2025年7月30日8時25分に起きたカムチャツカ半島地震の影響で、太平洋側全域に津波注意報・警報が発令されました。筆者がまず心配になったのは、太平洋側でダイビングを楽しむダイバーたちです。ダイビングは朝早い出発が多く、お昼までスマートフォンを見ないこともあります。「船上で突如津波警報を受信したら」「海中で異変を感じたら」自身の安全と家族の心配を払拭するため、改めてダイビング中の津波警報への対応についてまとめました。

ダイビング中の津波警報受信と判断

水中 ダイバー

スマホを持たないダイビング中での津波警報。まずはどのように判断していくのか、確認していきましょう。

海中での情報収集の重要性

ダイビング中に津波警報が発令された場合、最初の課題は「情報の入手」になります。海中にいるダイバーは、陸上のように即座に警報を受信できません。そのため、船上のスタッフやガイド(案内人)からの情報伝達が生命線となります。

船からの緊急信号は主に以下の方法で伝えられます。

・タンクを叩く連続的な金属音
・水中ホーンやホイッスルによる警告音
・ガイドによる緊急ハンドサインの連続使用

これらの信号を受けた際は、まず冷静になることが最優先です。パニック状態では酸素消費量が急激に増加し、適切な判断が困難になります。そして冷静でいられるメンタルは、緊急時の対応を把握しているダイバーが持てるものです

地震との関連性と初期判断

津波の多くは地震が原因で発生します。海中で地震を感じた場合の特徴を理解しておくことも重要でしょう。

海中での地震は陸上とは異なる感覚で伝わります。

・魚の行動が急変する(群れが一斉にいなくなる等)
・地響きが続く
・海底の砂や泥が舞い上がり、視界が悪くなる

筆者の同僚がスマトラ沖地震でこの現象を経験済み。遠くに「ゴゴゴゴゴ」とエンジン音のような地響きは、未経験であっても「地震だ!」と直感したそうです。

上記のような現象を感じた場合は、たとえガイドからの緊急信号がなくても、津波の可能性を考慮した行動を取ることが賢明です。

その場の状況判断

警報を受信した後は、その場の状況を的確に判断する必要があります。

状況確認項目

・現在の水深と平均水深
・残圧(残りの空気量)と浮上に必要な時間
・バディとの位置関係と安全確保状況
・船までの距離と海況

これらの情報をもとに、次のアクションを決定します。

水深別の具体的行動指針

水中 ダイバー

津波への対応は、どの水深位置地にるかによって大きく異なります。安全停止や減圧症のリスクを考慮しながら、最適な行動を選択する必要があります。

浅場ダイビング(水深約18m以浅)の場合

即座の浮上を基本とする

浅場でのダイビング中に津波警報を受けた場合は、原則として即座の浮上を開始しましょう。この水深であれば、浮上速度を守りながら(毎分18m以下/自身の吐く泡より遅いスピード)も、比較的短時間で水面に到達できます。

行動手順

・バディと連携し、緊急浮上のハンドサインを確認・浮上
・浮上中も周囲の安全確認を怠らない
・水面到達後は、流木や船・ボートなどに注意しながら船を待つ

注意点として、浅場は津波の影響を受けやすい水深でもあるため、浮上中に異常な潮流や水温変化を感じた場合は、一時的により深い場所に移動することも考慮すべきでしょう。

深場ダイビング(水深約30m以浅)の場合

安全停止を考慮した段階的浮上

中深度からの浮上では、減圧症のリスクを最小限に抑えながら、可能な限り迅速に行動する必要があります。

推奨手順

・残圧と減圧の必要性を確認
・無減圧潜水時間内※であれば、通常より若干速い浮上(通常は毎分18m)
・安全停止の短縮
・エア残量に余裕があれば、5mでの安全停止を実施

ただし、津波の規模が大きく、到達時間が短いと判断される場合は、安全停止を省略する判断も必要です。減圧症のリスクよりも、津波による生命の危険を優先する状況もあり得ます。

なお、超深度ダイビング(水深30m以深)の場合はテクニカルダイブとなるためここでは割愛します。

※無減圧潜水時間内・・・減圧停止をせずに浮上できる潜水可能な限界時間のこと。

減圧症のリスクについては、こちらで説明していますのでご覧ください。

減圧症のリスクを減らすダイビング!安全停止のやり方とコツ
減圧症のリスクを減らすダイビング!安全停止のやり方とコツ

3バディシステムの重要性

どの水深においても、バディとの連携は生命に関わる重要な要素です。片方が急な体調変化を起こした場合や、エア切れが生じた場合には、相互の支援が不可欠となります。

津波警報時のバディ連携

・常に視認できる距離を保つ
・ハンドサインでの意思疎通を頻繁に行う
・エア残量の相互確認を通常より頻繁に実施
・一方が問題を抱えた場合は、両者で対処する

浮上後の陸上避難行動

水中 ダイバー

水面に浮上した後の行動も、津波対応では極めて重要です。船上での対応から陸上避難まで、段階的に適切な行動を取る必要があります。

船上での初期対応

迅速な船上復帰

水面に浮上したら、可能な限り迅速に船上に戻りましょう。この際、以下の点に注意します。

・エキジット※時の安全確認(漂流物や他のダイバーとの接触回避)
・船上後は他のダイバーが乗船しやすいよう自身のタンクや器材を速やかに移動させる
・船上での点呼確認に協力する

※エキジット・・・海から上がること。

情報収集と状況判断

船上に戻った後は、スタッフから最新の津波情報を収集します。

・津波の規模と到達予想時間
・現在位置から避難場所までの距離と所要時間
・船の移動計画(沖合避難か港への帰還か)

船での対応選択

津波警報発令時の船の対応は、主に以下の2パターンに分かれます。

沖合避難

・津波の影響を受けにくい沖合への移動
・港湾部への接近を避け、安全な距離を保つ
・津波通過後まで海上で待機

港への緊急帰還

・津波到達前に港に戻り、陸上避難を実施
・より迅速な陸上避難が可能
・港湾施設の被害リスクも考慮が必要

どちらを選択するかは、津波の規模、到達時間、現在位置などを総合的に判断してダイビングサービス側が決定します。ダイバーとしては、スタッフの指示に従い、冷静に行動することが重要でしょう。

陸上避難時の行動指針

港に戻った場合の陸上避難では、以下の原則を守ります。

高台への避難

・海抜10m以上の高台を目指す
・津波避難ビルや避難場所の確認
・車両よりも徒歩での避難を基本とする

避難時の装備

・重いダイビング器材は置いていく
・貴重品と連絡手段(携帯電話)のみ携行
・体温保持のための最低限の衣類確保

家族との連絡

・避難完了後、速やかに家族に安否連絡
・避難場所と今後の予定を明確に伝達
・公共の避難情報システムの活用

事前準備とリスク管理

seaside

津波への対応で最も重要なのは、事前の準備とリスク管理です。いざという時に適切な判断ができるよう、普段からの備えが不可欠になります。

ダイビング前の情報収集

毎回のダイビング前には、以下の情報を必ず確認しましょう。

気象・海象情報の確認

・気象庁の津波情報と地震情報
・海上保安庁の海の安全情報
・津波避難ビルや避難場所の確認
・ダイビングサービスの安全管理体制

ポイント選択時の考慮事項

・避難場所へのアクセスの良さ
・水深と地形の特徴(津波の影響度)
・避難ルートの確認
・緊急時の連絡体制

家族との情報共有

家族には以下の情報を必ず伝えておきます。

ダイビング計画の事前共有

・ダイビングの詳細スケジュール
・ダイビングサービスの連絡先
・潜水予定ポイントと帰着予定時間
・緊急時の対応方針

緊急連絡体制の構築

・複数の連絡手段の確保(携帯電話、SNS、メールなど)
・家族間での安否確認方法の統一
・災害用伝言板の利用方法の共有

スキルと知識の維持・向上

スキルや知識が薄れないよう、定期的な緊急手順の復習をしましょう。

・緊急浮上の手順とリスクの再確認
・ハンドサインの練習と意味の再確認
・バディレスキューの技術練習
・CPRと応急手当の技術維持

情報や知識はアップデートが必要です。以下のような取り組みがスキル向上につながります。

・情報収集と学習の継続
・最新の安全情報への関心
・ダイビング安全に関するセミナーへの参加
・経験豊富なダイバーとの情報交換

装備面での準備

通常の安全装備に加えて、以下のアイテムの携行も検討できます。

緊急時対応装備の検討

・水中ライト(緊急時の信号用)
・ホイッスル(水面での救助要請用)
・シグナルフロート(位置を知らせる浮具)
・防水ケース入りの緊急連絡先リスト

器材の定期点検

緊急時に確実に機能するよう、器材の定期点検を怠らないことが重要です。

今回、ダイビング中の津波警報への対応をまとめましたが、緊急時の判断はダイビングガイドが行うことがほとんどです。しかし、なぜガイドがそのような判断をしているのかを理解しているのとしていないとでは、心身ともに安全性が大きく異なります。定期的な知識の更新と実践的なスキルの維持を通じて、ダイビングを家族全員にとって安心できる趣味として続けていきましょう。

 

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ライター

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マリンスポーツのジャンルを得意としたwebライター。海遊びの楽しみ方やコツを初心者にも伝わるよう日々執筆活動中。スキューバダイビング歴約20年、マリンスポーツ専門量販店にて約13年勤務。海とお酒と九州を愛する博多女です。