街中で見かける「有機」「オーガニック」の文字。体によさそうだけど、何がどう違うのか、正直よく分からない。そんな人も多いのではないでしょうか。この記事では、元農業職の筆者が見てきた「有機の現場」をもとに、有機栽培の定義から、農家さんの工夫、そして信頼できる野菜の選び方まで紹介します。
有機栽培ってどういうこと?まずは基本から

健康志向の高まりや、環境への意識が広がるなかで、いま注目されているのが「有機」。農林水産省においても、2050年までに有機栽培の比率を25%に高める目標を掲げています。自然と人が共に生きる仕組みを見つめなおすことで、次の世代へつなげるための畑づくりが見えてきます。
「有機」と「オーガニック」は同じ?意外と知らない定義のちがい
意外と知らない人が多いのですが、実は「有機」と「オーガニック」は同じもの。農林水産省が定める定義は次の通りです。
• 化学的に合成された肥料及び農薬を原則使用しない
• 遺伝子組換え技術の利用等を行わない
• 農業生産に由来する環境への負荷をできるだけ低減する
【出典:農林水産省「有機農産物って、なに?」】
国が定めた「有機認証JAS制度」によって、きちんと基準を守って育てている事業者には、有機JASマークが与えられます。

「有機」「オーガニック」を名乗れるのは、「有機JASマーク」をつけた農作物だけ。筆者が出会った農家さんたちは、有機JASマークの重みをよく知る人ばかり。「有機JASマークをもらうまで何年もかかった」と、笑うその表情には、誇りと努力がにじみ出ていました。
「有機JASマーク」を見つけたときは、農家さんの努力に想いを寄せてみてくださいね。
「有機でも農薬OK?」誤解されがちなポイント
「有機=まったく農薬を使わない」と思う人は多いかもしれません。実は使っていい農薬もあるんです。有機栽培のルールでは、天然由来のものに限り、農薬が使用できます。
- 人間に害のない菌で作られた農薬
- なたね油乳剤
- 重曹・食酢(特定農薬)
- 害虫を食べてくれる天敵製剤
害虫を食べてくれる虫(益虫)を呼びよせるために、エサとなる植物を植えたり、住処となる雑草を残したりする方法もあります。つまり、「化学的に作られた農薬は使わないけれど、自然由来の力は借りる」という考え方が、有機栽培なのです。
“土づくり”が命。肥料よりも「土のちから」を信じて
有機栽培の現場では、農家さんはとにかく「土」を大切にしています。有機栽培で使われるのは、化成肥料ではなく、米ぬかや油かす、牛糞や落ち葉を発酵させた堆肥などの有機肥料。
有機肥料は、微生物の力を引き出すエサとなります。たくさんの微生物が働くことで、保水性と排水性のバランスがとれた「よい土」が育つのです。
土づくりに力を入れている畑の土に触れたとき、「土がこんなにふかふかになるのか!」と、とても驚きました。ふかふかの土とは、隙間があり、空気がたくさん含まれているということ。隙間がたくさんあるので水はけがよく、根も窒息せずにしっかりと張ることができます。
手間の分だけ、おいしくなる。有機農家のリアルな日々

農薬を使わないため、農家さんがいつも頭を悩ませているのは、肥料を奪ってしまう雑草と、野菜を食べるアブラムシなどの害虫。
有機栽培の畑は除草剤を使わないため、草が生い茂っています。草取りは気の遠くなる作業ですが、よく見ると、農家さんは取る草と取らない草を分けていました。取らない草は、農作物を害虫から守るための「バンカープランツ」として農家さんが植えたもの。
バンカープランツは、一見ただの雑草ですが、害虫を食べる「天敵昆虫」のエサやすみかとなることで、農薬を使わずに害虫を駆除することができます。
「草は厄介だが、虫のすみかになり、野菜を守ってくれる草もある。それぞれの草の役割を知り、上手に使うことが大事。」と語っていた農家さん。その考え方に、「自然を支配するのではなく、自然の力を借りて共に生きる」という有機農業の本質を見た気がしました。
元農業職だからわかる「信頼できる野菜」の見分け方

元農業職の私が野菜選びで大切にしているのは、野菜の旬だけではなく、生産者のこだわり、そして使いやすさです。野菜を選ぶときに知っておくと役に立つ4つのポイントを紹介します。
野菜を選ぶときの4つのポイント
- 農家さんのこだわりをチェックする
- 旬の野菜を選ぶ
- 形や大きさが個性的な野菜を選んでみる
- 「有機JASマーク」の野菜を選ぶ
作り手のこだわりをチェック
直売所や産直サイトで野菜を購入することが多い筆者が大事にしているのは、「作り手が発信する情報」です。栽培方法や農薬・肥料の使用状況、美味しい食べ方まで詳しく教えている農家さんを選ぶのがおすすめ。
「情報を丁寧に発信している農家さんほど、畑の管理が行き届いている」と、元農業職としての経験から実感しています。
旬を逃すと味が変わる。季節と畑のリズムで選ぶ
農家さんは口をそろえて言います。「季節に合ったものがいちばんおいしい。だから、旬の野菜を食べてもらいたい。」と。言葉のとおり、旬の野菜は味が濃く、みずみずしく、噛むほどに甘みが広がります。
食べた瞬間、体がほっとするのは、その季節に必要な水分や栄養が自然と含まれているから。暑い時期のトマトやきゅうりは体の熱を冷まし、冬の人参や大根は体を内側から温めてくれます。
一方で、季節を外れた野菜を食べると、どこか味が薄いと感じることも。旬の野菜の美味しさは、気温や日照など、それぞれの野菜が好む環境で無理なく育ったしるし。旬にしか出会えない味わいを、農家さんたちは誇りをもって届けています。
あえて選ぶ、不揃い野菜。形の個性は、自然の中で育った証。
有機栽培は、より自然に近い環境で作物を育てるため、どうしても形や大きさに個性が出ます。そのような不揃い野菜は売れ残りがち。農家さんは「もったいないね」と言いながら捨てていました。その悲しそうな顔が、今でも忘れられません。
けれど、形が不恰好な野菜でも、切ってしまえば同じ。味にはまったく問題ありません。むしろ、形の揃っていない野菜は、農薬や化学肥料に頼らず、自然のままに成長した証拠でもあります。少し不揃いな野菜を選ぶこと、それは環境にも生産者にもやさしいアクションです。
“無農薬=安全”とは限らない?ラベルに隠れた落とし穴
有機栽培と並んでよく耳にするのが、「無農薬」という言葉です。実際は、他の畑から農薬が飛んでくるケースなどがあり、農薬を全くのゼロにすることはとても難しいのです。「減農薬」も、言葉だけではどれくらい農薬を減らしているかわからないですよね。実は、ほとんど減っていないケースもあります。
このような誤解を招かないよう、国では「無農薬」「減農薬」の表示を禁止しています。
一方、有機JASマークのついた野菜は、国の厳しい基準を満たしたものです。つまり、「有機JASマークがあるかどうか」を見るのが信頼の目安。有機JASマークこそ、生産者の努力と安心の象徴です。
有機野菜を自宅で。筆者おすすめの信頼できる通販サイト

忙しくても、環境にやさしい野菜を食卓に迎えたい。そんな人におすすめなのが、有機野菜の通販です。多くの生産者を見てきた元農業職としての経験から、「ここなら安心できる」と感じたサイトを紹介します。
通販で有機野菜を選ぶコツ
通販は、店舗と違い、全国のいろんな農家さんから野菜を買えるのが魅力。特に、下記のポイントをしっかり確認し、自分に合った通販サイトを選びましょう。
- 作り手の情報がわかる
- 野菜の取り扱い基準がしっかり明記されている
- さまざまな種類の野菜を扱っている
- 配送エリアに、自分の住んでいるエリアが含まれている
特に、作り方や背景にある農家さんの想いをきちんと伝えているサイトは信頼できます。
定期的に利用するなら、量や宅配頻度を選べる「定期宅配」は季節の味をまるごと楽しめるので、おすすめです。普段使わない野菜が入っていることもあるので、野菜のレシピや保存方法がついてくるショップを選ぶといいでしょう。
坂ノ途中
「坂ノ途中」は、「環境負荷の低減」「品質向上」「地域や社会への貢献」に取り組む、誠実な農家さんとともに歩んでいるオンラインショップです。新規就農者との取引が多いのも特徴。志半ばで農業を諦めた新規就農者をたくさん見てきた筆者は、「坂ノ途中」の取り組みを心から応援しています。
定期宅配では、珍しい野菜や旬の野菜、おすすめの食べ方が書かれた「お野菜説明書」が届きます。「今回はどんな野菜が入っているかな」と箱を開けるのが楽しみ。環境にも農家さんにも貢献したい人にぴったりのショップです。
公式サイト:坂ノ途中Online Shop
ぶどうの木

出典:budounoki
「ぶどうの木」は、有機栽培の農産物専門のオンラインショップです。扱っている野菜のほとんどが有機JAS認証を取得したもの。全国の農家さんとつながっているため、栄養たっぷりの旬の野菜を長い期間楽しめます。
有機野菜セットを注文したとき、箱の中に入っていたのはトマトやきゅうり、ほうれん草など色とりどりの野菜。どれも味が濃くてみずみずしく、野菜の生命力を感じました。有機野菜セットはS・M・Lサイズのほかにお試しセットもあるので、まずは有機野菜を試したい人におすすめです。
公式サイト:budounoki
ライター
そらたね
農業職公務員・食品メーカー勤務の経験をもとに、農業や食の大切さ、美味しいレシピを発信します。趣味は旅とカメラ。日本の四季を撮ること、旅行先で綺麗な海を見ることが大好き。生息地は主に田んぼ、畑、ときどき果樹園。
