おしゃれなイメージのあるワインですが、近年は気軽に楽しむ人が増えています。だからこそ知っておきたい、ワインの文化。ナチュラルやオーガニック、ビオディナミのワインは、サステナブルの哲学を実践して生まれたものです。それぞれのタイプの特徴をお伝えします。
ナチュラル、オーガニック、ビオディナミのワイン、それぞれの特徴
サステナブルなワインといっても、種類はいくつかあります。区別がつきにくいナチュラルワイン・オーガニックワイン・ビオディナミワインを、それぞれ解説します。
ナチュラルワイン
ナチュラルワインとは、ワイン生産の全工程において、人の手をできるだけ加えずに造るワインのことです。ワインの原料となるブドウの栽培では、化学肥料や殺虫剤、農薬や酸化防止剤等の使用を控え、醸造過程では自然酵母を活用します。
自然の力を最大限に活用して造られるワインは、ブドウの生き生きとした味わいが楽しめるほか、芯のある風味も感じられます。
オーガニックワイン
オーガニックワインは、有機(オーガニック)栽培したブドウを原料に造られるワインを指します。合成農薬、除草剤、化学肥料を使わず、土壌と生物の多様性を尊重する有機農法には、ワインをおいしくする要素がいくつかあります。
たとえばミネラル。ワインの味を表現するときによく使われる「ミネラル感」は、有機農法によってより際立ちます。ブドウの木の根は、農薬等の介入を受けずに深く成長するため土壌中の、より豊富なミネラルを吸収するためです。
オーガニックワインは、ブドウの栽培過程に焦点をおく名称です。収穫後のブドウを使った生産過程では、保存料として亜硫酸塩を添加することがあります。
ビオディナミワイン
「ビオディナミ」とはフランス語で「生物動力学」の意味。英語で「バイオダイナミック」と呼ばれることもあります。雨の影響で防カビ剤を使うケースがあるオーガニック農法と違い、人工的なものを徹底的に排除しています。
また、ビオディナミ農法は、ドイツの思想家ルドルフ・シュタイナーの提唱によって誕生した概念であり、天体の動きも考慮しています。ブドウ畑全体をひとつの生命体と解釈し、大地、空気、植物、動物の調和を図ることで、よりおいしいブドウを収穫するという方法です。
さらに、土壌の力を引き出すために牛の角を埋めたり、水晶の粉を使ったりするなど、宗教的なニュアンスを感じられる点もあります。
どこか神秘的なビオディナミ農法から造られるワインは、強い生命力が宿っているといわれています。ワイン造りそのものが哲学といわれますから、ビオディナミ農法とは相性がよいのかもしれません。
伝統と革新のバランスによって生まれるワイン
大量生産の時代から、造り手のこだわりをこめた伝統への回帰。サステナブルのワインを可能にした、ワイン事情をご紹介します。
原点回帰と革新によって可能になった持続可能なワイン
そもそも、なぜ、サステナブルなワインが注目されているのでしょうか。
ワイン造りは、第二次世界大戦後に大きく変わりました。効率性や生産性を重視した結果、化学肥料や農薬が過剰に使われて、土壌に生息していた多くの微生物が死滅。そして、土壌の質が落ち、ブドウの根が深く成長できない状況が生まれました。
ブドウの質が落ちれば、ワインの味わいも低下します。危機感を抱いたワイン生産者たちは、1980年代から方針を転換。農薬を使わず、土壌の健全化を目指したのです。
8000年の歴史があるといわれるワイン造りは、造り手の努力によって現在にいたります。近代的な大規模生産から原点回帰へと向かう一方、コストの削減や新たなテクノロジーの導入で、多くのサステナブルワインが世に出るようになったのです。
世界のサステナブルなワイン生産
ワインといえばフランスが思い浮かびますが、ロマネ・コンティを生み出すブルゴーニュや、シャンパンの本家シャンパーニュ地方では、早くから「リュット・ネゾネ」と呼ばれる減農薬農法が導入されていました。高名なワイナリーでは、オーガニック農法や手摘みの収穫、自然酵母を使った生産が主流となってきています。
スパークリングワインが有名なシャンパーニュでは、気候変動に対応できるビオディナミ農法を用いるワイナリーが増えています。スパークリングワインのポイントとなる酸味の維持が、サステナブルな農法によって可能になりました。
新世界で注目すべきはオーストラリア。旧世界に劣らない質の高いワインで知名度を上げてきたオーストラリアのワイナリーでは、炭素排出量の削減や、気候の変動に強いブドウの栽培に取り組み、高い評価を得ています。
ワインツーリズムの隆盛が語ること
欧州では今、ワインツーリズムが人気です。かつてワインツーリズムといえば、ワイナリーを訪れて、ワインを試飲する、というものでした。
しかし、ワインはストーリー性やドラマチックな要素も重要。土地や文化と深い関連のあるワインを知ったり、屋外でブドウの収穫を体験したり、地元産の食材とあわせた食事とワインを飲んだりするなど、内容も多彩になってきました。
文化的価値のあるワインを学ぶことで、訪問者は大いに啓蒙されます。ナチュラルワインやオーガニックワインを生産しているワイナリーを訪れることで、ワインを介し、地球環境に興味をもつケースが増えています。
サステナブルなワインの売れ行きが好調な理由は、ワインツーリズムの隆盛にもあるといえるでしょう。
サステナブルに貢献!おいしくて有意義なワインの選び方
サステナブルを意識しながらワインを楽しむためには、どのような点に注目すべきでしょうか。地球環境に貢献できるワインの選び方を紹介します。
ワインの認証マークをチェック
サステナブルなワインを選ぶ目安となるのが、認証マークです。オーガニックやビオディナミワインが分かる認証マークは以下のようなもの。
USDA(アメリカ):アメリカの農務省による認証。合成物質を使用せず、原材料がオーガニックであることの保証です。
EUオーガニック(欧州連合):葉の形をした認証マーク。EUの有機規制の条件をクリアしたワインに貼られています。
Biodyvin(ヨーロッパ):厳格なビオディナミ手法を用いて造られた欧州産のワインにみられます。
デメテール:インターナショナルに通用するビオディナミの認証。天然化合物の不使用や、月の周期に準じた栽培を行ったブドウを原料としたワインに添付されます。
未来型のワインに注目
サステナブルなワインは、トレンドという領域を超えて、世界中で主流になりつつあります。生産者は、伝統や最新技術導入のバランスを保ちながら変動する気候に対応し、環境を保護するワイン造りへの努力を続けています。
私たち消費者は、8000年の歴史をもつワインの文化を守るために、またよりよい地球環境を次の世代へとバトンタッチするためにも、意識してワインを選ぶことが求められています。
変化し続けるワインに、ぜひ注目してみましょう。
参照元:
Viva la sostenibilita nella vitivinicoltura in Italia
WineSuite「Sostenibilità a 360 gradi nel mondo del vino: spunti e riflessioni dal WTS 2023」
ENOTECAonline「知っておきたい!自然派ワインの特徴~ビオディナミやオーガニックの違い~」
エコール・デ・ヴァン・エ・スピリテュー『一生に一冊はもっておきたいワインの教科書』2022年、日本文芸社
杉山明日香『ワインの授業 フランス編』2024年、イーストプレス
Caetano Vilar『未来のワイン: ナチュラル、オーガニック、バイオダイナミックワインの革命』2024年、アマゾンキンドル
ライター
cucciola
ヨーロッパの片田舎で家族と3人暮らし。
学生時代に都会の生活で心を病んで以降、スローライフとスローフードで心身の健康を維持。気が向くまま、思いつくまま、風まかせの旅行が多数。
アートと書籍を愛するビブリオフィリアで1人の時間が大好き。