登山をしていると、山の天気ほど気まぐれなものはないと感じます。朝の澄んだ青空がうそのように、昼には稜線の向こうから黒い雲が湧き上がる。そんな場面に何度も出会ってきました。予報だけに頼らず、雲や風から天気の変化を読み取る「観天望気(かんてんぼうき)」を知っておくと、急な天候悪化のリスクを回避するうえでとても役立ちます。空を見上げて自然のサインを感じ取れば、登山の楽しみもぐっと深まるので、ぜひ参考にしてくださいね。
山での天候判断の重要性

登山やキャンプは、晴れた日にこそ気持ちがいいものです。けれど、山の天気は変わりやすく、晴れ予報の日でも、わずかな雲や風の変化で一気に雷雨や濃霧へとつながる場合があります。
山では標高が上がるほど気温は下がり、風の影響も強まるため、平地の感覚では予測できません。登山中の事故やトラブルの多くは、天候の急変に対応できなかったことが原因といわれています。
だからこそ出発前の天気予報チェックに加えて、登山中も自分の目で空を観察し、雲や風の変化を感じ取ることが大切です。古くから日本に伝わる「観天望気」を意識することで、危険をいち早く察知できるだけでなく、自然と対話しながら歩く楽しさも広がりますよ。
雲から読み取れる天気の変化を見逃さないためには?
雲を観察することで、「安定した晴天」か「次第に崩れる前触れ」かがわかるようになります。私自身、実際に気象講習を受けてみて、「雲はただの風景じゃない」と気づかされました。ここでは、そのときに学んだ“空のサイン”を紹介します。
天気が崩れる前に現れる雲を覚えよう
雨が降る前には、空にいくつかのサインが現れます。ここでは、雨を予兆する代表的な雲の種類と特徴を紹介します。
巻層雲(けんそううん/すじ雲)

空一面に白いベールのような薄い雲が広がり、太陽のまわりに淡いハロと呼ばれる「暈(かさ)」がかかることがあります。これは巻層雲が光を屈折させて生まれる現象です。雨を直接降らせる雲ではありませんが、低気圧や前線接近のサイン。
青空が白くにじむように見えはじめたら、天気がゆっくり変わりはじめている証拠。その空の変化に気づけたとき、山との距離が少し縮まった気がするかもしれません。
高層雲(こうそううん)

空一面を灰色の膜のような雲がゆっくりと覆いはじめ、太陽の輪郭がぼやけてきたら——それが高層雲です。巻層雲よりも厚く、空の奥行きが浅く感じられるようになります。
この雲が出るとほどなくして雨が降り出すことが多く、天気の“下り坂”の合図です。山で見かけたら、レインウェアを取り出すタイミング。気温もぐっと下がるので、ひと息つくときに防寒具も準備しておくと安心です。
巻積雲(けんせきうん/うろこ雲)

魚のうろこのような小さな雲が、空いっぱいに規則正しく並ぶ巻積雲。1年を通して見られますが、澄んだ秋の空ではいっそう美しく見えます。
見た目は穏やかですが、天気が変わりはじめるサイン。次の目的地を少し早めに決めておくと、空のリズムに自分の歩調が合っていくような感覚になります。
笠雲・吊るし雲・レンズ雲

山頂に笠のような雲が静かにかかると、つい見とれてしまいます。けれどもそれは、上空で風が荒れはじめている証拠。
同じように、風下に浮かぶ吊るし雲や、なめらかな層を描くレンズ雲も、いずれも強い風のサインです。
美しい雲に心を奪われるのも束の間、その下では天気が静かに反転しています。
乱層雲(らんそううん)

空を暗い雲が覆い、しとしとと雨を落としつづけるのが乱層雲です。高い山では霧や雪に姿を変えて、視界を奪うこともあります。
雲底が低くなり、山肌が白く煙るように見えたら、空が「ここまで」と告げている合図。その声に耳を傾けられる人ほど、山を長く楽しめるのだと思います。
積乱雲(せきらんうん)

夏の午後、白い塔のように立ちのぼる積乱雲は、雷雨や突風、急な強雨をもたらす、もっとも力強い雲です。冷たい風が吹き、遠くで雷鳴が響いたら、空が警告を発しているサインです。
「まだ大丈夫」ではなく「いま戻る」。その判断が、また次の山へつながる一歩になります。
好天が続くときの雲を観察しよう
晴れの日の空にも、さまざまな雲が浮かんでいます。好天時にも、雲の形や動きを観察しておくと、天気の変化に気づきやすくなりますよ。
積雲(せきうん)

白くモコモコした綿のような雲で、晴れた日の青空によく現れます。午後になると上昇気流によって大きく発達し、消えていくのが特徴です。安定した晴天の象徴ですが、夏場などの大気が不安定な日は要注意。積雲が急に背を伸ばすように発達してきたら、積乱雲に変わる前兆かもしれません。午後はときどき空を見上げて、雲の変化を確認してみましょう。
巻雲(けんうん/はね雲)

髪の毛や羽のように細長い雲で、空の高いところに現れます。高気圧に覆われているときによく見られる晴天のサインです。ただし、雲が次第に厚みを増して広がってきた場合は、前線の接近を示すこともあります。朝と午後で雲の形や厚さを見比べると、天気の移り変わりが読み取れます。
層積雲(そうせきうん)

低い位置にふんわりした雲の塊が連なり、空を覆うように広がります。安定した空気のもとでは穏やかな晴れや曇り空をもたらしますが、雲が厚くなり日差しを遮るようになると、弱い雨を降らせることも。雲の層の厚さや太陽の光のとおり方を意識してみることで、「そろそろ天気が変わるかも」というサインを早めに察知できます。
雲と風から予想する雷雨の兆候チェックリスト

雲の名前をすべて覚えていなくても、“危険のサイン”を見逃さないことが大切です。次のチェックリストを頭に入れておくだけで、雷雨の兆候を早めに察知できます。
□雲の底が黒っぽく、どんどん厚みを増してきた
□ゴロゴロと雷鳴が遠くから聞こえはじめた
□急に冷たい風が吹き、あたりが暗くなってきた
□遠くの山のうえに、もくもくと積乱雲が立ち上がっている
ひとつでも当てはまるときは、雷雨が近づいているサインです。早めにレインウェアを用意し、稜線や高所から離れる行動をとりましょう。無理せず、下山や避難も検討することが安全登山につながります。
今日から始める“雲読み登山”の3ステップ

①出発前に天気図と雲予報をチェック
気象庁や山の天気サイトなどで事前に雲の動きや前線の位置を確認。「どんな雲がでそうか」をイメージしてから山に向かうと、天気の予測ができて楽しみが増します。
②登山中は「空を見上げる習慣」をつくる
休憩のタイミングで、雲の形・高さ・動く速さを観察し、雷雲の前触れを探す習慣をつけるとよいでしょう。写真に撮っておくと、あとで振り返りにも役立ちます。
③少しでも不安な雲を感じたら迷わず撤退する
厚い雲•冷たい風•遠くの雷鳴など、少しでも「これは変だな」と感じたら無理せず早めに下山しましょう。その判断こそが、安全登山の第一歩です。
ライター
yuki
幼少期からキャンプや釣り、スキーなどを楽しむアウトドアファミリーで育つ。10代後半は1人旅にハマりヨーロッパや北米を中心としたトラベラー期となる。現在もスキー、スノーボード、ダイビングなど海や山で活動中。「愛する登山」は低山から厳冬期の雪山まで季節問わず楽しむhike&snowrideなスタイル。お気に入りの山は立山連峰!Greenfield登山部/部長の任命を受け部活動と執筆活動に奮闘中。