山岳会に入るまで、「対人関係が面倒」「仕事がある」などネガティブなイメージがあり入会を渋っていた筆者。一人で山に入る日々を送っていると、いつかはどうしようもない危険や困難にぶつかります。ところが「一人で山に行くには限界がある」と感じ、重い腰を上げて山岳会に入会してみると、それまでの心配の多くは杞憂となりました。筆者の実体験を元に、入会して活動しているからこそわかる山岳会の実情やコミュニティとしての魅力をお伝えします。

山岳会とは?組織の目的

登山、山岳会

山岳会とは、登山を趣味とする人たちでつくる組織・団体のことです。公益社団法人の日本山岳会や、日本山岳協会のほか、日本勤労者山岳連盟(労山)に加盟している会、登山愛好家でつくる会など様々な会があります。筆者が所属しているのは、労山加盟で社会人の登山愛好家が集まった山岳会です。

多くの山岳会は、登山技術を継承する民間団体という側面があり、定期的に訓練や技術講習会も開催しています。いわゆる登山サークルとの違いは、毎月会員同士が対面で山行報告をしたり、講習を開いたりする「例会」や、活動実績を総括する年一回の「定期総会」があるところです。

組織運営は会員らが規約に即して行うボランティアの業務が発生します。形式的な部分もありますが、事故発生時に対応するのに欠かせない登山計画書の提出とチェック、会員が無事に下山しているかどうかのチェックといった作業は最低限、山岳会であればどの組織でも行われています。

計画書のチェックも遭難時やけがを負った際の保険金の申請に関わるので、大変重要な業務といえます。

山岳会に入るメリット

山岳会に入ることで得られるメリットを詳しく紹介します。

技術や知識を習得できる

定期的に行われる救助訓練や技術訓練、講習会に参加できます。一人でもできる登山からステップアップして、クライミングや沢登り、山スキーを始めるためのサポートを受けられます。

山岳会の意義は『技術の継承』でもあるので、自分が教わったら終わりではなく、後進にも技術を伝えていく‥という思いを持つことが大事です。

共通の趣向を持った登山仲間ができる

ピークハントや縦走、トレイルランニング、山菜採り、トレッキング、沢登り、クライミング、山スキーなど様々なスタイルと目的の山行があります。登山を続けていれば誰でも趣向が出てくるものですが、山岳会に入れば自分の趣向に近い人と知り合えるチャンスが必ずあります。

会の備品を無料で借りられる

一人で揃えるには高価な山岳テントなどの備品を借りられます。

山岳会に入るデメリット

山岳会にはたくさんの魅力がある一方で、人によっては自分に合わないと感じる部分もあります。自分に合った山岳スタイルを大切にするためにも、入る前に知っておきたいデメリットを紹介します。

会の仕事がある

安全登山のために必要な計画書チェックや下山連絡の確認をはじめ、遭難者の捜索救助や訓練に係る仕事、運営上の事務的な仕事などを役割分担しながらこなします。時には面倒と感じることもあるかもしれません。しかし、こういった業務は登山のリスク管理に欠かせません。自分や仲間の命を守るためと思って、前向きに取り組めるといいでしょう。

規約や制約がある

山行計画に関する制約については、本人の経験値やレベルからかけ離れた山行計画は提出しても、認められず、引き止められることも。また、定期総会や年一回の清掃登山といったイベントがある日に限っては、個人的な山行を自粛するという取り決めもあります。

人間関係

規模が大きい山岳会ほど、様々な会員がいるので、気の合う仲間ばかりではないかもしれません。会に入ると、異なる考え•価値観を持った人とも関わる機会があります。多少癖はあっても面倒見の良い人もたくさんいるので、上手に付き合っていきましょう。

会費がある

会によってシステムは異なりますが、多くは会費制です。

自分に合った山岳会を探そう

登山、山岳会

全国には様々な山岳会があります。安全にゆるく楽しむという空気の会もあれば、貪欲に先鋭的な登山をする人が多く集まる会もあります。ホームページやSNSで情報収集したら、実際に例会に参加してみて自分の趣向に合った会なのかどうかを確かめてみるのがいいですよ。

会員数が多い山岳会になれば様々な人がいるので、まずはそういった会を探してみるのをおすすめします。

山岳会が直面している高齢化問題

最近はどの山岳会も、会員の高齢化が進んでいます。山岳会というと、ひと癖ある年配の会員がいたり、煩わしいルールがあったりするというイメージが一般的にあるのかもしれません。そういったイメージが今まで筆者にもありましたし、実際否定できない部分もあります。

山岳会はどこも会員の平均年齢が高い傾向にあります。だからこそ、今の山岳会は、存続の危機感を覚えながら、若い人を歓迎し、育てるという風土が醸成されてきていると感じています。

ステップアップのためにも、勇気を出して登山を始めたばかりの人、若い世代の人も飛び込んでみてはいかがでしょう。様々な業種や職種、年代の人と交流できるのも山岳会の醍醐味ですよ!

山岳会へ実際に入会して得たこと

登山、山岳会

山岳会へ入会してよっかたと思うことはいろいろありますが、とくに感じたことは以下の2つです。

人との繋がりが広がり、深まる

山岳会に入ることでできる仲間は、一生の財産になります。筆者は山岳会に入ってから本格的に外岩のクライミングを始めたので、ロープを結び合う仲間のほとんどは会の人たちです。

そこから繋がりが広がって会員以外のクライマーとも交流が生まれました。ロープを結び合う人というのは、命を預けられるほど信頼できる相棒でもあります。普段の日常生活を送っているだけでは絶対にできない関係性がそこにはあります。

一人では見られない景色が見られる

クライミングや沢登り、厳冬期の登山というものはリスクも高く、仲間がいないとなかなか踏み込めない領域です。山岳会に入って仲間を作り、主体的に努力できれば、一人では決して到達できない素晴らしい世界が見られるはずです。

山岳会で仲間を増やして、山をもっと楽しもう

登山、山岳会

「山は逃げない。でも、機会は逃げるよ」

山岳会に入って知り合い、今でもよく一緒に登る先輩の言葉です。一人で挑戦するには不安がある‥でも仲間ができない‥そうやってただひたすら、出会いを待っていた期間が筆者にはありました。

出会いというものは、自分から能動的に探さないとなかなか望めないのです。本当に心からやりたいことがあって、それが自分一人で実現するのが難しいなら、自分から仲間を探しに行くのが一番の近道なのではないでしょうか。

体力は、何もしなければ年齢を重ねる毎に徐々に低下していきます。後悔する前に、自分からチャンスを掴みにいきませんか?夢を持つだけで、人生は楽しくなりますよ。

Sho

ライター

Sho

1995年生まれ。元新聞記者。写真の趣味をきっかけに2020年から北海道に移住。野生動物や自然風景、山岳写真を撮影する週末カメラマンとして活動している。山岳登攀にも力を入れており、北海道を拠点に沢登りやアルパインクライミング、フリークライミング、アイスクライミング、ミックスクライミングなどジャンルを問わず登るクライマーでもある。写真も山も、挑戦と冒険をモットーに生きている。山帰りは、デカ盛り大好き大食い野郎と化す。