船酔いや波酔いのメカニズム
船酔いや波酔い、そして乗り物酔いなどは古くからよく知られた疾患で、正式には「動揺病」と呼ばれています。
動揺病は空間認知障害がおもな原因で、体が複雑な刺激(加速度)を受けた時に引き起こされるため、加速度病」と呼ばれることもあります。
ダイビングでの動揺病は、ボートでの移動中や安全停止、水面待機中の波による揺れなどの刺激によって引き起こされることが多く、ダイビングの最中に動揺病が生じることは比較的少ないことが特徴です。
船酔いや波酔いの症状は?
船酔いや波酔いのおもな症状は以下の通りです。
- 吐き気
- 胸のむかつき
- めまい
- 頭痛
- 顔面蒼白
- 異常な冷や汗
症状が悪化すると、周囲に無関心となり活動性も低下し、冷静さを失い判断力も曖昧になります。
ダイビングスポットへ向かう途中で船酔いや波酔いを生じると、少しでも早く不快な状況から逃れようとしがちです。
そして、ダイビング前の準備や安全確認が不十分なままダイビングを行ってしまい、思わぬ事故を引き起こす可能性もあります。
動揺病の発症メカニズム
動揺病の発症メカニズムにはいくつかの説がありますが、有力な説は感覚混乱や感覚不一致によるものです。
簡単に説明すると、人間の体には空間識という自分の周りに対して、今どこでどのような位置に置かれているのを判断する機能が備わっています。
ところが、体が予測している以上の複雑な刺激が起こると感覚の不一致を起こし、空間識と運動の感知が乱された結果、動揺病が生じるとされているのです。
また、男性より女性の方が動揺病を生じやすいとされており、これは月経前の女性ホルモンの変化が影響していることが知られています。
船酔いや波酔いは刺激がなくなれば比較的早く回復しますが、 慣れ(慣習作用)によって、よほど新たな刺激が生じない限り影響されにくくなってきます。
ダイビング中の船酔いや波酔い対策
船酔いや波酔いを起こしやすくする、いくつかの条件があります。
まず、飛行機酔いなどは食事回数とそのエネルギー量が発症頻度に関係するという報告があがっています。
そのため、船酔いや波酔いも前日の食事やアルコールの過剰摂取が動揺病を引き起こしやすい条件のひとつとして考えられています。
また、海上では水平線の位置が視覚判断に用いられることから、船の上ではどこにいるのかも重要なポイントで、ボート上での読書やスマホ操作も船酔いや波酔いを起こしやすくなります。
加えて、船酔いでは心理的影響も大きいため、誰か一人が船酔いを起こすと、ほかのダイバーに拡散してしまうケースも少なくありません。
船酔いや波酔いには予防が大切
船酔いや波酔いは予防対策が何よりも大切ですが、十分な予防を行っていても予期せず発症することがあるかもしれません。
船酔いは揺れなどの刺激を避けることがもっとも有効な対策となりますが、ダイビングスポットへ向かう途中のボート上などではそれも難しいでしょう。
そのためボート上では次のポイントを意識して行動することで、船酔いのリスクを最小限に抑えることが大切です。
船底やベンチで寝るか中央の船尾に留まる
ボート上では船底やベンチに横たわるか、可能な限りじっとしていることで、動揺刺激と空間識の差を出来る限り減らすように心がけましょう。
とくに揺れの大きな小型ボートでは船の中央の船尾側に留まることが推奨されますが、できるだけ船の排気臭の強い場所は避けた方が良いでしょう。
また、目をつぶって視覚からの情報を減らすか、遠くの景色や水平線を見るようにすることで、視覚刺激の不一致が低下し船酔いの症状を軽減させます。
読書家やスマホ、ゲームなどは一点に視力を集中させるため、視覚刺激の不一致を増してしまい船酔いを悪化させることがあるので注意が必要です。
デッキに出て新鮮な空気を吸う
キャビンからデッキへと出て新鮮な空気を吸いリラックスすることも大切です。
船酔いは不快な環境も大きく影響しているので、外の景色を見たり仲間たちと楽しく会話をしたりすることも有効です。
また、飴やガムを食べることは乗り物酔いを軽減させる効果があることが報告されており、ストレスホルモンの分泌抑制が期待できます。
ほかにも、眠ってしまい、脳の空間認知を休ませてしまうことも有効です。
酔い止め薬の服用について
ご紹介した船酔いや波酔い対策をしても症状が改善しない場合は、酔い止め薬を服用するのが良いでしょう。
酔い止め薬は、錠剤よりも液状薬の方が吸収も効果もはやくおすすめです。
また、薬に頼りたくない人は「シーバンド」と呼ばれるリストバンドを着用してみる方法もあります。
手首にある内関と呼ばれるツボを刺激することで、船酔いや波酔いの症状を軽減できるとされ、古くから民間療法として知られているそうです。