自然の音を採集し、記録し、地図に落とし込む「サウンド・マッピング」は、聴覚と想像力を使った創造的なフィールドアクティビティです。本記事ではその魅力や必要な機材、地図化の方法までを紹介。自分だけの“音の地図”を作るヒントをお届けします。

耳で旅する、新しいアウトドア「サウンド・マッピング」の魅力

サウンド・マッピング

美しい風景や地形の面白さ、季節の色の移ろいー。その多くは、目で見ることによって認識されます。そのため、登山やトレッキング、渓流キャンプなど、アウトドアの多くは視覚に頼った体験が中心です。

しかし、目を閉じて森の中に立ってみると、もうひとつの“風景”が耳を通して見えてきます。鳥のさえずり、風に揺れる葉の音、沢のせせらぎ、虫の羽音…。それらの音に意識を向けることで、自然はまったく異なる表情を見せてくれるのです。

サウンド・マッピングは、こうした自然音を録音し、その場所や時間と紐づけて「音の地図」を作るアクティビティです。フィールドを歩きながら音を採集し、帰宅後に位置情報やメモと組み合わせて整理することで、音を通して場所の個性を可視化できます。

日本ではまだほとんど知られていませんが、海外ではサウンドアーティストや研究者、環境保全活動家などが積極的に取り組んでいます。自分の聴覚を研ぎ澄まし、普段は見過ごしていた環境の変化や生き物の活動を発見できるのは、この体験ならではの魅力に違いありません。

音の地図を描くベストシーズンとフィールド

サウンド・マッピング

サウンド・マッピングは一年中楽しめるアクティビティです。季節によって音の彩りは大きく変わるため、訪れる季節の数だけ楽しみ方があると言えるでしょう。例えば、春〜初夏は鳥や昆虫の活動が活発になり、秋は落ち葉を踏む音や渡り鳥の声が響きます。冬の静けさもまた格別です。

音響環境が豊かな場所の選び方

理想的なサウンド・マッピングのフィールドは、音が多層的に重なる環境です。森林では鳥や葉のざわめき、湿地帯では水音や動物の足音、渓流沿いでは水流の強弱や石を打つ水滴の音が聞こえてくることでしょう。

また、都市近郊の公園でも、人の足音や遠くの電車の音など、意外な“音の物語”が見つかります。一方で、高原や雪原などの静寂に包まれた環境では、わずかな物音がより鮮明に響き、その場所ならではの面白さを味わえます。

現地での過ごし方とマナー

録音時は話し声や衣服の擦れる音が混入しやすいもの。立ち止まり、深呼吸して、まずは1分間耳を澄ませてみましょう。これだけで音の世界は一変します。

初心者は近所の公園や庭先から始めてもOK。耳を澄ますだけで、季節の移ろいや時間帯ごとの音の違いを感じられます。慣れてくると、毎日の散歩やいつものキャンプが小さな“音の冒険”へと変わります。

必要なスキルと“耳の感度”

サウンド・マッピング

サウンド・マッピングに特別な資格や免許は不要です。ただし、「耳を澄ませて聴く」という集中力が求められます。サウンド・マッピングでは、風景の中から音を見つけ、位置や距離、方向を意識しながら記録します。そのためには、耳の感度を日頃から少しずつ鍛えていくことが大切です。

日常でできる聴覚トレーニング

外出先や自宅の庭、ベランダなどで1〜2分間、ただ耳を澄ます時間を持ちます。最初は大きな音(鳥の声、車の通過音)から聞き取り、徐々に小さな音(遠くのざわめき、葉のこすれる音)に意識を向けるようにします。

ポイントは一度にすべての音を捉えようとしないこと。一番近い音(足元や衣服の音)、中距離の音(近くの木や水の音)、遠くの音(街の喧騒や山の向こうの雷)というように、レイヤーごとに聴く練習をしてみましょう。

また、視覚情報を遮断すると、音の方向や距離の感覚が研ぎ澄まされます。鳥の鳴き声が「右上の枝」なのか「遠くの斜面」なのかを意識的に判断することも有効です。さらに、印象的な音をメモやスマホに記録し、聞き返すことで自分の聴き取り力や記憶とのズレを確認できます。

初心者が感じられる“小さな発見”の面白さ

最初は鳥のさえずりや木々を揺らす風の音が真っ先に聞こえてきますが、慣れてくると足元で葉を踏む小動物の気配、遠くの街のざわめき、屋根の上をかすめる風の音など、これまで意識していなかった音が次々と「見えて」きます。

こうした発見は、同じ場所に何度訪れても新しい表情を見せてくれるため、日常の中に“音の冒険”を見つける喜びへとつながります。

準備する機材と費用の目安

サウンド・マッピング

サウンド・マッピングは、スマートフォンとマイクがあればすぐに始められます。より高品質な記録を求める場合は、高性能ICレコーダーや指向性マイクが有効です。録音精度が上がると、小さな音や音の立体感まで鮮明に残せるため、後で地図化した際の臨場感が格段に向上します。

機材の選び方

最もシンプルなのは、スマートフォンと外付けマイクの組み合わせです。iPhoneなら標準アプリの「ボイスメモ」や、シンプルで使いやすい音声録音アプリ「Easy Voice Recorder」や「Voice Record Pro」が便利。外付けマイクはスマホ用の小型タイプでOK。よりクリアな音が録れ、雑音も軽減できます。

より本格的にサウンド・マッピングを楽しみたいなら、風切り音を抑えるウィンドスクリーン付きマイクや、長時間録音が可能なレコーダーを用意しましょう。ステレオマイクやバイノーラルマイクを使えば、ヘッドホン再生時に現場にいるような立体感を再現できます。

地図化のためのツール

録音ポイントを地図上に残すためにはGPSログアプリが便利です。登山記録アプリの「ヤマレコ」や「Geographica」は精度が高く、使いやすいでしょう。録音と同時にGPSログを取り、ポイントごとにウェイポイントを登録すると後の作業が楽になります。

また、地図上に音声ファイルを紐づけるには、Googleマイマップのような地図アプリサービスが活用できます。ポイントの名前に地点名や時間、説明に音声ファイルのリンクやメモを貼ることで、見返すときの楽しみが倍増。SNSや仲間との共有もスムーズです。

服装とフィールド対応

録音時の雑音を減らすため、ナイロン系のカサカサ音が出にくい素材を選びましょう。帽子やフードは風切り音を拾いやすいので注意が必要です。また、虫よけや防寒具、雨具など、季節と環境に応じた基本的なアウトドア装備は欠かせません。

費用の目安

初心者向けの機材は1万円以内で揃えられます。本格的な録音機材一式(高性能マイク、レコーダー、アクセサリー)を用意する場合は5〜10万円ほどかかりますが、その分だけ音の再現性と没入感が高まります。

音で広がる自然とのつながり

サウンド・マッピング

サウンド・マッピングは、自然を「耳」で感じるというシンプルながら奥深いアウトドア体験です。特別な体力や技術がなくても始められ、フィールドの魅力を新しい形で味わうことができます。

目で見た景色だけではなく、音で描く地図を手にすれば、あなたの自然との関わり方は確実に広がります。次のアウトドアの目的地に、耳を澄ませる旅を加えてみませんか?

Ryoko

ライター

Ryoko

ひとり海外旅行と海外トレッキングを愛し、自然や文化に触れる旅をライフワークにするライター&エディター。猫と音楽にも目がなく、心惹かれる音や風景を文章で切り取るのが得意。国内外のフィールドで得た体験を、読者と共有することを楽しみにしている。