「昔はよく釣れたのに……」と感じる釣り人が増えています。その背景には、河川改修や水質悪化、温暖化、外来種の侵入、乱獲などさまざまな要因があります。本記事では、河川改修が川の生態系に与える影響と、自然環境を守る取り組みを解説します。

釣り人が感じている「魚が減った」実感の正体

「昔はこのあたりでもよく釣れたのに……。」

そんな声を聞いたことはありませんか?実際に多くの釣り人が「魚が減った」と感じています。原因はひとつではなく、次のような複数の要因が絡み合っています。

  • 河川改修
  • 水質悪化
  • 温暖化
  • 外来種の侵入
  • 乱獲
  • 生活排水の影響

なかでも大きな影響を及ぼしているのが、川の流れや形状を変えてしまう「河川改修」です。

川の直線化や護岸工事が行われると、魚の産卵場所や隠れ家となる自然な環境が失われます。その結果、生態系のバランスが崩れ、特定の魚種が減少する要因となっているのです。

魚が住みにくくなる河川改修の現実

川の治水対策として長年行われてきた河川改修は、洪水や土砂災害から人々を守るための重要な取り組みです。その一方で、魚たちにとって重要な生きる環境を奪ってしまうという側面もあります。ここでは、河川改修が自然に与える影響について見ていきましょう。

川の直線化による影響

自然の川は本来、蛇行しており、淀みや流れの強弱、深みや浅瀬といった多様な環境が共存していました。複雑な流れが魚の産卵、成長、餌の確保にとって重要な役割を果たしていたのです。

ところが、河川改修によって川が直線化されると水の流れが一様になり、魚が休める場所や産卵に適した環境が失われていきます。さらに、流れが速くなることで、稚魚が成長する前に下流へ流されてしまうケースも少なくありません。

「安全」と引き換えに失ったもの

護岸工事でコンクリートブロックや石が敷き詰められた川辺には土壌や水草がなくなり、魚や昆虫が過ごしやすい場所が激減しました。一見、安全に整備された川に見えますが、魚や水生昆虫がほとんどいない「生命感のない川」になっていることもあります。

河川改修で安全性を優先するあまり、生態系のバランスが崩れてしまったという側面も無視できないのです。

「魚道」と「多自然型護岸」で守る川の生き物

生き物と人が共に暮らせる川を目指して、国や自治体を中心に、地域の漁協や企業も協力しながらさまざまな取り組みが進められています。ここでは、その代表例である「魚道(ぎょどう)」と「多自然型護岸」について解説します。

魚の遡上を助ける「魚道」

「魚道」は、魚が上流下流へと自由に行き来できるように、堰(せき)に設けられた魚のための通り道です。

堰とは、川をせき止めるコンクリートの構造物で、主に農業用水・工業用水・水道用水の確保を目的に設置されています。頭首工(とうしゅこう)や取水堰(しゅすいぜき)とも呼ばれ、堰の上流へ魚は移動できませんが、魚道があれば遡上可能。とくに、鮭や鮎など川を遡上する習性のある魚にとって、魚道の有無は生死を分ける重要な構造物なのです。

現在、堰やダムの設計段階から魚道ありきの取り組みが一部で進められており、少しずつではありますが、魚が遡上できる環境へ改善されつつあります。

自然環境を守る「多自然型護岸」

国土交通省では、すべての川づくりの基本となる「多自然川づくり」を推進しています。多自然川づくりとは、河川に生息している生物の生息・生育・繁殖をサポートする環境を整え、河川の景観保全を目的として河川管理をおこなう施策です。なかでも、治水上の安全を確保しつつ生態系の回復を目指す取り組みとして注目されているのが「多自然型護岸」です。

多自然型護岸は従来のコンクリート護岸とは異なり、石積みを土で覆ったり、緩やかな傾斜や植生帯を設けたりなどにより、生物の生息環境を確保する護岸のこと。数年後には植物が育ち、周辺を緑で覆うことで、一見すると人工的に造られた護岸とはわからなくなります。植物は生き物の隠れ家や住処になり、いずれ多くの魚が戻ることが期待されます。

また、コンクリートで固めない護岸は、魚にとって暮らしやすい環境を取り戻すと同時に、地域の生活や歴史・文化とも調和します。

釣り人にできる自然と魚を守る行動

釣りは自然との対話であり、魚が住みやすい環境を守る行動は釣り人自身の楽しみを守ることにもつながります。ここでは、釣り人にもできる自然と魚を守る行動を見ていきましょう。

釣り人の声が行政を動かす力になる

環境について意見を持つ釣り人や地域住民が、行政やダムを管理する電力会社に働きかけることで、環境保全の動きが加速するケースがあります。

たとえば、「魚が遡上できない堰がある」「護岸が整備されすぎて魚が減った」といった声が、魚道設置や護岸の見直しにつながった事例もあります。

しかし、行政に意見するだけでは、なかなか動いてもらえないのが実情です。漁協や釣り人、研究者、環境団体が連携し、地元で前向きに取り組むことが、行政を動かす力になります。

水辺の環境活動に参加する

釣り場の清掃活動や稚魚放流イベント、外来種駆除など、釣り人が参加できる環境保全活動が各地で行われています。子どもと一緒に参加すれば、次世代への環境意識の継承にもつながるでしょう。

また、釣り人一人ひとりが「ゴミを持ち帰る」「生態系を乱す行為を避ける」といった行動をとるだけでも、釣り場を守る大きな力になります。筆者も「来たときよりきれいにして帰る」ことを心がけ、釣りを終える前に周辺のゴミを拾っています。

自然を守るために、トング・軍手・ゴミ袋を車に入れておくことを習慣にするとよいでしょう。

 川から魚が姿を消しつつある背景には、河川改修などの人為的変化が大きく関わっています。しかし、魚道や多自然型護岸の取り組みにより、少しずつ自然を取り戻す努力も続けられています。釣り人一人ひとりの行動が、未来の釣り場を守る力になります。まずは身近な川に目を向け、ゴミ拾いなどの小さな一歩から、自然との共存を始めてみましょう。

阿部 コウジ

ライター

阿部 コウジ

釣り歴30年以上のアウトドアライター。自然豊かな清流や渓谷に魅せられ、環境と共生する釣りの魅力や自然を大切にしたアウトドアの楽しみ方を発信。釣った魚を食べるのも好き。将来はキャンピングカーで車中泊しながら、日本各地の釣り場を巡るのが夢。