国内リゾート産業の盛衰
「リゾート」という言葉が定着したのは、総合保養地域整備法(リゾート法)が施行された、1987年頃だと言われています。
その後、テーマパークや大型宿泊施設のブームが到来しますが、当時のリゾート開発は投資回収という概念が強く、ゴルフ会員権などに象徴されるような、投資相場的なマネジメントが主流でした。
施設そのものの魅力は置き去りにされてきたため、バブル崩壊後には投資回収目的の施設は立ち行かなくなりました。
観光産業全体では、円相場などの為替動向も加わり、海外旅行ブームとして発展を続けましたが、国内観光業は伸び悩み、東京ディズニーランドなどの一部の成功事例を除くと、衰退の一途を辿っていきます。
理由は、バブル時代から続いた会員権や団体客の受け入れをベースにした経営方針が、多様化する顧客のニーズを掴むことは出来なくなってきたからです。
温泉や風光明媚な自然環境などの観光資源があるにもかかわらず、集客やサービス改善をするマネジメント力が不足していた結果と言えるでしょう。
また、家族経営の多い旅館業では、経営者の高齢化にともない、時代のトレンドに対応できなかったことも要因の一つです。
リゾート産業・旅館業が栄華を誇っていた時代のまま、同じ方法でマネジメントし続けている場合は、右肩上がりの成長は見込めません。
海外旅行は増加し、国内旅行は伸び悩む
近年、訪日外国人旅行者数は爆発的に伸びています。しかし日本は、2014年までは観光客動員数トップ30に入っておらず、フランスやアメリカなどの観光大国には遠く及ばない結果でした。
2016年以降は、2400万人まで観光客を増やし、香港、ギリシャ、ロシアに続く16位まで順位を上げてきましたが、観光先進国と比べると、まだ半数から1/3に過ぎませんでした。
【参考資料】日本政府観光局(JNTO)
常にトップクラスのフランス、アメリカ、中国、スペイン、イタリアと比べ、日本に足りないものは何でしょうか。
歴史文化、治安の良さ、交通のインフラなどを比べてみても、観光先進国との差は感じられませんが、なぜ日本人の海外旅行者は増え続け、訪日外国人旅行者や国内旅行者が伸び悩むことになったのでしょうか。
そのカギとなるのは、訪れるたびに新しい発見がある東京ディズニーランドやユニバーサルスタジオのように、集客につなげリピーターとして定着させる「マネジメント」や「チェンジマネジメント」でしょう。
グローバル化の時代には、観光業は国内だけにとどまらず世界とも競争する力が必要になってきています。
歴史ある日本の伝統や美しい自然は、観光資源として高いポテンシャルを持っており、「おもてなし」に代表される日本人の国民性も、世界的に評価されている魅力です。
日本の観光地としての魅力について、どのようにアピールしていったのか、魅力ある組織の作り方を実践する星野リゾートのチェンジマネジメントをご紹介していきます。
ミクロ的な視点で魅力を再発見
星野リゾートは、リゾート再生事業にて成功しています。リゾート再生事業では、施設や地域の魅力を再発見し、発信することが最初のプロセスです。
観光業をマクロ的な視点でみると、運営者と所有者の分離化やグローバル化への対応が必須です。
一方で、各施設が魅力ある観光資源を開発して、集客や顧客のリピート化を図るためには、ミクロ的な視点をもつことが重要になります。
そのために星野リゾートでは、本部からの指示ではなく、その施設で実際に勤務するスタッフの意見を尊重し、再生事業を成功させています。
施設のある地域で暮らし、誰よりもその地域を理解しているスタッフだからこそ、観光資源の魅力を発見することができるからです。
例えば、トマムリゾートの雲海テラス、奥入瀬渓流の苔、古牧温泉の青森屋などは、顧客に伝えたいそれぞれの地域の魅力を、各施設のスタッフが考え抜き、試行錯誤してできた新たなリゾートです。
大手チェーンの宿泊施設では、経営トップ層が考えるマクロ的要素の強いマネジメントでスタッフを束ねてしまいがちですが、星野リゾートでは、マクロ的視点加えてスタッフ一人一人がミクロ的に考えることで、再生事業を成功させてきました。
意思決定プロセスの構築
企業や組織において、常に求められる意思決定は、整合性とスピード感が求められます。
家族経営の中小零細企業が多い旅館業では、創業者やトップ経営者の意見が強く通ってしまう傾向がありますが、顧客の反応やニーズをより身近に感じているのが、現場のスタッフです。
スタッフの意見を集約し、意思決定プロセスに盛り込む施策を実施するようになると、施設の顧客から良いフィードバックが得られるようになるかもしれません。
星野リゾートは、再生事業のために組織の再構築を行い、各部門を細分化したそうです。
その細分化されたユニット(グループ)の意見をまとめ、各リーダーによるミーティングなどにより、各セクションの意思疎通とより良いサービスの提供を考えました。
星野リゾートはチェンジマネジメントの一つとして、意思決定プロセスをトップダウンの一方的な指示ではなく、顧客により近いスタッフまでへ拡大し、フラットな組織を生み出すことに成功しました。
情報共有で顧客満足度が向上
組織において、業務の生産性を向上させるために、各セクションの情報共有は重要なポイントです。
組織の情報共有が円滑になると、ノウハウや技術などの教育、ミーティングの短縮化などのメリットのほか、顧客情報の共有にも良い影響があります。
旅館業をはじめサービス業では、顧客のニーズを把握しリピーターにつなげるために、顧客満足度の追求が不可欠です。
例えば宿泊客の食事での好き嫌いやアレルギー、好みといった情報が、飲食部門、接客部門、予約カウンターなど各セクションで共有できれば、より高い顧客満足につながります。
星野リゾートでは、アンケートや満足度調査の結果を、WEB上のクラウドツールで可視化しています。
情報共有の目的を「お客様の満足度を向上するため」であると明確化し、各セクションで企画・実行された施策の顧客からの評価を、全セクションで共有することで更なる改善を図っています。
また、星野リゾートの「フラット式」経営により、多くのセクションで情報共有することにより、チームワークやコミュニケーションも活性化しています。
リーダーシップを育む環境作り
星野リゾートが行うチェンジマネジメントでは、施設やサービスなどの他、魅力的な人材のマネジメントにも重点を置いており、組織の階層と昇級方法には驚かされます。
課長、部長などの役職は存在せず、どの施設でも「総支配人」と「プレイヤー」しかないというフラットな二層構造を採用しています。
何人かのプレイヤーで組まれたユニットのリーダーを、ユニットディレクターと呼び、総支配人もユニットディレクターも立候補制を採用しています。
立候補したスタッフは、全社員に向けて企画や運営のプレゼンテーションを行い、みんなからの支持を得て昇級するシステム。
プレイヤーのスタッフ一人一人が学び、体験し、挑戦する土壌を作り、自らが経営的思考でより良いサービスとコストバランスを考えるよう指導しています。
「自分のキャリアは自分で作る」をコンセプトに魅力ある組織を作ることが、施設としての魅力にもなっているのではないでしょうか。
ライター
Greenfield編集部
【自然と学び 遊ぶをつなぐ】
日本のアウトドア・レジャースポーツ産業の発展を促進する事を目的に掲げ記事を配信をするGreenfield編集部。これからアウトドア・レジャースポーツにチャレンジする方、初級者から中級者の方々をサポートいたします。