地中海式気候に恵まれたイタリアは、大自然の美しさでも知られています。ガイドブックやネットには、町や遺跡の情報があふれているイタリアですが、アウトドアを楽しむスポットが数多くあります。筆者が経験したイタリアの山歩きを紹介します。

イタリアの自然の楽しみ方

イタリア山岳クラブによる番号が記された標識

イタリアではどのように自然に親しむのでしょうか。山に出かけるときの楽しみ方やルールを紹介します。

法律で守られているイタリアの自然

文化遺産が多いイタリアは、実は自然も美しい国です。イタリア半島には美しい海がたくさんあり、アペニン山脈やアルプスへのアクセスもスムーズ。イタリア人は、週末やバカンスは自然の中で過ごすのが習慣です。

名勝地に行って驚くのは、お土産屋さんなどの商業施設が少ないこと。そもそもイタリアの人は、旅行先でお土産を買うという慣習がなく、せいぜい旅行先で気に入ったワインや食材を買う程度です。

また2002年に施行された法律により、自然や景観を守るという国の方針が徹底されています。名勝地に建物を建てる場合も、デザインや素材に関しても許可を取る必要があるため、悪目立ちする看板等も目にすることはありません。

大自然をそのまま楽しめるのが、イタリアの山歩きの醍醐味です。

イタリアの自然と遺跡の同居

アブルッツォ州のトレッキングコースにある廃墟。石造りの家々が大自然のなかに佇んでいます。

新しい建造物の少ないイタリアの名勝地ですが、古い遺跡はそのまま。古代の水道橋や中世の教会は、使われなくなっても自然とともに融合しています。

2500年前の道が残っていたり、18世紀に衰退した町が廃墟となっていたり、フォトジェニックな景色が随所に見られます。過去の人びとの営みが感じられるこれらの風景は、逆に自然が持つ普遍性を感じさせてくれることも。

どこか詩的な情景は、心に深く残ります。

イタリア山岳クラブ(Club Alpino Italiano)による山歩きコースの管理

イタリアで山歩きをしたい場合、参考になるのがイタリア山岳クラブの地図です。

イタリア全土を網羅し、6万キロを超えるコースが用意されているこのシステム、初心者から上級者までレベルが選べるのも便利。すべてのコースが番号で分類されています。距離も選べるため、自分の年齢や体力に合わせて設定できます。

実際にコースに入ると、コースの数字が赤と白の標識になっていて、迷うこともありません。レベルは次の4つ。

T (Turistico): 初心者でも問題なく歩けるコース。
E (Escursionistico): 最低限のトレーニングが必要なコース
EE (Escursionisti Esperti): 経験豊富で体力に自信がある人のコース
EEA (Escursionisti Esperti con Attrezzatura): 豊富な経験とともに本格的な装備が必要なコース

イタリアで人気の山歩きコース

休日を大自然の中で過ごすのが大好きなイタリア人。気軽に山歩きに出かけます。イタリアでもとくに人気のあるコースはこちら。

・コース1「アルタ・ヴィア・デッレ・ドロミーティ」(レベル:EE)

イタリア人が「登山」という言葉を耳にして思い浮かべるのが、北イタリアのドロミーティの景色です。イタリア山岳クラブによってコースナンバー「1」となったこのコースは、トレッキング愛好者にとっては憧れです。

・コース2「Sentiero Azzuro(青の道)」(レベル:T&E)

パートナーと山歩きしたいという人が訪れるリグーリア州の「青の道」。名勝地チンクエテッレの雄大な景色が楽しめます。

・コース327「Sentiero degli Dei(神々の道)」(レベル:E)

日本人にも人気のアマルフィ海岸を一望できるコース。地中海の空と海の青を堪能できるパノラマが大人気です。

水と食料の準備は必須

初心者コースを歩く場合も水と食料は持参します。お店の数が限られていたり、場所によってはまったくない場所もあったりするため、あらかじめふもとの町で購入する必要があります。イタリアは現在も日曜定休が多いため、山歩きを計画する場合は必需品購入のための情報収集も必須です。

有名なコースとなると、出発地点に小さなバールがあり、水やちょっとした食材の調達は可能。我が家は水を飲むためのハイドレーション、折り畳み式トレッキングポール、レジャーシートを車に常備し、ナッツ類やチョコレートを持参することが多いです。

山歩き:北イタリア編「ヴァッレ・ダオスタ」

北イタリアといえばドロミーティが有名ですが、そのぶん混雑するのも事実。我が家は友人に勧められて、フランスとスイスと国境を接するヴァッレ・ダオスタに挑戦。雄大な景色を堪能することができました。

地元の人の情報は貴重!

渋滞も混雑もないと聞いてやってきたヴァッレ・ダオスタ。両際を山に囲まれるような長い盆地に位置しており、初めて見る景色に言葉もありませんでした。

山歩きのコースは数が多すぎてどのように決めていいのかわからず、借りていた家のオーナーに相談。山歩きの経験が多いとはいえない我が家に勧めてくれたのが、コース13番。レベルはEです。

地元の人は普段から山を歩いているため、実践的なアドバイスをくれます。土地勘のない我が家、オーナーに教えてもらったトレッキングコースは初心者でも楽しめて、アドバイスはとてもありがたかったです。

視界が開けたコースは美術館?

地元のアーティストによる素朴な彫刻があちこちに

「モン・ファレールの山小屋(Rifugio Mont Fallère)」と呼ばれるこのコースの魅力は、視界が開けている点です。途中、少し長めの急勾配がありましたが、それを抜けると遠くまで見渡せる美しい山々が。高山植物だけではなく、地元のアーティストによる木の彫刻があちこちにあり、小学校の中~高学年くらいの子どもたちも楽しそうに山歩きしていました。

マッターホルンもモンブランも身近に

ヴァッレ・ダオスタの風景の美しさは、イタリアの人気刑事ドラマの舞台になるほど。どこを歩いても飽きることがない景色が続きます

車があれば、マッターホルンやモンブランへも移動が可能です。我が家は早起きをして、モンブランから朝日を眺めました。また中世の城塞もあちこちに残っているほか、天文台もあり、長期滞在でも充実した時間を過ごすことができます。

山歩き:南イタリア編「カラーブリア」

南イタリアは海の美しさで有名ですが、山々も魅力的です。古代ギリシア人たちが愛した大地はどこか神話的。ポッリーノ国立公園内を歩き、「神々の庭」を目指しました。

安価に楽しめる南部の魅力

南イタリアはバカンス先として大人気。理由は美しい自然、おいしい食べ物、そして物価の安さにあります。

土壌の豊かさを求めて古代ギリシア人が入植してきたという歴史がある南イタリア。オリーブオイルもトマトもパスタもおいしくて、ついつい食べ過ぎてしまいます。というわけで、バカンスには山歩きがもってこいなのです。

「神々の庭園(Parco degli Dei)」と名付けられた山へ!

ボスニア松(Pino Loricato)が多い「神々の庭」

イタリア山岳クラブCAIのコース番号は921Aに該当、レベルはE。私たちは、南イタリア最大の国立公園「ポッリーノ公園」のガイドブックに従って、15キロ弱の山歩きを実践しました。標高差が800mほどあり、かなりハード。途中、放牧されている牛たちのカウベルを聞きながら休憩を取ります。

とくに「神々の庭園」にいたる最後の行程はかなりの急勾配。多くの登山者が坂道の始点にある水飲み場で水を補給し、ラストスパートをかけます。

たどり着いた先に広がる光景は、不思議な形の松と南イタリアの空の色が織りなす自然の芸術でした。この松はボスニア松と呼ばれ、寿命が長いことで有名なのだそうです。まさに、神話の時代からの生き残り、といった趣があります。

ガイド付きリバートレッキングもあり

カラーブリア州の国立公園は、ラフティングやリバートレッキングも楽しめるため、家族連れに人気です。

カジュアルな南イタリアらしく、参加料金を払うためのカードの精算機が故障中。運営者は「ローマに戻ったら振り込みで支払ってくれればいいよ」というイタリア的なのんきぶりを発揮して、参加者を笑わせていました(実際帰宅後に振込みました)。

リバートレッキング用の装備はレンタル可能。枠が空いていれば飛び込みでの参加もOKです。この日の参加者は我が家の3人のみ。ガイドさんは娘の素朴な疑問にも丁寧に答えてくれ、おしゃべりにも花が咲き、思い出に残るトレッキングになりました。

イタリアは大自然の宝庫。都市観光だけでなく、山歩きを通じてその魅力を満喫できます。北から南まで整備されたトレッキングコースがあり、体力や日程に合わせて選べるのが魅力。必要な装備と情報収集を忘れず、イタリアの自然に出会ってみてください。

cucciola

ライター

cucciola

ヨーロッパの片田舎で家族と3人暮らし。

学生時代に都会の生活で心を病んで以降、スローライフとスローフードで心身の健康を維持。気が向くまま、思いつくまま、風まかせの旅行が多数。

アートと書籍を愛するビブリオフィリアで1人の時間が大好き。