物価高騰や食の安全意識の高まりから、 “地産地消” や“食育”への関心が高まっています。今回は、京都府木津川市で葉物野菜や根菜など多品目の野菜をつくり、食育活動にも力を入れている野菜農家・市川浩之(いちかわひろゆき)さんにお話を伺いました。地産地消がなぜ地域を強くするのか。また家庭で実践できる食育のヒントを、市川さんの思いと共にお届けします。

地域の食を支える、多品目栽培の農家さん

食育 地産地消 農家

市川浩之さんは、京都府木津川市で小松菜・タマネギ・オクラ・大根・コカブなどを栽培する多品目栽培農家です。

いま、市場をメインにさまざまな販路を開拓する農家さんが増えています。なかでも市川さんは、スーパーなどの直売がメイン。地域のスーパーや直売所、3〜5店舗に野菜を出荷しています。

「市場出荷は、品質ではなく相場で値段が決まりますよね。いいものを作ったからといって、相応の値段がつくとは限らない。そして質を評価するのは、消費者ではなく仲買さんです。それなら、自分で値段を決められる直売で、実際に食べる消費者に評価してもらいたいと思ったんです」

直売をメインにすると決めた市川さん。1店舗あたりの売り上げを上げるために、多様な品目を少しずつ作り始めました。

「直売を始めてから消費者との接点が多くなりました。スーパーに野菜を並べているとき、『いつもご苦労さま』と声をかけてもらったり。僕の野菜だと知ったうえで買ってくれる人も増えています」

消費者に覚えてもらえるよう、市川さんの野菜には「パッ」と目を惹くユニークなラベルが貼られています。

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「消費者と直接つながれること」それが市川さんが直売を続ける理由です。

自分の地域で信頼できる農家さんを見つけることが大事

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野菜のおいしさの要素として、真っ先に”鮮度”を挙げた市川さん。

「収穫したてを口に運んでほしい」との言葉どおり、フレッシュな野菜を届けるために、ほぼ毎日スーパーへ足を運びます。

「僕が野菜を買うときは、葉の切り口がきれいか、しおれた葉が入っていないかなど、調製の仕方を見ることが多いです」

市場などで調製しているケースもありますが、調製が丁寧な農家さんは「いいものを届けたい」という想いが表れていると筆者も感じます。

鮮度や調製の丁寧さから「いい野菜を見分ける力」を養うことは、私たちにとって重要です。

また、直売コーナーには家庭菜園から大規模農家まで、さまざまな人が出荷してます。なかには、農薬使用や産地表示のルールを知らないまま販売している人もいるかもしれません。残念なことに、残留農薬の基準値超えや産地偽装が起きることもあります。

だからこそ、安心できる野菜を選ぶために機会があれば農家さんと話して、信頼できる人を見つけてほしいと市川さんはいいます。

地域の農家さんと話して、使っている農薬や肥料だったり、その人の栽培に対する姿勢を知ってほしい。一番いいのは、自分で野菜を作ることかな」

食育で広がる地産地消

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市川さんは直販に取り組むと同時に、食育にも力を入れています。

「野菜嫌いの息子が、僕の畑で作ったきゅうりを『おいしい』って何本も食べたんです」それをきっかけに、新鮮な野菜を子どもたちに届けることが一番うれしいと気づき、食育活動を始めたのだそうです。

活動の場は、小学生向けの大根・サツマイモなどの収穫体験や中学生向けの職業体験。野菜の作り方だけでなく、地域の農産物についても教えるのが市川さん流です。

「当尾(とうの)ごぼう」など木津川市で栽培されている野菜と土壌の特性の関係といった、知る機会の少ない地域の豆知識もわかりやすく伝えています。

「収穫体験に参加した子が、『おっちゃんの野菜、どこで買えるの?』と興味を持ってくれる。地域で食育に取り組むことで、僕を知り、野菜を買ってくれるといういい循環ができています。

「子どもが市川さんの野菜を収穫させてもらいました」と声をかけられることもあるのだとか。悪いことできないぐらいには、市川さんは地域で有名人になっているようです。

子どもたちから大人へと広がり、そして農産物を買うことで農家さんに還元される。市川さんが感じるように、食育と地産地消はつながっているのです。

子どもの好き嫌いを尊重する

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嫌いなものでも残さず食べるよう言われた経験は、きっと誰でもあると思います。それがトラウマになる人もいるでしょう。市川さんは「必要な栄養が摂れていれば、嫌いなものは無理に食べなくていいと思います」と話してくれました。

市川さん自身も昔は野菜全般苦手で、 ほうれん草やピーマンにおいては全く食べられなかったのだそう。

「食育活動に参加してくれる子どもたちには、『嫌いな種類があってもいいけど、全部嫌い!っていうのはやめようや』と伝えています」

”野菜”と一括りにするのではなく、子どもたちにとってまず大事なのは、チャレンジする姿勢です。そして、食べ物の好みは成長するにつれて変わることもあります。現に市川さんは、今では野菜を生でも食べられるようになりました。

子どもの「嫌い」を克服するには、「好き」も「嫌い」も尊重することが一番の近道かもしれません。

同じものを食べることが食育の第一歩

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市川さんに「家庭でできる食育のアイデアは?」と尋ねると「同じものを食べること」というとてもシンプルな回答が返ってきました。

親子で同じものを食べることで、共通の話題ができ、会話が生まれる。子どもが好きなカラフルなお菓子も、禁止するのではなく一緒に食べたらいい。もしかしたらそのお菓子がすごくおいしくて、大人もハマっちゃうかもしれないしね(笑)」

ひとりで食事する「孤食」や、家族それぞれが違うものを食べる「個食」が問題視されるいま。大事なのは、まさに「一緒に食卓を囲んで同じものを食べること」です。市川さんの回答は、シンプルながらも核心に触れる内容でした。

大人が食べてほしいものだけではなく、子どもが食べたいものも食卓に並べると、食卓はもっと賑やかで、楽しくなるのではないでしょうか。

自分の周りで作られている農産物を知ってほしい

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地元にどんな農家さんがいて、どんな野菜が作られているかをぜひ知ってほしい。」と市川さん。

「木津川市だけでも、葉物や大根などの根菜から、ナスやキュウリなどの果菜、お茶まで幅広く農産物が作られている。しかし、地域の農産物について、知ってもらう機会が少ないことが課題です」

近所のスーパーで、地域の農家さんの直売コーナーがあったらぜひ野菜を手に取ってみてください。袋に貼られたラベルには、生産者の名前がのっていることもあります。
調べてみると、SNSで畑の様子を発信していたり、収穫体験などのイベントを行っているかもしれませんよ。

「『木津川市の野菜といえば、市川さんという農家さんがいたなあ』と思い出してもらえたらうれしい。『木津川市の野菜=市川』という認識を広めることが今の目標です」

すてきな目標を掲げ、市川さんは今日も地産地消や食育に取り組んでいます。

市川さんのお話から、消費者として食育と地産地消に参加することで、地域の特産品について知ることができると感じました。地域の特産品を買うことは、地域の元気につながります。地域が元気になれば、住民である私たちの生活もよくなるでしょう。ぜひ自分の住む地域の農家さんと交流し、地域の特産品に触れ、そして味わってみてください。

そらたね

ライター

そらたね

農業職公務員・食品メーカー勤務の経験をもとに、農業や食の大切さ、美味しいレシピを発信します。趣味は旅とカメラ。日本の四季を撮ること、旅行先で綺麗な海を見ることが大好き。生息地は主に田んぼ、畑、ときどき果樹園。