筋力がなかなかつかないと感じることはありませんか?筆者は月に1、2回の登山と軽い筋トレを続けていましたが、筋力が育っている実感はなかなか得られませんでした。そこで栄養士のレクチャーを受けて知ったのは、筋肉が回復し、以前より強くなるのは山を下りてからの時間だということ。登山者にとって大切なのは、歩いた距離や標高差だけでなく、「何を食べ、どう回復するか」なのだと気づかされました。本記事では、登山後の回復を支え、次の山行につながる普段の食事の考え方をとおして、筋肉を無理なく育てていくヒントを紹介していきます。
月に1、2回の登山では足りないの?

一般的な登山者にとって、月に1〜2回の山行は決して少なくありません。仕事や家庭の都合を考えれば、むしろ現実的な頻度でしょう。それでも「体力がつかない」と感じてしまうのは、登山の負荷が毎回リセットされてしまうからかもしれません。登山は非日常の運動であり、次の山行までに時間が空くことで、筋肉は同じ刺激を継続的に受けにくくなります。
では筋トレを増やせばいいのかというと、これも簡単ではありません。筆者自身、ジムに通う時間が取れなかったり、そもそも筋トレが得意ではなかったりします。無理に増やした結果、続かなくなってしまっては意味がありません。だからこそ大切なのは、「がんばる量」を増やすことではなく、日常生活のなかでどう支えるかという視点なのです。
筋肉が回復し、強くなるタイミング
登山で使い切られた筋肉は、どのようにして育っていくのか見てみましょう。
山を歩いている間、筋肉は育っていない
登山は脚を酷使するため、「歩けば歩くほど筋肉がつく」と思われがちです。しかし実際には、長時間にわたり負荷がかかり続け、筋線維は一歩ごとに細かく傷ついています。
筋肉が大きく強くなるためには、負荷と回復がセットで必要です。登っている最中は、むしろ筋肉を削っている状態だといえるでしょう。
休養と食事がそろって始まる回復と再生
筋肉が回復し、以前より強く再生されるのは、下山後の休養時間です。傷ついた筋肉を修復するためには、材料となる栄養と回復時間の両方が欠かせません。
この時間をどう過ごすかが、次の山行での体の軽さを左右します。「よく寝たのに疲れが抜けない」と感じるときは、食事と休養のバランスを見直すことも大切です。
登山者が意識したい「食」の3つの軸

筋肉を支えるうえで意識したいのが、タンパク質・炭水化物・ビタミン/ミネラルの3つです。これらを組み合わせることで、回復効率の高い食事になります。
タンパク質:筋肉を直すための材料
タンパク質は、筋肉を修復・再生するための材料です。登山の翌日だけ多く摂ればよいというものではなく、日常的に少しずつ補うことで筋力アップにつながります。
皮なし鶏むね肉
疲労回復やスタミナの向上にも役に立ちます。
| 100g | タンパク質/22.3g | 脂質/1.5g |
卵
とくに白身は「天然のプロテイン」とも呼ばれます。
| 1個 | タンパク質/7.4g | 脂質/6.2g |
◇マグロ(赤身)
必須アミノ酸やビタミン類も豊富です。
| 100g | タンパク質/26g | 脂質/1.4g |
炭水化物:回復するためのエネルギー源
炭水化物は行動中のエネルギー源であるだけでなく、回復時に必要な筋肉内のグリコーゲンを補充し、タンパク質の分解を抑える働きがあります。
オートミール
食物繊維が豊富で、白米の約22倍ともいわれています。
| 80g | 炭水化物/55.3g | タンパク質/11.0g |
バナナ
ビタミンやミネラルも豊富で、行動食にも回復食にもなります。
| 1本 | 炭水化物/20.3g | タンパク質/1.1g |
サツマイモ
ビタミンB群やビタミンCも多く、登山後のむくみを軽減します。
| 100g | 炭水化物/33g | タンパク質/1.2g |
ビタミン・ミネラル:回復を助ける存在
ビタミンやミネラルは目立ちにくい存在ですが、疲労回復や代謝、体調管理に欠かせません。
豚肉
疲労回復だけなく、エネルギーの生成もサポートします。
| 100g | ビタミンB群/96g |
ブロッコリー
野菜のなかではタンパク質も比較的多く、食べるサプリメントともいわれています。
| 100g | ビタミンC/140mg |
レモン
免疫力が向上やクエン酸による疲労回復が期待できます。
| 100g | ビタミンC/100mg |
参考文献:食品学各論
山行シーン別・筋肉を支える食の考え方

登山中も下山後も、「何を食べればいいのか」は意外と迷うもの。同じ「食」でも、求められる役割はシーンごとに変わります。ここでは、登山前日・当日・下山後という山行の流れに沿って、筋肉を支える食の考え方を整理してみました。
登山前日:疲れを残さない準備
前日は、炭水化物とタンパク質を中心に、消化のよい食事を意識します。脂っこい揚げ物や食べ慣れない食材は、当日の不調を引き起こす可能性があるため控えると安心です。
・ごはん、うどん、食パン
・鶏むね肉、豚ヒレ肉、白身魚
・卵、豆腐、納豆
・ほうれん草、ブロッコリー、にんじん
・味噌汁、スープ類
登山当日:動き続けるための補給
朝食でしっかりエネルギーを摂り、行動中もこまめに補給します。「少量を何度も」が後半失速を防ぐコツです。糖質に加えて、脂質やタンパク質を少し組み合わせると持久力が保ちやすくなります。
・おにぎり、パン、バナナ
・カステラ、ようかん
・ナッツ類、チーズ
・エナジーバー、ドライフルーツ
下山後〜翌日:回復を促す食
下山後はできるだけゴールデンタイム(下山後30分)に栄養補給をするのがおすすめです。その後1〜2日は回復を意識した食事を続けましょう。「下山後は食欲がない」という場合は、スープやヨーグルトなど口にしやすいものからで構いませんよ。
・焼き魚、鶏肉、赤身肉
・卵料理、豆腐、納豆
・ごはん、パスタ
・野菜全般、きのこ類、海藻類
・ヨーグルト、牛乳
筋肉を育てる最後の条件は「しっかり休ませること」

どれだけ栄養を意識しても、筋肉が回復しきらなければ強くはなりません。登山は長時間にわたって筋肉を使い続けるため、下山後の体は想像以上にダメージを受けています。
下山後1〜2日は、過度な運動や筋トレを控え、筋肉を意識的に休ませる時間をつくることが大切です。激しい負荷をかけるよりも、軽いストレッチやゆったりした散歩程度にとどめましょう。
血流を促すストレッチや入浴、十分な睡眠は、食事で摂った栄養を筋肉へ届ける“仕上げ”の役割を果たします。食べる・休む・眠る――この3つがそろって初めて、登山で傷ついた筋肉は回復し強くなっていくのです。
ライター
yuki
幼少期からキャンプや釣り、スキーなどを楽しむアウトドアファミリーで育つ。10代後半は1人旅にハマりヨーロッパや北米を中心としたトラベラー期となる。現在もスキー、スノーボード、ダイビングなど海や山で活動中。「愛する登山」は低山から厳冬期の雪山まで季節問わず楽しむhike&snowrideなスタイル。お気に入りの山は立山連峰!Greenfield登山部/部長の任命を受け部活動と執筆活動に奮闘中。