューバダイビング歴約20年、マリンスポーツ専門量販店にて約13年勤務。海とお酒と九州を愛する博多女です。