サンゴ保全活動といえば、ダイバーが海底を目視で確認し、サンゴの苗を一つずつ植え付ける姿を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。今、AIが海底画像を分析してサンゴの定着に適した場所を見つけ、サンゴの苗を配置する作業を支援するといった、より広い範囲のサンゴ礁再生につなげる取り組みが進んでいます。2025年からグレートバリアリーフで実証されている、AIやロボットによる海底環境の分析技術を、レジャーダイバーの視点から紹介します。
ダイバーだから感じる、海の変化

「サンゴの白化現象」という言葉。ダイバーであれば一度は耳にしたことがあるでしょう。
海水温の上昇などによって起こるサンゴの白化は世界各地で確認されています。白化とは、サンゴと共生する褐虫藻(かっちゅうそう)が失われ、サンゴが白く見える状態のことです。白化が続くとストレスや栄養不足で死滅する可能性が高く、白化は海の生態系から防波堤機能までさまざまな悪影響を及ぼします。
私自身、サンゴ礁が広がる鹿児島から南の海へ、定期的に潜りに行くことがあり、以前より白化したサンゴが増えていたり、サンゴの病気を目の当たりにすることもしばしば。そんな海の変化を目にするたびに、「このままサンゴが減り続けたら、これから先の海はどうなるのだろう」と、美しい海を失ってしまう不安が押し寄せます。
私がこれまで経験してきたサンゴの人工的な再生方法は「移植」です。広大な海の中からサンゴが成長しやすい場所を探し、指定された場所にサンゴの苗を一つずつ配置していくという、人の力だけでは途方もない時間と労力が使われる方法でした。
グレートバリアリーフで進む、AIによるサンゴ礁再生

白化現象や人手の限界を目の当たりにしてきた私たちダイバーにとって、AIやロボットの力でサンゴ再生の規模を広げようとする取り組みは朗報ではないでしょうか。その内容を紹介します。
グレートバリアリーフでは、AIと海洋ロボティクスを組み合わせた「Deployment Guidance System(DGS)」の開発・実証が進められています。
DGSでは、生態学者の知見をもとに候補地を選び、船からカメラで海底を調査。得られた画像をAIで分析し、サンゴの再生に適した場所へデバイス配置を支援します。配置場所はGPSで記録され、後のモニタリングにも活用されます。
私たちダイバーが海底を見てサンゴの移植場所を判断する作業を、AIが広範囲の海底画像を使ってサポートするようなイメージです。
AIが人間の代わりに海を理解するわけでも、ダイバーのようにサンゴを直接植えるわけでもありません。
人間が持つ生態学的な知識とAIによる画像解析、ロボットや位置情報などを組み合わせることで、人の手だけでは難しかった規模でサンゴを再生できる可能性を広げています。
2025年から海上試験が進められており、現在も実証段階です。2025〜2026年には、グレートバリアリーフの3つのリーフで、4万個以上のサンゴ種苗用デバイスが展開されるなど、大規模な実証も進んでいます。
ちなみに、ダイバーによる手作業でのサンゴの植え付けは、地元のプロダイバー2人で1日90株ほどが目安です。これは、特殊な器材でない限り1回の潜水(1本)が約45分、減圧症を避けるために1日に潜る本数も3本程度という制限があるためです。
そう考えると、2025〜2026年に展開された4万個以上のデバイスはとてつもない量で、実証実験段階といえど、これからのサンゴ保全活動に希望が持てる取り組みなのではないでしょうか。
参考:AIMS(オーストラリア海洋科学研究所)
世界や日本の対応

世界でもDGSの取り組みが注目されており、サンゴ礁再生を「人の手で少しずつ植える活動」から、AIやロボティクスを活用して大規模に実施する方向へ発展させようとする動きが広がっています。
国際的な枠組みである、国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)では、気候変動などサンゴ礁の劣化要因への対応に加え、保全、再生、モニタリング、地域社会の参加、資金面まで含めた取り組みを掲げています。オーストラリアもその主要メンバーの一つです。DGSのような取り組みが今後さらに広がることも期待されるでしょう。
日本でも、環境省が「サンゴ礁生態系保全行動計画2022-2030」を策定済みです。同計画では、「サンゴ群集に関する科学的知見の充実と継続的モニタリング・管理の強化」を重点課題としており、2026年にも進捗を確認するフォローアップ会議が行われています。
沖縄では、石垣島のサンゴ産卵ファームが「自然共生サイト」の回復タイプとして認定されるなど、地域を巻き込んだ再生の取り組みも進行中です。
参照:沖縄奄美自然環境事務所
環境省サンゴ生態系保全活動計画
「これからもこの海で潜りたい」から、海の未来を考える

ダイバーが海に潜る理由は人それぞれです。私の場合、大好きな沈船を見られるのでれば、海が濁っていても、道中に目をひく水中生物がいなくても十分に楽しめます。雨天で水中に光が届きにくい日も、水中ライトを照らしながら探索をすれば、まるで冒険をしているようなワクワク感を味わえます。
そんな純粋な「好き」があるからこそ、これからもその海を楽しみたい、守りたいという思いも芽生えるのではないでしょうか。
海を守りたいと思いながらも、「どう動いていいかわからない」と迷っているなら、まずは潜った海の様子を写真や動画で残し、感じたことを言葉にして発信してみてください。
また、サンゴに触れない、フィンで蹴らないといった基本的な配慮に加え、中性浮力などのスキルアップを心掛けることも、海洋保全につながる大切な一歩です。
DGSのような技術が進んでも、サンゴ礁の問題がすべて解決するわけではありません。海水温の上昇など、サンゴが受けているストレスそのものへの対策も欠かせません。
「環境に配慮しなければ」と難しく考える前に「これからもこの海で潜りたい」という素直な気持ちを、海の未来について考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。一人のダイバーができることは小さくても、一人ひとりの行動が積み重なれば、海を守る力になります。
グレートバリアリーフでは、AIやロボットを活用して、広大な海域でサンゴ礁を再生する技術の実証が進んでいます。世界では、保全や再生だけでなく、気候変動への対応、モニタリング、地域との連携などを組み合わせた取り組みが進められています。日本でも、国の行動計画のもとで、科学的な調査や再生、地域に根ざした活動が進められています。「これからもこの海で潜りたい」。その気持ちを入り口に、まずは自分が潜る海で起きている変化を知ることから始めてみませんか。
ライター
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マリンスポーツのジャンルを得意としたwebライター。海遊びの楽しみ方やコツを初心者にも伝わるよう日々執筆活動中。スキューバダイビング歴約20年、マリンスポーツ専門量販店にて約13年勤務。海とお酒と九州を愛する博多女です。