ダイビングで水分補給が必要な理由
水分が不足すると、体は脱水状態になり多くの不調をもたらします。
【ひどい脱水状態の場合】
・頭痛や吐き気
・脱力感、精神不安定、イライラ、錯乱
・めまい、筋肉の麻痺、精神の錯乱
・筋肉の麻痺、体温調整機能の低下(汗が出なくなる)
・意識レベルの低下、失神
水分損失率が3%を超えると汗が出なくなり、さらに20%を超えれば生命の危険に至ります。
もちろんこれはダイバーであろうとなかろうと同じことです。脱水は健康状態に悪い影響を与えるため、絶対に回避すべきなのです。
脱水症状と減圧症
ダイバーにとって水分不足は減圧症発症のリスク要因となります。なぜなら、水分が不足すると血しょう量および組織への血流が減少し血流が悪くなります。
さらに、血液は体に栄養を運搬しガス交換の役割を果たすので、窒素の排出に悪影響を与えて減圧症を発症するリスクが高まるからです。
ダイビングにおける水分補給の重要性
水分不足が減圧症のリスクを高めるとともに、ダイビングという行為そのものが脱水状態になるリスクを増加させます。しかし、意識して水分補給をしているダイバーは少ないのが現実ではないでしょうか?
それどころか、ダイビング中にトイレに行きたくなるリスクを恐れて、水分をあまり摂らないようにしているダイバーも見かけることもあります。
水分補給の大切さは理解していても、なかなか実践できていないというダイバーが多いようです。
水分補給は無視してよい問題ではありませんが、とくに南の島へのダイビング旅行に出かけるときは、ふだん以上に水分補給の重要性を意識する必要があるでしょう。
ダイビング旅行での注意点
南の島へダイビング旅行中のダイバーは、潜る本数が増え、熱帯気候も加わり、通常よりも水分不足になる要因が増えます。
まず、ダイバーは飛行機に搭乗した時点から脱水は始まります。機内の空気は地上よりもかなり乾燥しているため、搭乗中は体からどんどん水分が失われていきます。
くわえて、多くの旅行者はフライト中に十分な水分を取らず、利尿作用のあるコーヒーやコーラなどのカフェイン飲料、あるいはビールなどのアルコールを摂取することが多いため、かえって脱水症状を引き起こしやすくなっているのです。
ダイビング旅行中に脱水状態になる要因は、ほかにもたくさんあります。
強い日差しと日焼け
人気のダイビングリゾートのほとんどが熱帯または亜熱帯の気候であり、普段よりも多く汗をかくことになります。
また、日焼けは一種のやけどなので、皮膚が赤く熱くなり、体内の水分は加速的に失われていくことになります。
海水の塩分
海から上がると肌に残った海水が乾燥し、粉を吹いたような結晶になります。この結晶は肌から水分をうばい、さらに脱水を加速させてしまいます。
ダイビング中の発汗
水中ではウエットスーツにより体温を保ちますが、日差しの強い陸上ではウエットスーツを着ているだけで大量の汗をかいてしまいます。
Tシャツを着ているときの汗の量と、ウエットスーツを着ている時の汗の量では、比較にならないほどです。
ダイビング中の浸水利尿
ダイビング中は水圧や冷水温の影響で手足の血管が収縮し、血液が体幹(体の中心部)に移動し、内臓を暖かく保とうとします。
ところが、脳は体幹への血液量増加を水分過剰と認識し、肝臓はこの水分過剰に反応して多くの尿を生成するため、結果、体から水分と塩分が失われることになります。
ダイビング中や直後に排尿したくなる現象を「浸水利尿」と呼びますが、これは水分の過剰摂取が原因ではなく、体の生理現象によって多くの水分が失われていることによるのです。
圧縮空気の呼吸
スクーバタンク内の空気は非常に乾燥しており、体がさらに水分を失うことを避けることはできません。
また、低水温の水中では、肺の中の空気をあたためるため、より肺に負担がかかり水分損失量はさらに増加します。
吐き気や下痢
飲み過ぎや船酔いなどで嘔吐すると、いっきに大量の水分と塩分を失うため、脱水を加速させてしまいます。また、旅行中の慣れない食事による下痢などの症状でも同様です。
ダイビング後のアルコール
飲酒をしてからのダイビングは厳禁ですが、旅行中に多少のお酒を楽しむことは珍しいことではありません。
しかし、アルコールは利尿作用があり、排尿量が増加することで脱水症状を加速させてしまいます。なお、カフェインを含むコーヒーや紅茶などの飲み物も同様の作用があります。
脱水症状への対処
ほとんどの場合、脱水の症状は軽度であることが多く、水分を補給することで簡単に解決することができます。
ミネラルウォーターに加え、経口補水液やアイソトニック飲料を飲むと、失われた塩分や電解質も補給できるとされています。
ただし、水分を補給しても症状が改善しないときや、重度の症状がはっきり見られる場合は、すぐに医師の処置を受けるようにしましょう。
手軽な水分補給の方法
もっとも簡単な脱水症の予防方法は、大量の水分を摂ることです。
ところが、大量の水をいっきに飲むと血しょうの量が急激に増加し、その結果、尿量が増えるのみで体組織に水分はいきわたりません。
そのため、ダイビング前後に水をまとめて飲むのではなく、15~20分ごとにコップ1杯程度の水を小分けに飲むほうがいいでしょう。
この方法なら組織に水分がしっかりと補給され、気泡形成と減圧症発生につながるガス交換の制御を防ぐことができます
必要な水分量は、個人の体格などの要因によって異なりますが、1日の通常水分量に加え、ダイビング旅行中は少なくとも2Lの水を飲むことで十分な水分量を保つことができるでしょう。