UIAA国際山岳連合医療部会の提言:登山者の栄養問題
高地での食欲減退の問題
どのようなスポーツにも栄養が重要であることは言うまでもありません。
特に登山の場合(長期にわたる縦走やアルパイン登攀、遠征トレッキング、海外に出かけて行う遠征登山)は、適切な栄養と水分の摂取が想像以上に難しくなります。
そのため、栄養の摂取方法は登山における極めて重要な課題の一つです。高山では標高が高くなるにつれて味覚が薄くなり、食欲が減退します。
にもかかわらず、高山でのカロリー消費量は平地の約倍です。登山ではどうしても体重減少という問題が避けられません。どうしたら体重減少を防ぐことができるのでしょうか。
高地では満腹感がすぐにおこり、食欲が低下します。標高3600mを越すと明らかな体重減少が起こりはじめます。空腹感があるのに高山病とは別の症状で吐き気をもよおすこともあります。
以上のようなことをしっかりと認識した上で、登山中は食べやすい食料を持参して意識的に多めに摂取するように心がけましょう。
食材の調理は出発前にシミュレーションしておく
「平地では食べられたけれども、高地に持って行ったら調理できなくて食べられなかった」ということがないように、あらかじめ出発前に調理方法をおさらいしておくようにしましょう。
また、包装してあるレトルト食品の場合は、事前に口にあうかどうか試食しておくことも大切です。「現地に持って行ったけれどもまずくて食べられなかった」といった事態だけは避けたいもの。
水でもどして食べる食材(レンズ豆、カラスムギ)なども、事前に食べ方をシミュレーションしておきましょう。
出発前に血中の鉄分を測定(特に女性)
出発前には医療機関で自身の血中鉄分量を測定して異常がないか確認しておきましょう。特に女性の場合は鉄欠乏症貧血の人が多いので検査は欠かせません。
参考:山における栄養問題
UIAA国際山岳連合医療部会の提言:登山者の下痢問題
高地での体内液体バランスの問題
高山病は体内液体バランスの崩れが原因となって起こる病理現象です。特に高所での下痢による脱水症状は深刻な健康問題をひきおこします。
高所で体内の液体バランスを維持するためは、十分な量の安全な飲料水と電解質(正しい比率の塩分と糖分)をこまめに摂取することが重要です。
水分摂取のおおよその目安は尿の色で判断できます。適切に水分の摂取が行われている状態の尿の色は淡黄色をしています。尿の色が暗黄色や淡褐色の場合は、水分が不足しているサインです。
平地では1日に2Lから3Lの水分摂取が必要ですが、登山ではその倍の4Lから5Lの水分を摂取する必要があります。
高地での飲料水の問題
高山では安全な飲料水の確保が難しいことがあります。雪や氷を溶かして、科学的な処理で殺菌した水を飲む場面も出てくるでしょう。
特に多くの登山者が使うルート近くを流れる小川は、糞便による汚染の恐れがあるので、塩素を含有するピュリタブやマルチマン、ミクロピュア、セルティシルなどを使って殺菌してください。
参考:山における栄養問題
UIAA国際山岳連合医療部会の提言:山中での水の消毒
水の消毒方法には大きく分けて「煮沸」「科学的消毒」「濾過」の3つがあります。
煮沸による水の消毒
高地の場合は水の沸点が低いため、平地のように水の温度が100℃に達しません。完全な消毒は不可能です。
ただし、A型肝炎ウイルス以外(高所にA型肝炎ウイルスがある確率は低い)の雑菌は死滅するので下痢対策としては有効でしょう。
科学的水の消毒
科学的消毒とは薬品を使って水を消毒する方法です。現地で比較的手に入りやすい薬品に「次亜塩素酸ナトリウム」「次亜塩素酸カルシウム」があります。
「純粋ヨウ素」「ヨウ素」を含む消毒剤は副作用が出る恐れがあるので使用を控えた方がいいでしょう。薬品臭さが気になる場合は、ビタミンCの粉末を添加すると臭みがおさまります。
濾過による水の消毒
フィルターを使用した水の消毒方法は、フィルター素材や機能についての深い知識が必要です(どの程度の雑菌が濾過できるのか、フィルターが目詰まりしたときの対応など)。
濾過による水の消毒では、完全にウイルスが取り除けません。薬品による殺菌と併用しましょう。
飲料水について不安のない信用できるツアーに参加しよう
登山者の健康を守る使命感を持った、信用できる登山ツアーに参加することが重要です。そういったツアーであれば、現地で飲料水が不足することは少ないでしょう。
国際的な基準に準拠しているツアー会社かどうか、あらかじめ確認しておくことも大切です。
ツアーの主催者が遵守しなければならない内容は、「UIAA MedCom Consensus Statement No.6: Water Disinfection in the Mountains」で規定されています。
参考:飲料水の消毒
この記事を書いた人
Greenfield編集部
【自然と学び 遊ぶをつなぐ】
日本のアウトドア・レジャースポーツ産業の発展を促進する事を目的に掲げ記事を配信をするGreenfield編集部。これからアウトドア・レジャースポーツにチャレンジする方、初級者から中級者の方々をサポートいたします。