飯豊山(いいでさん)は、静かな稜線歩きと雄大な景色が魅力の山。長い行程のため「上級者向け」と思われがちですが、計画次第で小屋泊・テント泊のどちらも楽しめる、自由度の高い山です。本記事では、実際の山行をもとに登山ルートや装備、注意点に加え、飯豊山ならではの絶景と達成感を写真とともに紹介します。深い山の懐で出会う感動と、心に刻まれる稜線の魅力をぜひ体感してください。

飯豊山ってどんな山?

飯豊山 体験記

日本百名山のひとつで、「東北アルプス」とも称される飯豊山。アクセスがやや難しく体力も試される山ですが、それだけに登る価値は十分。まさに“深山幽谷”を感じられる、東北屈指の名峰です。

基本情報

標高 2,105m
位置 山形県・福島県・新潟県
登山適期 7~10月
飯豊山天気予報 飯豊山の天気|てんきとくらす
問い合わせ 飯豊山登山情報-西会津町公式ホームページ

飯豊山の魅力

飯豊山を登った人によさを聞くと「山が深く、きついけど最高」と返答されることが多かったのですが、今回初めて登ってその理由がわかりました。

圧倒的なスケール感

飯豊山は単体の山というより「山塊」。連峰を縦走するスタイルが基本なので、数日かけて歩く“山旅”のような登山ができます。最高峰は大日岳(2,128m)。標高は約2,000mながら森林限界が低く、稜線歩きを長く楽しめ、朝日連峰や磐梯山などの雄大な名峰を見渡せます。稜線歩きの醍醐味を味わいたいなら飯豊山〜大日岳の区間がおすすめです。

豊かな自然と高山植物

飯豊山 体験記

飯豊山は高山植物の宝庫。豊富な雪解け水によって初夏にはハクサンイチゲやチングルマが咲き誇り、秋には稜線が紅葉に染まり圧巻の景観を見せてくれます。ブナやダケカンバの美林も見応えがあり、四季折々の表情が楽しめます。また、野鳥はもちろんのこと、数多くの蝶やトンボ、バッタなど、さまざまな生き物にも出会えました。

静かな山歩き

登山道は整備されていますが、過剰な観光化はされておらず、本物の山の静けさが残っています。距離が長いため、じっくり山と向き合いながら歩く時間を持てる点も、ほかの山にはない魅力です。

おすすめの登山コース

飯豊山に登るルートはいくつもあり、どの登山口にもそれぞれのよさがあります。代表的な登山口をピックアップしました。

主な登山口

・川入登山口/御沢登山口
・飯豊山荘/天狗平
・奥胎内登山口 / 足ノ松登山口
・大日杉登山口
・小白布沢登山口
・弥平四郎登山口
・弥生登山口
・実川登山口
・大石ダム登山口
・加冶川治水ダム/湯ノ平登山道登山口

なかでも筆者がおすすめしたいコースはこちら!

御沢登山口コース

おすすめ理由:稜線歩きが長く、飯豊山らしい広大な景色を存分に楽しめます。小屋や水場も整っているため、初めての縦走にも挑戦しやすいバランスの良いコースです。

大日杉登山口コース

おすすめ理由:ブナ林や高山植物が豊富で、自然の美しさをじっくり味わえます。登山道は比較的緩やかで歩きやすく、体力に自信がない人にもおすすめです。

飯豊連峰東西縦走コース

おすすめ理由:飯豊連峰を縦断する本格ルート。長距離ですが、山深さと稜線の絶景を存分に楽しめ、達成感が格別です。上級者やじっくり山旅を楽しみたい方向けのコースです。

【1泊2日】心に残る山深き百名山!御沢登山ルートの紹介

飯豊山 体験記

7月下旬に1泊2日で御沢野営場登山口から登った山行を紹介します。行程ごとにポイントを整理しました。

御沢登山ルート・基本情報

距離(往復) 約22km
コースタイム 約9時間(休憩含まない)
ルート 御沢野営場駐車場→横峰→地蔵水場→三国小屋→種蒔山→切合小屋→飯豊本山小屋→飯豊山

アクセス

磐越道「会津坂下IC」→約53分で御沢野営場駐車場(約33.5km)

7月18日~10月12日までの金曜日~日曜日は午後6時~午前5時まで夜間入退場禁止になっています

公共交通機関 磐越西線「山都駅」下車、タクシーで「御沢野営場」運賃は約4,000円(季節運行で川入行の登山バスもあり)

※御沢野営場はスマートフォンの電波が入らないため、下山時のタクシーは予約しておくとよいでしょう。

小屋泊・テン泊それぞれの装備や注意点

同じ山行でも「小屋泊」と「テント泊」では準備や注意点が異なります。御沢コースは長丁場なので、自分の体力に合わせて計画するとよいでしょう。

小屋泊

主な装備 ・登山靴(防水性が高いもの)
・雨具(上下セパレート)
・軽量ダウンやフリース(小屋は冷える)
・シュラフカバーやインナーシーツ(寝具は基本あり)
・ヘッドランプ
・行動食・非常食着替え(速乾シャツ、靴下、下着)
・耳栓・アイマスク(相部屋対策)
メリット ・荷物が軽いので行動が楽
・悪天候でも安心度が高い
・食事付きなら調理不要
デメリット ・予約が必要(繁忙期は早めに予約しないと満室になる場合もあり)
・寝具や室内は共同利用、プライバシーは少ない

テント泊

主な装備 ・テント(山岳用・耐風性重視)
・グラウンドシート
・シュラフ(0℃対応がおすすめ)
・マット(断熱性が高いもの)
・バーナー・燃料
・コッヘル・食器
・食材(軽量・高カロリー)
・水筒+予備ボトル
・防寒着(ダウン必須)
・雨具・ゲイター
・行動食・非常食
メリット ・自分だけの空間でのびのびできる
・食事を自分好みに作れる
デメリット ・荷物が重く、行動ペースが落ちやすい
・強風・雨天時の設営撤収は大変
・ゴミはすべて持ち帰り

実際の山行レポート

7月下旬に1泊2日で御沢野営場登山口から登った、飯豊山の山行を詳しく紹介します。

御沢野営場登山口~横峰(約2時間30分)

飯豊山 体験記

管理棟で登山届を提出し、トイレを済ませて6時半に登山口を出発。10分ほどで到着する「御沢小屋跡」までは、ブナの大木が立ち並ぶ静かな登山道で気持ちがよいのですが、すぐに本格的な急登が始まります。

横峰までは急な登りが続くものの、下十五里~中十五里~上十五里~笹平と開けたポイントがあるため、小休憩を挟みながら一歩一歩進むことができます。行きも帰りも距離が長く、体力的にきつく感じる箇所でした。

横峰~地蔵山下分岐(40分)

飯豊山 体験記

急登が続きましたが、横峰を過ぎると道は少し平坦になり歩きやすくなります。途中にある湧き水「峰秀水」では、冷たい雪解け水が疲れを癒やしてくれました。

今回は軽量化のため、出発時に最低限の水しか持参していなかったので、ここでしっかり補給しました。

地蔵山下分岐~三国小屋(1時間20分)

飯豊山 体験記

ここからは稜線に向けてグッと視界が開けてくると同時に、山道も険しくなります。岩稜帯に入るのでストックはしまっておきましょう。三国岳は両側が鋭く切れ落ちている箇所もあるので、三点支持で注意して通過します。途中「水」のマークがありましたが枯渇していました。剣が峰を過ぎれば三国小屋までもう一息です。

◎三国小屋~切合小屋(1時間45分)

 飯豊山 体験記

8月下旬までは管理人さんが常駐しており、小屋内ではジュースやお茶なども購入できます。曇り空でしたが気温は28度と暑く、冷たい炭酸が体にしみわたりました。

小屋の脇には座れる場所があったので、ここで昼食をとることにしました。ちなみに、小屋付近は三国岳山頂にあたり、福島県・山形県・新潟県の県境となっています。

飯豊山 体験記

小屋を出ると、飯豊連峰のスケールを感じる稜線歩きです。道はアップダウンが続き、ハシゴや鎖場も出現します。高山植物が咲き乱れ、ハクサンイチゲやチングルマなどが一面に広がっていました。また、雪渓の箇所もありますが、チェーンスパイクなどなくても問題なく通過できます。

飯豊山 体験記

標高が上がるにつれて雪渓が次第に増え、緑と白の鮮やかなコントラストが目を引きます。その美しさに思わずカメラを向けたくなりました。

◎切合小屋~飯豊本山小屋(2時間20分)

飯豊山 体験記

切合小屋から飯豊本山小屋までは2時間ほど。切合小屋にも水場があるので、水を補給して出発です。ここを越えれば山頂は目前。絶景を背に一歩ずつ進むことで、疲労も次第に和らいでいきました。

◎飯豊本山小屋~飯豊山山頂(20分)

飯豊山 体験記

小屋で受付を済ませ、テントを設営し夕食を終えたら、夕焼けを狙って山頂へ向かいました。やがて空と稜線が燃えるようなオレンジ色に染まり、朝日連峰や月山、さらにその向こうの鳥海山まで一望できます。長い道のりを歩き抜いた達成感と、360度に広がる真紅の夕景に、全身が震えるほどの感動を覚えました。

日が沈むと夜空には無数の星が瞬き、流れ星がいくつも尾を引いて流れます。自然の静寂に包まれるひとときは、言葉を失うほどの美しさです。夜中にはテントが激しく揺れるほどの暴風が吹き荒れましたが、疲れ切った体はそれすら気にならず、ぐっすり眠ることができました。

飯豊山 体験記

そして翌朝。冷たい空気を吸い込みながら、山の端から昇る朝日を拝み、朝食をとって撤収を始めました。体は重く、長い下山路は決して楽ではありませんでしたが、ひとつひとつの景色が胸に刻まれ、忘れられない山行となりました。

深い山々に抱かれた飯豊山は、アクセスの難しさや長い行程のため、気軽に登ることはできません。しかし、その分だけ辿り着いた稜線の静けさや大展望は、何にも代えがたい感動を与えてくれます。十分な準備を整え、自分のペースで挑めば、必ず心に残る山旅になるはず。次の登山計画には、ぜひ飯豊山を加えてみてくださいね。
 

yuki

ライター

yuki

幼少期からキャンプや釣り、スキーなどを楽しむアウトドアファミリーで育つ。10代後半は1人旅にハマりヨーロッパや北米を中心としたトラベラー期となる。現在もスキー、スノーボード、ダイビングなど海や山で活動中。「愛する登山」は低山から厳冬期の雪山まで季節問わず楽しむhike&snowrideなスタイル。お気に入りの山は立山連峰!Greenfield登山部/部長の任命を受け部活動と執筆活動に奮闘中。