地産地消・有機農業の生産拠点づくりを目指し、2023年に石川県珠洲市で開村した「Farmer’s Village Noto」(ファーマーズヴィレッジノト)。しかし翌年の2024年、能登半島地震が発生。能登での活動は、一時休止を余儀なくされました。それでも代表の洲崎邦郎(すさき くにお)さんの「農業で復興するべき」という力強い思いから、2026年春、Farmer’s Village Notoは再び能登で動き出します。前編では、Farmer’s Village Notoのこれまでの歩みと震災後の課題について、洲崎さんへの取材を通してお伝えします。
能登半島に農業の一大生産拠点をつくる「Farmer’s Village Noto」
HPのトップに掲げられているのは、「能登半島に地球が喜ぶ農業の一大生産拠点を。農業と子供の未来をつくる」というメッセージ。
そのメッセージには、安心安全な農業を通して子どもたちの健康を守り、地域の未来を育てるという想いが込められていました。
目指すのは、「食べる」だけではなく交流もできる拠点
2023年、石川県珠洲市にて開村したFarmer’s Village Noto。地産地消の推進と、有機農業の生産拠点づくりを目指して始まった活動です。
農家の移住をすすめ、能登に生産拠点をつくること。収穫した農産物を、石川県内の学校給食の食材として供給すること。マルシェなど、農家と消費者の交流の場を作ること。そしていつでも農作業に参加できること。
「食べる」だけではない、「作る」「学ぶ」「参加する」新たな拠点を、Farmer’s Village Notoは目指しています。
その原点は、洲崎さんが営む石川県野々市市(ののいちし)の八百屋「香土(カグツチ)」にありました。
子どもたちに食べてもらえる出口を
約16年前に、石川県の能登島で農業を始めた洲崎さん。消費者とのふれあいを通して、洲崎さんの中に「農業で大事なのは、消費者とどう関わるかということ。つまり出口を作ることだ」という考えが芽生えました。
その想いで誕生したのが、石川県の農家さんを応援する八百屋「香土」。「香土」では、新たに子育て世代との“縁”が結ばれます。
「お母さんから、『この野菜は農薬を使っていますか。』と聞かれるんです。わたしは無農薬や有機にこだわっているわけではなかったんですが、『石川県産なので、鮮度は抜群ですよ』と説明すると、安心して買ってくれる人が多かったですね」
香土での対話をとおして、「何がなんでも、子どもたちに食べてもらえる出口をつくりたい。そのためには、農薬や化学肥料に頼らない、安心できる野菜にしなくては」という決意が、洲崎さんの中に生まれました。
その決意はやがて、Farmer’s Village Notoが掲げる「能登半島に、200ha規模の農薬や化学肥料を使わない生産拠点をつくる」という構想へとつながります。
「子どもは国の宝です。子どもたちが、これからの未来をつくる。健康を守るためにも、子どもたちの食生活は、安心安全でしっかりしたものでないといけません」
子どもたちが地元の野菜を口にし、「今日のトマト、味が濃い」と感じる体験をつくりたいと話す洲崎さん。Farmer’s Village Notoの出口となるのは、子どもたちみんなが口にする学校給食です。
地域の農業や、子どもたちの未来を育てるために。洲崎さんたちは、地産地消の拠点づくりにむけて動き出しました。しかし2024年、Farmer’s Village Notoは、思わぬ出来事によって立ち止まってしまいます。
震災後の能登で、直面した“食”の課題

2024年1月1日、能登半島地震が発生。倒壊やインフラの崩壊など、石川県能登半島を中心に人々の暮らしへ甚大な被害をもたらしました。
そして地震は、地域の“食”を支えてきた農業にも、大きな爪痕を残しました。
Farmer’s Village Notoも拠点や畑が被災。珠洲市(すずし)から野々市市(ののいちし)へと、一時的に拠点を移す事態に。
とくに深刻だったのが、水田と水路の損壊です。洲崎さんは当時の状況について、「地面が割れているので、田に水を張れない。水路も崩れているので、水を田に引けなくて…。稲作農家には致命的ですよね」と語ります。
水田が機能しなければ、地域の主力である稲作は成り立ちません。さらに高齢化が進む農家にとって、震災後の復旧は身体的にも金銭的にも大きな負担に。
「『もうわし農業せんわ』って嘆く人もいっぱいいます」という洲崎さんの言葉には、現場の厳しさがにじみ出ていました。
人が手入れしない土地は、やがて荒れてしまいます。耕作放棄地が増えれば里山が荒れ、獣害など新たな課題も生まれるという悪循環に陥ってしまうのです。
その中でも「農業で復興すべき」と力強く話す洲崎さん。
農業が元気になれば田や畑が復活し、里山の風景が守られ、人の動きも生まれます。
特に地産地消に取り組むことで、地域の中でお金がまわり、より地域の経済が潤うでしょう。
「震災で住めなくなって、人がどんどん減ってしまう。それを食い止めてくれって周りから激励を受けました。元気をなくしたじいちゃんばあちゃんに、『若い人たちも農業したいって言ってるから、あんた農業教えてやってくれや』っていうのは私の仕事かなと思っています」
震災によって止まってしまったFarmer’s Village Notoの能登での歩み。しかし2026年、再び能登で動き出します。
ライター
そらたね
農業職公務員・食品メーカー勤務の経験をもとに、農業や食の大切さ、美味しいレシピを発信します。趣味は旅とカメラ。日本の四季を撮ること、旅行先で綺麗な海を見ることが大好き。生息地は主に田んぼ、畑、ときどき果樹園。