設備投資からソフトサービスへのイノベーション
高度経済成長期からバブル景気に沸くまでの時代は、観光業のみならず右肩上がりの経済成長に懐疑心を抱く人は、ほとんどいませんでした。
そのため多くの旅館が、部屋数の増床や団体客受け入れの設備投資に邁進していきます。
バブル崩壊から経済変革期に至っても、大抵の旅館業ではその変化に対応しきれず、多くの地域で供給過多に陥ってしまいます。
特に古くから続く旅館は、個人経営や零細、中小企業のケースが多く、保守的傾向の強い既存の経営理念では、恒常化した仕事の進め方や伝統的な慣習を捨てることは難しいことでした。
時代の変化に対応できなかった施設は、多くの空き部屋と閑散とした膨大な土地を残し破綻していきます。
経営破綻などで廃墟となった建物では、近年コスプレイヤーや写真好きの人々が集まる象徴的なブームも起こっています。
このような中、近年、星野リゾートをはじめとしたリゾート再生事業が注目を浴びることになります。経済の低長期を迎え、日本人の余暇への捉え方も変化が生まれてきました。
「モーレツ社員」という言葉が持て囃された時代は過ぎ、プライベートを充実したい欲求が高まっています。また海外からの来日観光客も増え続け、観光業全体としては成長している傾向にあります。
国土交通省内の観光庁発表によると2018年度の日本人国内旅行消費額は20兆5,160億円にも及んだとされています。( 観光庁HP より)
破綻した旅館やホテルにおいても、新たな資本投入や今の時代に合った経営手段しだいでは、受け入れ可能な宿泊施設として生まれかわることが可能です。
その成功例を数多く作っているのが星野リゾートであり、ハード面ではなくソフト面のサービスを新たに開発することで、魅力ある施設へと生まれ変わらせているのです。
顧客ニーズの可視化
星野リゾートが多くの魅力あるアクティビティを生み出す背景には、徹底した顧客満足度への追求があります。
顧客アンケートなどで生の声を聞くことで、顧客のニーズを把握し、問題点の解消から顧客が真に求めているものを見つけ出し、何度でも来てみたいと思ってもらうためのアイディアを出していきます。
星野リゾートのアンケート様式は、直営、運営全ての施設で統一したものが使われています。
アンケート結果はクラウド上で確認することができるため、自分たちが考えたアイディアや改善点が顧客にどのように評価されているかがわかります。
このことが従業員のモチベーションを上げることにも繋がり、更なるアイディアを生み出し教育にも結び付いていきます。
会社側がいくら素晴らしいと思っているアイディアでも、顧客のニーズにマッチしなければ独り相撲に過ぎません。
プランニングから実践するだけに終わらず、評価・確認をし、改善するまでのアクションを起こさなければマーケティングとは言えないのです。
星野リゾートでは、この作業を忠実に進めるための指針となっているのが、顧客満足度の可視化であると言えるでしょう。
現場から生まれるソフトサービス
星野リゾートが行う再生事業は、そこで働く人々の意識改革にもウェートを置いています。
同族経営が著しく多い日本の中でも、旅館業はまさに家族で経営を行い、代々子孫が引き継いでいるケースが多くみられます。
創業者一族によるワンマン経営は、ピラミッド形式の組織を作りトップダウンの指示系統で出来上がってきました。
このため、縦割りにされた組織の中でエンドユーザー(宿泊客)と接する現場の従業員に、考える力やリーダーシップ力を育む土壌が育ちません。
そこで星野リゾートでは、各セクションを細かいユニット(班)に分けることでフラット型に近い組織改編を行いました。
また各セクションの人事異動を意欲的に行うことで、業務毎の垣根をなくし、社内のコミュニケーション力を高めることにも繋げています。
このようなコミュニケーションの向上により、従業員のモチベーションを高め、サービス業の本来の姿である顧客に奉仕することで得られる満足感をもたらします。
星野リゾートの従業員は、どの業務に従事していようが、顧客に喜んでもらえるサービスを常に考えます。
現場から生まれるアクティビティなどのサービスは、日本が世界に誇る「おもてなし」の本来の姿なのではないでしょうか。
現地主導で発掘する観光資源
星野リゾートの各施設で行われるサービスは、机上でマーケティング専門者や広報が考えたものではなく、現地従業員が自ら考え開発しています。
現地従業員は、一年を通じてその地に暮らし、地域の楽しさや魅力を把握している人たちなので、そこで考えられるアクティビティやイベントは旅の魅力が溢れています。
例えば、「星野リゾート トマム」の復活劇の幕開けにもなった雲海テラス。
夏場の集客を増やすために考えられたアクティビティですが、このアイディアを思いついたのは、リフトやゴンドラなどの設備を整備している従業員です。
夏場の点検作業時にゴンドラで山頂に昇ると、稀に見ることができる「雲海をお客様にも見せてあげたい」この発想が新たな北海道トマムの観光資源になりました。
青森県の十和田湖畔にある「星野リゾート奥入瀬渓流ホテル」では、苔をテーマにしたサービスが反響を呼んでいます。「苔ガール」「苔メン」などの言葉も生まれ、苔を趣味にする人も増えてきました。特に女性に人気のサービスで、「苔カクテル」や「苔玉アイス」など次々とヒット作を生み出しています。
自然ガイド(苔メン)と一緒に奥入瀬の自然に触れることが、今ではこの地の観光資源になっています。これも現地従業員でなければ思いつかない発想なのではないでしょうか。
星野リゾート流アウトドア「グランピングリゾート」
海外で人気の高かった新しいキャンプのスタイル「グランピング」が、2015年頃より日本でも注目を浴びるようになりました。
グランピングとは、別名ラグジュアリーキャンプとも呼ばれ、一般的なキャンプのように自分でテントを張ったり、料理をしたりする必要がなく、野外泊なのに高級ホテル並みのサービスが受けられるというものです。
山梨にある「星のや 富士」では、国内初のグランピング施設として、いち早くこのサービスを提供しています。
富士山の麓、大自然を楽しむ四季折々のテーマを掲げ、新しいリゾートスタイルを追求しています。
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ライター
Greenfield編集部
【自然と学び 遊ぶをつなぐ】
日本のアウトドア・レジャースポーツ産業の発展を促進する事を目的に掲げ記事を配信をするGreenfield編集部。これからアウトドア・レジャースポーツにチャレンジする方、初級者から中級者の方々をサポートいたします。