水辺の魅力の一つである「ザリガニ釣り」。しかし、本州に生息するザリガニのほとんどは、外来種アメリカザリガニだと知っていますか?アメリカザリガニは法律により、条件付特定外来生物に指定されています。「ザリガニ釣り」はもうできないのでしょうか?この記事では、外来種・外来生物とは何か、法律で定められたルールなどついて、子ども×環境教育の視点からお伝えします。
水辺で出合うザリガニの正体
夏の水辺で、ザリガニ釣りを楽しんだ思い出のある人も多いのではないでしょうか。池や田んぼ、水路など、身近な場所で見かける赤っぽいザリガニは、実は日本に昔からいた種ではなくアメリカザリガニという外来種です。
ここでは、日本にいるザリガニの種類、生態系への影響、外来生物法での取り扱いについて紹介します。また、ザリガニを釣ったあとの対処についても具体的に説明するので、ぜひ参考にしてください。
外来種とは?
外来種とは、人間の手によって自然に分布する生息域から別の場所に導入された生きものです。なお、本州に生息していた在来種が、生息域でない北海道に人の手によって持ち込まれるなど、国内での移送の場合も含まれます。
外来種は入ってきては消えてを繰り返し、いま国内で確認されているのは植物、昆虫、動物など約2千種類とのことです。なお外来生物法では、増加が顕著になった明治時代以降にやってきた外来種を主に対象としています。
釣れるザリガニは外来種
池や田んぼ、水路などの身近な場所でザリガニ釣りを楽しむ場合、釣れるザリガニはほぼ間違いなく外来種です。
日本にもともといた在来種であるニホンザリガニは、北海道と東北の一部、広葉樹の森の河川上流部で水温が20℃を超えないような所が生息地であり、簡単には出合えません。
現在、すべての都道府県で見られるのがアメリカザリガニで、これは1927年にウシガエルのえさとしてアメリカから持ち込まれたものです。また、一部地域ではウチダザリガニも確認されており、こちらも北米原産の外来種でアメリカザリガニよりも冷たい水温を好みます。
アメリカザリガニが広まった背景には、自然の分散だけでなくペットなどとして飼われたものが捨てられたり逃げ出したりするなど、人による移動が大きく関わってきました。
ザリガニが及ぼす生態系への影響
アメリカザリガニは、生態系に深刻な悪影響をもたらしています。水辺の水草を食べることで、在来種の水草が減少するだけでなく、魚やカエル、水生昆虫などのすみかも失われていきます。さらに、魚や水生昆虫の卵や幼生を捕食する点も大きな問題です。
このように多くの生きものに影響を及ぼし、個体数が減少したり生息地から姿を消したりすることで、生物多様性が損なわれてしまいます。生物の減少によって食物連鎖や分解のバランスが崩れると、水質の悪化にもつながる可能性があります。
さらに、アメリカザリガニがザリガニペスト(アファノマイシス菌)を媒介することも懸念材料です。致命的な病気であり、在来のニホンザリガニが大量死した例も報告されています。
このように、アメリカザリガニの及ぼすさまざまな悪影響がわかっていますが、捕獲して個体数を減らすことにより、本来の生物相が劇的に回復する可能性も明らかになっています。
ザリガニ釣りはもうできない?釣ったらどうする?
ザリガニ釣り自体は禁止されていませんが、釣ったザリガニの扱いには注意が必要です。外来生物法に基づき、2023年6月にアメリカザリガニとアカミミガメの2種が条件付特定外来生物に指定されています。
条件付特定外来生物は特定外来生物の一部ですが、家庭で飼うことや譲り渡すことは禁止されていません。禁止されているのは、野外への放出と販売目的の譲渡や飼養です。
一度移動させてしまったザリガニは、原則として野外に放すことができないため、釣ったザリガニを移動しないことが重要です。つまり、そのままそっと戻すことはできます。
もし、釣ったザリガニを持ち帰りたい場合には、最期まで大切に飼うことが大前提です。やむを得ない事情で飼い続けられない場合には、責任をもって飼える人を探して譲り渡すしかありません。この場合、法的な手続きは不要です。
万一、適切な譲り渡し先が見つからない場合は、殺処分することもやむを得ません。そのような事態を避けるため、自分で最期まで飼う覚悟がない限り、野外のザリガニを移動しないよう気をつけましょう。
ザリガニだけじゃない、外来種の影響とは?
外来種は生態系や文化財、農業生産などに影響を及ぼす場合があります。また、なかには現時点で特段の悪影響が確認されていないものも存在します。
「外来種はすべて悪者?」その疑問に対し、明確に答えるのは難しいでしょう。ここでは、外来種が与える影響について具体的な事例を挙げて説明します。
悪影響を及ぼす例
外来種による被害が、社会問題となっているケースがあります。よく知られた例が、ハブ対策として奄美大島に導入されたマングース。
実際にはハブではなくアマミノクロウサギなどの貴重な在来種を捕食し、奄美の固有の生態系が失われ大きな問題となりました。約30年間駆除を続け、2,000年以降は約36億円を投入し2024年9月に根絶宣言に至っています。
またアライグマは、北米からペット用に連れて来られたものが野生化して広まりました。サンショウウオなど希少な両性類や、樹洞に巣を作る鳥類の卵や雛を食べることから生態系への影響が心配されています。
また、寺社などに侵入してねぐらにし糞尿で荒らすため、文化財への被害も深刻です。外来生物法の特定外来生物に指定され、各地で防除対策が実施されています。
人間のせいで持ち込まれ広まった外来種を駆除せざるを得ない現実。日本固有の生態系と在来種を守るという面では納得いきますが、外来種も在来種も命の重みは変わらないという視点からは、もやもやが残ります。
悪影響がわからない例
外来種の中には、特段問題とならない種もあります。たとえば野原で見かけるシロツメクサ。身近な花として親しまれていますが、江戸時代後期に持ち込まれた外来種です。
また、クサガメも在来種とされてきましたが、中国から持ち込まれた外来種の可能性が指摘されています。さらに、モンシロチョウも奈良時代に作物と一緒に持ち込まれたという説があります。
これらの生物は日本の自然に馴染んでおり、生態系の一部として捕食者のえさになるなど、役割を果たしてきました。すべての外来種が悪者というわけではなく、また、現時点で問題が生じてなくても将来的に悪影響が表れる可能性は否定できません。悪者か、そうでないかは私たちの価値観次第なのです。
私たちにできること
外来種の問題が注目を集めている今、私たち個人にもできることがあります。
ペットは最後まで飼う
アライグマやアメリカザリガニが広まったのは、飼いきれなくなったペットが放され野生化したのが一因です。外国産の昆虫もお店で買える世の中ですが、ペットとする前に野外に放さないことを心に誓いましょう。
地域の自然や生きものにもっと関心を持つ
身の回りにどんな生きものがいて、どのようなつながりで生態系が成り立っているのかを知ることが大切です。昔は身近な自然を敬いながら手入れすることで、自然の恵みを得てきました。
自然との関わりが薄れつつある現在、人間の都合で好き勝手に開発を進めた結果、外来種が急増する余地が生まれたと考えられます。地域の自然を知り、人が自然とどう付き合っていくべきか、大人はもちろん、子どもも子どもなりの意見を持てるはずです。自然と人との理想的な関係について、子どもと一緒に考えてみませんか?
参考元
どんな生き物? 身近だけど、ヤバイ奴! | 環境省
何が問題なの? 水草、全部切る!? | 環境省
どうつきあえば良い? 逃がすのはダメ!ゼッタイ!|環境省
ライター
曽我部倫子
東京都在住。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、小さなお子さんや保護者を対象に、自然に直接触れる体験を提供している。
子ども × 環境教育の活動経歴は20年ほど。谷津田の保全に関わり、生きもの探しが大好き。また、Webライターとして環境問題やSDGs、GXなどをテーマに執筆している。三児の母。