家族と登った塔ノ岳。その夜、膝はゾウの足のように腫れ上がり、診断されたのは「半月板損傷」でした。転倒や事故といった明確なきっかけがなくても、長年の登山による負荷と加齢が重なり、膝は静かに限界を迎えていたのです。本記事では自身の経験を振り返りながら、なぜケガに至ったのかという原因と、一生自分の足で山を楽しむために意識したい予防の視点を共有します。なお内容の一部については、整形外科の医師および現在通院しているスポーツ接骨院の先生にも話を伺い、専門的な知見を交えながらまとめています。
突然ゾウのように腫れた膝

登山歴10年になる筆者にとって、塔ノ岳は何度も登ってきた馴染みの山です。今回は家族との山登りだったため、ペースもゆっくりで、特別きついと感じる場面もありませんでした。
それにもかかわらず、家に着くころには痛みこそないものの、膝だけが倍に腫れ上がっていたのです。熱を帯び、曲げ伸ばしをすると違和感があり、「何かがおかしい」という感覚だけが、はっきりと残りました。
半月板損傷とは?

整形外科を受診すると、医師に「膝にかなり水が溜まっていますね」と言われました。レントゲンと骨密度検査を行い、後日あらためてMRIで詳しく調べた結果、診断は「半月板損傷」でした。
膝関節の間には、C型(三日月型)をした半月板という軟骨組織が、内側と外側に一つずつあります。今回筆者がケガしたのは右足の内側です。
半月板はクッションのように衝撃を吸収し、膝の動きを安定させる重要な役割を担っています。この組織に、強い衝撃やひねりが加わって亀裂が入ったり、一部が欠けたりした状態が「半月板損傷」です。
痛みがでることもありますが、気づかないうちに進行し腫れや水が溜まる、引っかかり感や曲げ伸ばしの違和感といった症状として現れることが多いです。
半月板損傷はなぜ起きたのか

転倒や事故の記憶がなかったため、原因を医師に尋ねたところ、次のような説明を受けました。思い当たることが、次々と浮かびました。
加齢による変化
年齢を重ねるにつれ、軟骨や半月板に含まれる水分やコラーゲンは徐々に減少し、弾力や強度が低下していきます。これは登山をしていなくても誰にでも起こる自然な変化です。
とくに女性は閉経を境に女性ホルモンが急激に減少し、骨や軟骨が脆くなりやすい傾向があります。半月板損傷が女性に比較的多いのは、この影響も大きいといわれています。
登山で蓄積する負荷
登山では、一歩踏み出すごとに膝へ体重の数倍の負荷がかかります。とくに下山時は、衝撃を受け止める役割を膝が担うため、負担は想像以上です。
若いころは問題なかった負荷でも、加齢とともに回復力が落ちた身体にとっては、「気づかないうちに許容量を超えていた」可能性があります。塔ノ岳は慣れた山だったので、無意識にペースが上がり、下りも止まらず歩き続けてしまったため負荷がかかりすぎてしまったのかもしれません。
筋肉の線維化と筋力バランスの崩れ
接骨院でエコーを見たとき、損傷した側の足は筋肉が線維化し、硬くなっている状態でした。線維化した筋肉同士が不自然に引っ張り合い、結果として膝関節に過剰なストレスがかかっていたようです。自分ではストレッチをしているつもりでしたが、実はしっかり伸びていなかったのです。
疲労が蓄積すると、太ももの前側にある大腿四頭筋が十分に使えなくなり、関節に頼る歩き方になります。その結果、本来なら筋肉で吸収するはずの衝撃が、そのまま膝関節に伝わり半月板を傷める原因になってしまったのです。
「筋力不足」というより、「使い方の問題」。それもケガの大きな要因のひとつでした。
振り返って気付いた見落としがちなサイン
今思えば、体は何度もSOSを出していました。
・日常生活の中でふと気づく、膝が引っかかるような違和感
・登山口でストレッチをし、膝を深く曲げたときに感じるつっぱり
・下山中に時折感じる膝の重み
どれも痛みがなく歩けてしまう程度の些細なことなので、筆者は「登山の疲れだろう」「年齢のせいだ」と、ロキソニンのシップを貼ってやり過ごしてしまっていました。休む理由にならない違和感だったのです。しかし、これらのサインが重なっていたことこそが、体からの警告だったのだと思います。
それを「ただの疲れ」で片付けてしまったことが、大きなケガへとつながる一歩だったのかもしれません。本当はその段階で歩き方を変えたり、山行間隔を空けたりすべきだったのだと思います。体は段階的にブレーキをかけていたのに、最後までアクセルを踏み続けていたのは自分でした。
今伝えたい、膝と長く付き合う考え方

ケガをした直後は「もう前みたいには歩けないかもしれない」と感じました。けれど治療を続けるうちに、これは終わりではなく「登山スタイルの見直し」なのだと考えるようになりました。
体力で押し切る歩き方から、負担を分散する歩き方へ。
足だけに頼る登山から、道具と技術を使う登山へ。
以前は、楽に歩くことは弱くなることだと思っていました。しかし今は逆で、長く歩き続けるための選択だと感じています。
山をやめないために歩き方を変える。
無理をしないために工夫を増やす。
膝を守ることは、未来の山を増やすことなのだと思います。
登山者が意識したい半月板損傷の予防

日々のケアに加えて、山の中での動き方そのものを見直すことが、膝を守るうえでとても重要になります。とくに半月板への負担は「どれだけ歩いたか」よりも「どう歩いたか」に大きく左右されます。
「ドスン」を封印
下山時に起こしやすいのが、膝を伸ばしたまま体重を乗せてしまう「ドスン歩き」。これは半月板に強い衝撃を与えます。振り返ると、私は下山になると歩き方が変わっていました。登りでは呼吸を整えながら丁寧に足を置いているのに、下りになると無意識にスピードが上がり、ドスン歩きをしていたのです。
当時は楽に下れているつもりでしたが、実際には衝撃をすべて膝で受け止めていました。太ももやお尻の筋肉を使い、膝を曲げた状態で「そっと」着地する。同じ下り坂でも、歩き方ひとつで負担は大きく変わるのです。
ダブルストックの常用
トレッキングポールを2本使うことで、膝への負荷を3割カットすることができると言われています。とくに、下山では足だけで体重を受け止めず、腕と上半身も使って体を支えることが大切です。疲労が溜まってフォームが崩れやすい後半こそ、ダブルストックの効果を発揮します。
以前の筆者は、ポールは急な下りや長距離のときだけ使う「補助装備」でした。なるべく使わない方がトレーニングになるとも思っていたほどです。ポールは転倒防止の道具ではなく、膝を守るための装備だったのです。
休養と疲労管理
以前は週末ごとに山へ行くことを優先し、違和感があっても「歩けば治る」と考えていました。しかし、山に行かない日をつくることもトレーニングの一部だと気づきます。体力を積み上げているつもりで、実は疲労を積み重ねていただけでした。
今後は意識して休養を取り、次のような疲労管理を心がけようと思いました。
・連続した山行を避け、関節の炎症を鎮める期間を設ける
・下山後のアイシング(冷却)を習慣化する
・毎日のストレッチを行う
・違和感が残るうちは無理をしない
自宅でできる筋トレやストレッチの記事も参考にしてみてくださいね。
ライター
yuki
幼少期からキャンプや釣り、スキーなどを楽しむアウトドアファミリーで育つ。10代後半は1人旅にハマりヨーロッパや北米を中心としたトラベラー期となる。現在もスキー、スノーボード、ダイビングなど海や山で活動中。「愛する登山」は低山から厳冬期の雪山まで季節問わず楽しむhike&snowrideなスタイル。お気に入りの山は立山連峰!Greenfield登山部/部長の任命を受け部活動と執筆活動に奮闘中。