UIAA国際山岳連合医療部会の提言①子どもの高所問題
子どもを高地へ連れて行く場合は、保護者がしっかり子どもの観察をして、健康上問題がないか常に確認する必要があります。
子どもの耳痛問題
高所で起こる子どもの症状で一番多いのが耳痛です。耳痛は急激な大気圧の変化によって起こります。子どもと一緒に航空機で旅行するときや、標高の高い峠道を車で走行するとき、ケーブルカーに乗っているときなどでも起こります。
例えば、飛行機会社を例にとってみると、エールフランス航空では生後1週間に満たない乳児の飛行について「飛行機でのご旅行はおすすめいたしません」という表現でアナウンスしています。
日本の航空会社(JALやANA)は制限していませんが、16歳以上の同伴を義務付けています。特に幼児以下の子どもで上気道感染(風邪などが原因の鼻腔閉塞)にかかっている場合は、耳内調節ができないので注意が必要です。
子どもの耳痛は、生理食塩水などを使って鼻腔をきれいに洗う、峠道を走行する際には少しずつ高度を上げるなどの対策方法があります。子どもを高所へ連れて行く際は、生理食塩水の鼻スプレーを持参して、こまめに洗浄してあげるといいでしょう。
子どもの高山病
大人とちがって、幼い子どもの場合は具合が悪くてもうまく表現できません。そのため、3歳以下のまだ上手に会話ができない子どもを高所へ連れて行くのはできるだけ避けた方がよいでしょう。
8歳以上の子どもの高山病は、大人の症状と同じ過程をたどって現れます。高山病を防ぐ対策として、水分を適切に摂取して、休養と栄養をしっかりとることが重要です。
標高2500m以上の山に登るときには、高所順応させながら少しずつ高度に慣れるようにしましょう。
大人の場合は高所順応を助ける予防薬を使用することがありますが、子どもの場合は臨床データが少ないので予防薬の服用を避けるようにしてください。
標高2500m以上の山で宿泊する場合は、前日と当日に泊まる宿泊場所の高度差を300m以内にしましょう。これは大人も同じです。
高所での緊急時には子どもを安全なルートを使って下山させるようにしてください。登山する前に緊急時の下山ルートを想定した計画を立てておきましょう。
UIAA国際山岳連合医療部会の提言②女性の高所問題
高山病の発症率は女性も男性も変わりません。高所肺水腫の発症率は男性よりも女性の方が低いといわれています。高所では月経の周期が不規則になる恐れがあるので注意が必要です。
また、女性の場合は血中鉄分が不足していることがあるので、登山する前に血中鉄分の量を測定して、不測している場合には鉄剤の補充を行いましょう。
妊娠中の場合
海外への遠征登山はもとより、国内であっても妊娠中の登山はできるだけ避けるべきでしょう。妊娠中に下痢やマラリア、E型肝炎などに罹患すると重症化することがあります。
妊婦は、抗マラリア薬、ニューキノロン系の薬、スルフォンアミド系の薬を服用できないので注意してください。
UIAA国際山岳連合医療部会の提言③持病のある人の登山について
高齢者の登山人口が年々増加しています。なかには持病を抱えている人も少なくありません。持病のある人が登山する際にはどのようなことに気をつければいいのでしょうか。
高所は気圧が低く、酸素も薄いため疾患を抱えている人は、さらに症状が悪化してしまう恐れがあります。以下に主な疾患別の注意点をまとめてみました。
呼吸器疾患(慢性気管支炎や肺気腫など)の人
呼吸器疾患(慢性気管支炎や肺気腫など)のある人は酸素の少ない高地では平地よりも呼吸が苦しくなります。低酸素症に陥る危険性があるので十分な注意が必要です。
喘息疾患の人
高所にはアレルゲンが少ないため喘息の症状が抑えられ、呼吸が比較的安定するといわれています。ただし、高所の空気は冷えて乾燥しているので気管支攣縮に注意が必要です。
また、平地でしばしば呼吸困難を引き起こすような喘息の場合は、登山を控えた方がよいでしょう。
心臓循環器系疾患の人
心臓循環器系疾患には、心臓の疾患や全身高血圧などさまざまな疾患があります。特に狭心症や心不全を引き起こす心配のある人は登山を控えた方がいいでしょう。
全身性高血圧の場合は、薬の服用などでコントロールできているのであれば、危険性は低いでしょう。念のため主治医と相談してから登山をするようにしてください。
登山する際は、普段服用している薬を必ず常備するようにしましょう。冠動脈のバイパス手術をしている人や不整脈があると診断されている人は、主治医と相談してから登山を行ってください。
糖尿病の人
糖尿病には1型と2型があります。2型の場合はまったく問題ないといっていいでしょう。ただし、1型糖尿病(定期的なインスリンの投与が必須)の方は、登山の運動量によってインスリンの需要が低下することがあります。
インスリンの需要が低下しているにもかかわらず平地と同量のインスリンを投与すると低血糖に陥ります。1型糖尿病の人が登山する際は、医療スタッフが同行してインスリンの投与を調節するか、自身で調節できるように対応してください。
インスリンは熱にも寒さにも紫外線にも弱いので、登山する際にはインスリンの保存にも注意が必要です。
脳血管障害の人
脳卒中や頸動脈狭窄等の疾患がある人は登山を控えるべきです。高地ではヘマトクリットが上昇し、血栓症をひき起こす危険性が高まります。