子どもの自然体験を大切にしている人ならば、“センス・オブ・ワンダー”という言葉を耳にしたことがあるはずです。海洋生物学者・作家のレイチェル・カーソンが残したこの考え方は、親子で自然を楽しむときの大切な土台となります。自然界の発見や感動を親子で一緒に喜びあうことで、子どもの好奇心や生きる力が育ち、感性が磨かれるからです。本記事ではセンス・オブ・ワンダーの意味と魅力、実践のヒントを紹介します。

“センス・オブ・ワンダー”とは?

センス・オブ・ワンダー 意味 レイチェル・カーソン

“センス・オブ・ワンダー”は、活動や教育法ではなく私たち一人ひとりの心のあり方を表す言葉です。身近な自然に対して、驚きや興味により心を動かす感受性ともいえます。

この言葉を意識すれば、子どもと一緒に自然とのつながりを深められ、大人の日常もより豊かになるはず。ここでは、センス・オブ・ワンダーの意味や言葉が生まれた背景について紹介します。

センス・オブ・ワンダー(Sense of Wonder)の意味

「センス(Sense)」は感覚、「ワンダー(Wonder)」は不思議や驚きを意味します。直訳すれば「不思議さを感じ取る心」。知識ではなく「感じること」そのものの重要性を表しています。

小さな花や鳥や昆虫の動き、夜空や激しい雨などについて「うつくしい」「すごい」「どうしてだろう」と感じる心が、まさにセンス・オブ・ワンダーです。この感性は、日常の中で誰もが育むことができます。

レイチェル・カーソンとセンス・オブ・ワンダー

センス・オブ・ワンダー 意味 レイチェル・カーソン

センス・オブ・ワンダーという言葉を広めたのは、アメリカの海洋生物学者であり作家でもあるレイチェル・カーソンです。カーソンはベストセラーである代表作『沈黙の春』で、農薬による環境汚染の問題を告発した人物として知られています。

著書『センス・オブ・ワンダー』は、晩年に子どもと自然を楽しむ経験からつづったエッセイがまとめられたものです。この本の中でカーソンは、大人が子どもと一緒に自然を体験するとき、専門知識よりも「驚きや感動を共にする心」が大切だと語っています。

知識を教えるより、一緒に「わぁ!」と感動することの方が子どもの心を育てる―これがカーソンの伝えたメッセージです。

日本で手に入る『センス・オブ・ワンダー』

日本でもこの本は長く親しまれています。新潮社の文庫版には、福岡伸一さんや角野栄子さんらによるエッセイも収録され、現代の視点からも読みやすい内容になっています。

さらに2024年には筑摩書房から新訳版が刊行され、数学者・森田真生さんによる解説や現代に続く『僕たちのセンス・オブ・ワンダー』が併せて収められました。どちらも分量は手軽で、親子で自然を楽しみたい方におすすめできる一冊です。

センス・オブ・ワンダーはどう役立つ?

センス・オブ・ワンダー 意味 レイチェル・カーソン

センス・オブ・ワンダーを意識することで得られる一番のメリットは、子どもと大人が一緒に自然の不思議を楽しみ、心を豊かにできることです。特別な準備や知識がなくても実践できるため、誰にでも取り入れやすい考え方といえるでしょう。

センス・オブ・ワンダーは、子どもが身近な自然に触れるなかで「なぜ?」「どうして?」と感じる好奇心を膨らませる土台です。そして好奇心は、自分なりに考える力を伸ばします。

遊びを通じて自然の不思議さや美しさに感動する体験は、豊かな感情や思考力、表現力を養い、将来の「生きる力」を育むために不可欠です。

レイチェル・カーソンが著書『センス・オブ・ワンダー』で語ったように、知識を教え込むよりも「一緒に感動すること」が子どもの成長につながります。

そして親にとっても、自然を見つめ直し、日々の生活で忘れがちな感性を取り戻すチャンスとなります。つまりセンス・オブ・ワンダーを磨けば、親子で自然を楽しみながら、子どもの生きる力と大人の心の豊かさを同時に育めるのです。

センス・オブ・ワンダーで自然を見てみよう

センス・オブ・ワンダー 意味 レイチェル・カーソン

センス・オブ・ワンダーは、親子で自然を楽しむためのヒントです。日常にあふれる自然や小さな現象を、新鮮な感性で受けとめる力ともいえます。「当たり前」という先入観を取り払えば、センス・オブ・ワンダーは難しいことではありません

ここでは、実践例を親子のストーリー風に紹介します。

生活の中で

センス・オブ・ワンダー 意味 レイチェル・カーソン

部屋から外を見ると、空はオレンジと紫が溶け合い、夕日に照らされて雲が輝いています。「わぁ、きれい!」「絵具で描いたみたいだね」

いつの間にかあたりは暗くなり、昇り始めた月には雲がかかり幻想的です。「あれはお月様?すごく大きい」「本当に大きい!どうしてだろうね」

空の月や星、天候の変化は、地上であればどこにいても味わえます。家の中から子どもと一緒に外を眺めて、感じたことを言い合うだけでも、気づきがあるかもしれません。

街の中で

センス・オブ・ワンダー 意味 レイチェル・カーソン

「雨の匂いがする」「夜に雨が降ったんだね」雨が止んだ朝、鳥が賑やかに鳴きかわしています。「雨が止んでうれしいのかな」「お腹がすいて餌を探しているのかな」

電線には、親鳥に餌をねだる巣立ち雛の姿も。「あ!ごはんあげてる」「人間と同じだね」

身近な生きものの存在に親しみを感じると、街の中も違う景色に見えてきます。子どもと一緒に、雨後の土の香りや輝く水滴、生きものたちの気配を感じて言葉にできると良いですね。

森の中で

センス・オブ・ワンダー 意味 レイチェル・カーソン

森のトレイルを歩いていると、道の真ん中につやつやした透明な塊が。遠目にはプラスチック片に見えましたが、近づいて拾い上げると柔らかく、自然物のようです。「何だ、これ?」「生きもの?」

その正体は、頭上のコナラの枝から落ちてきたキノコ。季節や天気、湿気と気温、木の種類など自然の条件が重なったからこそ出会えた、小さな宝物でした。

センス・オブ・ワンダーで小さな変化に気づく感性を磨いていれば、このような偶然に遭遇するチャンスが増えます。

経験や知識が少ない分、子どもの目には身の回りのものが新鮮で驚きに満ちたものとして映っています。その感動をそのまま、隣で一緒に分かち合えるのがアウトドアの醍醐味といえるでしょう。

センス・オブ・ワンダーとは、自然の不思議や美しさに心を動かす感性のこと。親子で感動を共有することが、子どもの好奇心や自然への畏敬の念を育み、生きる力へとつながります。大人にとっても心豊かな時間を取り戻す鍵となるはず。センス・オブ・ワンダーを自分のものにして、親子のアウトドアの時間をさらに充実させてくださいね。

参考文献
幼児教育における「センス・オブ・ワンダー」(1)|龍谷大学

曽我部倫子

ライター

曽我部倫子

東京都在住。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、小さなお子さんや保護者を対象に、自然に直接触れる体験を提供している。

子ども × 環境教育の活動経歴は20年ほど。谷津田の保全に関わり、生きもの探しが大好き。また、Webライターとして環境問題やSDGs、GXなどをテーマに執筆している。三姉妹の母。