移住先に山梨県北杜市白州町を選んだ背景
北杜市に移住してきた背景は、以前の記事「【脱サラして山を買い、東京から山梨に移住】DIY素人が自給自足的な田舎暮らしを叶えるまで」で簡単に紹介しました。今回は、なぜ「北杜市白州町」を選んだのかについて、もうちょっと深堀りしてお話したいと思います。
お気に入りのキャンプ場
移住する5年ほど前から、我が家では家族でキャンプをするようになり、月1〜2回キャンプをしているなかで、北杜市にお気に入りのキャンプ場を見つけました。そこは白州町の隣の武川町(むかわちょう)という場所にあるキャンプ場でした。
北杜市は山梨県内でも最も大きい市で、平成の大合併によってできたため、市としてはまだ20年ほどの歴史しかありません。北杜市には全部で8つの町があるのですが、住んでみて感じたのは、白州町・武川町はほかの町とは違うエリア、という感覚です。
南アルプスを背負ったこのエリアは、北杜市の中でも、よく言えば最も自然豊かな、言い方を変えると自然そのままのエリアです。
南アルプスの天然水やウィスキーの白州で有名なサントリーの工場があったり、シャトレーゼの工場があったり(自然だらけのエリアですが、一部このような工場があります)。名水百選に選ばれている尾白川も、流れる水がキレイなことで有名です。
山に囲まれた立地とちょうどいい田舎感
家族でキャンプをするたびに、この白州武川エリアに来て感じたことは、「理想的な田舎感と、それでいて不思議と寂れた感じがない」ことでした。
西に甲斐駒ヶ岳をはじめとする南アルプス群、北は八ヶ岳、東は奥秩父山塊と山々に囲まれ、南には富士山が見えます。
この山に囲まれたエリアは、至る所で荘厳とした景色を目の当たりにすることができるのです。
ファミリーキャンプを楽しんでいた数年後、山を買って移住しようと決めたとき、迷わずに北杜市の白州武川エリアを選んだ理由は、山々に囲まれた自然豊かな、それでいて寂れていない雰囲気にずっと惹かれていたからだと思います。
正直、水のキレイさが移住のきっかけになったわけではない
水がキレイな場所だと意識したのは、移住することを決めたあとだった気がします。
もともと水で有名なエリアであることは知っていたのですが、北杜市の白州武川エリアで土地を探し、移住を具体的に決めたあとにこの土地のことをいろいろ調べました。「そう言えば水もキレイでいいエリアだよなぁ」とあとから思った気がします。
ただ、いま思い返すと、水がキレイな場所を選んだのは必然だったように思います。
自然豊かだからこそ、水がキレイ。
そこには壮大な山があり、開発があまり入っていない自然がそのまま残り、水がキレイだから野菜も米も美味しく、野生動物が生き続けている。魅力の源には水があるような気がするのです。
北杜市は縄文遺跡が多く見つかっているエリアです。
かつて、先人が住む場所を求めて落ち着いた場所であったということは、そう判断するに足る場所であったということ。その要因のひとつに、おそらく水があるのでしょう。
実際に住んでみてどうだったのか
私が北杜市に移住してきてから、3年以上経ちました。
移住当初は、白州町の隣町で、北杜市の中心部に位置する長坂町に賃貸で2年住んでいました。そこから白州町に通い、会員制キャンプ場の開拓をしつつ、そのキャンプ場の近くにある土地で小屋を建て、家を建てていました。2年後、白州町に移り住みます。
田舎暮らし自体がどうか、というのはまた別の機会にじっくりお話できればと思うのですが、北杜市というエリアについてお話すると、とても住みやすく、順応できたと思います。
不便も楽しめる暮らし
都会から田舎に移り住んでいるので、さまざまな不便さは前提としてあるものの、想定内の不便さで、そこにストレスを感じることはほとんどありません。それよりは、自然のなか、この北杜市に身を置いていることの素晴らしさを常々感じています。
都会からかつての友人が遊びに来た際には、「飽きない?」とよく聞かれますが、不思議と飽きることはまったくないのです。
山に守られ、自然と触れ合える
日々、北杜市内を車で移動することが多く、片道30分程度の道のりはよくあることなのですが、運転する道は同じでも、日々異なる景色を見せてくれて、そのたびに胸を打つのです。不思議とよい意味で慣れないというか、常に新鮮な気持ちで感動することができます。
それはやはり「山」の存在です。
これまで私の人生で「山」という存在が身近にあったことはほとんどなく、意識したこともありません。いざ山に囲まれて生活をすると、山に守られている感覚があります。
そして、その山とつながっている「土」「空気」「水」といった自然に常に触れることで、生かされているという感覚です。
「水」の大切さ
水の大切さは、これまでもわかっていたつもりでしたが、移住して水について考えさせられる機会が多々あり、より大切に感じるようになりました。
水が豊かな場所だからこそ思うことは、「水は資源である」ということです。
水に対する意識の変化
これまで、東京に生まれて東京で育ち、当然のように上水道から水が供給されて、蛇口をひねれば水が出てきました。
子どもの頃は水道水を飲んでいましたが、実家ではいつからか浄水器をつけるようになり、水道水を直接飲むことはほとんどなくなりました。ペットボトルのミネラルウォーターを買うようになり、東日本大震災以降はウォーターサーバーを家に設置していました。
海外と比べて日本の水の安全性は素晴らしいとよく聞きますが、そんな日本の水でも、都心の水道水はそのまま飲むものではない、という感覚です。
それが、水が豊かな土地で暮らせば、美味しい水がタダで手に入るのです。
もちろんそのための苦労や、タダと言ったものの実際はタダではないことは、これからお話します。
生活に欠かせない水
水の存在は、さまざまな根源であるともいえます。
先ほどお話ししたように、水がキレイだから米がおいしく、野菜がおいしい。
そもそも、人間の体はほとんどが水分でできています。
また、これは震災などによって多くの人が感じたことだと思いますが、日々の暮らしの中で水が絶たれるとどれだけのリスクがあるか、ということからも水の大切さを感じます。
山の麓の水事情
私が住んでいる場所は、北杜市白州町のなかでも、とくに山の麓に近いところです。
昔から住んでいる人が集まる集落から少し離れた、より山に近い場所には別荘があり、移住者がほとんどです。
元々は人が住んでいる場所ではなく、山林として売り出されていた土地に家を建てているので、上下水道が整備されていないことも多いです。
上下水道がすぐ近くに通っていれば、土地まで引き込める場合もありますが、山の麓となるとなかなかそうもいきません。
多いケースは不動産屋さん管理による共同井戸
おそらく、別荘で多いと思うのですが、不動産屋さんが管理している井戸を共有しているケースがあります。
私が管理しているキャンプ場(これは私がオーナーを務める会員制キャンプ場とは別のキャンプ場で、会員制キャンプ場のすぐ近くにあります)は、このケースに間借りさせてもらっているような形になります。
加入金を払ったり、利用料を払ったり、使うにあたっての条件はさまざまだと思います。
共同井戸を使うにあたって困るのが、水の枯渇です。とくに別荘地で共有している場合、夏休みシーズンなど、人が集まって水を使うタイミングは重なるものです。
その時期になると、より高低差が低い土地に住んでいる家、つまり井戸から水を汲み上げて各世帯に配水している最後のほうの家から順に、水が行き届かなくなることがあります。
そうならないように、500Lなり1,000Lなりの水を、大容量の受水槽などに一旦溜めて使うなど、水の使用を分散するような対処はするのですが、それでもピーク時は枯渇するところがあるようです。
井戸を掘りたくても掘れないことも
水がキレイな場所ですから、費用がかかっても井戸を掘りたい場合もあります。ただ、上水道が通っているなど、水の引き込みが可能な場合は、井戸を掘ることができません。
また、それぞれが井戸を掘っても、水脈は同じ場合があります。誰かが自分の井戸で大量に水を使うことで、同じ水脈から水をとっている他の人の井戸が枯れてしまうこともありえます。
市が管理している井戸の源泉は、半径250m以内では井戸を掘ることができません。地下の水脈は大切な資源ですので、不必要に掘りたくはないのだと思います。
このような制限から、私が管理しているとある土地は、土地内の半分以上は井戸を掘ることができない指定がされています。
井戸を掘るにあたって
このような条件をクリアして井戸を掘る際は、行政に申請が必要になります。行政区によって、申請の有無や条件などが異なると思いますが、この申請が大変です。
井戸を掘削する申請にあわせて、井戸を掘る箇所から半径250m範囲内で井戸を掘っている方に同意をとる必要があります。また、その地区の行政区長の同意も必要です。
近隣の方の同意を得る
私は会員制キャンプ場に井戸を掘削したのですが、近隣の方の同意は比較的スムーズでした。
みなさんとても親切で、いろいろ教えて下さいました。
ただ、私が管理人を務める近くの別のキャンプ場で井戸を掘ろうとした場合は、近隣にあまり快く思わない方もいらっしゃるのか、居留守を使われたこともあるようです。そもそも別荘地でほとんど来ない方から同意をもらわなければいけないなど、苦労がありました。
自分たちが使っている水脈に他の人が入ってくる感覚なので、嫌がる人もいるのでしょう。
行政区長の同意を得る
行政区長の同意は大変でした。
北杜市は市としての歴史が浅いこともあり、市と昔からある行政区の関係性にも原因があるのかもしれません。これは実際に住んでみて、周辺の行政区ごとの特徴をまわりの人から聞いてわかることです。
結果的に、私の会員制キャンプ場がある行政区では同意がとれず、市と話し合ってそのまま進めることになりました。
申請書類の提出
申請には、以下のような書類の提出も必要です。
・井戸掘削する場所、排水を浸透させる浸透桝の場所などを公図に記載して提出
・どのようなポンプを使って汲み上げ、どのくらいの水量を使うのかを提出
水は資産。
そのことがわかっている北杜市では、とくに近年、井戸に関する管理が厳しくなっています。
不正に大量に井戸水を汲み上げて周辺に迷惑をかけたり、排水が適切に処理されないことで地下の水を汚染させたりすることがないように管理しなくてはなりません。
いざ井戸掘削
諸々の申請を終えると、掘削が始まります。
私は甲府にある井戸掘削業者さんと出会い、懇意にさせていただきました。自分の会員制キャンプ場の井戸掘削をお願いしたり、友人の井戸掘削の現場に立ち会ったり。この業者さんをいろいろな方に紹介して、さまざまなケースを見てきました。
ただ、この業者さん以外の例を知らないので、あくまでの参考としていただければと思います。
井戸を掘っても水が出ないことも
井戸を掘ることはリスクを伴います。
井戸を掘っても、必ず水が出るとは限りません。
水が出ても、飲み水として使える水が出るとも限りません。
ある意味で、ギャンブルみたいなものです。
最初に掘削を始めた頃は、そんなリスクをあまり深く考えていませんでした。
会員制キャンプ場の土地は、林道から坂を登って入っていきます。林道から土地内が見えない場所なので、とてもプライベート感があります。
坂を登って上がっていった先は、ほとんどが傾斜地となっていて、井戸掘削用の重機を設置するための平地の確保や、生い茂る木々の中で4~5mほどの高さから打ち込んでいくためのスペースも必要でした。
また、掘っていく途中で水が出始めたり、掘っている先端を冷ますために水を注入したりして、その排水をどこに流すかという問題も出てきます。
そういった問題が難なくクリアできる土地ではなかったので、準備にまず時間がかかりました。
掘削期間3か月!困難を乗り越えようやく水が
そしていざ掘削を始めると、最初は順調に進みます。
岩にあたって岩を割らないといけない、ということもなく、土を少し掘り進むと、ひたすら砂の層でできている土地のようでした。
このまま水が出るまで掘り進めるかと思いきや、砂質が掘削ドリルに入り込んで故障を引き起こしました。ひたすら砂質の地層が続くのも珍しいようで、通常は起きないような故障が発生し、作業は中断します。
他にも細々とトラブルが続き、掘削期間は3ヶ月と、想定以上の長い期間が過ぎました。さらに良質な水源にあたるのは、周囲の井戸の深さからみても50m程度ではと想定して掘削していましたが、60m、70mと過ぎても、いっこうに水が出てきません。
日々作業現場に赴き、いまは何メートルかと逐一確認をしながら、次第に焦り始めます。
「そうか、水が出ないこともありうるのだ」
考えていなかったリスクが徐々に現実的になり、どこかで決断が必要でした。
せっかく掘り進めていますから、そう簡単に引き下がることはできません。90mを過ぎ、さすがに100mでやめようと決めて、すぐ近くの駒ヶ岳神社で神頼みのお祈りをして戻ると、なんと水が出ていました。100mのほとんど直前でした。
井戸掘削の様子はこちらの動画もあわせてご覧ください。
Birke Channel
井戸掘削完結編
井戸掘削関連再生リスト
井戸掘削のさまざまな事情
こうして、結果的には南アルプスの天然水が手に入ったわけですが、もっと苦労する人もいれば、もっとスムーズに水が出る人もいます。
申請問題や、近隣の同意を得られず、結果的に共同井戸から水を共有してもらうことになったケースもありますし、掘ったけど出ず、場所を変えて再度掘り直したケースもあります。
30〜40m程度掘って水が出る人もいますし、本当にさまざまです。
これらのリスクについては、業者さんによって考え方も異なります。
事前にしっかり契約書を締結して、「いくら掘って出なくても責任は負えません。ただし費用はいただきます」という業者さんもいますし、職人さんで契約書などは締結せず、「もし出なかったらお金はいただけない」という業者さんもいます。
有事の際の水について(今後、自給自足視点で思案していること)
会員制キャンプ場は井戸水、我が家は湧き水を近隣数軒で共有しています。
いずれの場合も、有事の際に困るのは、水を引き込むためのポンプの電力です。
約100mの場所から地下水を汲み上げるには、100Vの電力では足りず、200Vの電力が必要になります。そのため、200Vの電力を電線からではなく、ソーラーパネル充電およびバッテリーでまかなえるようにしていこうと考えています。
また、500Lのタンクは用意してあるのですが、これを雨水タンクとして使用できるようにしておくこと、川の水などを濾過して沸騰させ、飲み水として使えるようにしておくことなど、万が一に備えて準備しておきたいと思います。
ライター
山羊男(ヤギオトコ)
東京でネット業界のディレクターを15年ほど勤めた後、コロナ禍の2020年に39歳で山梨県北杜市へ移住。妻と当時小学4年生の息子と家族3人で、会員制キャンプ場を手作りしながら田舎暮らしをはじめる。完全に素人からのスタートで、小屋作りや家作りなどDIYしながら、自給自足的かつ健康的な生活を目指して、日々実践中。現在は会員制キャンプ場のほかに、オートサイトキャンプ場管理人、オーガニック食品などを扱う小売事業、ネット関連事業を展開。