クマが人里に出没する事例が相次ぎ、自然の中で癒しを得るためのアウトドアも無関係とは言い切れない状況になっています。野外での時間を安心して楽しむためには、クマの生態を知り、遭遇を防ぐ対策を取ることが大切です。本記事では、ヒグマ・ツキノワグマの特徴から出没が増えている背景、野外での安全対策、万が一の対処法までをわかりやすく解説します。

日本に生息するクマとは?

野生生物 リスク管理

日本に生息するクマは、北海道のヒグマ、本州、四国のツキノワグマの2種類です。現在、九州、沖縄には分布していません。

なお下記の地域の個体群は、生息数が少なく孤立しており、絶滅のおそれのある地域個体群として環境省RDBに掲載されています。

ヒグマ: 天塩・増毛地方、石狩西部
ツキノワグマ: 下北半島、紀伊半島、東中国地方、西中国地方、四国

ただし2018年の調査によると、地域によっては標高の低い地域で分布が拡大しており、クマの生息域は人間の生活圏に近づいている状況です。

クマによるリスクを避けるためには、クマの生態を知り、正しく恐れることが重要と考えます。ここでは、ヒグマ・ツキノワグマの基本的な情報についてお伝えします。

クマの大きさと特徴

ヒグマの方がツキノワグマより大きく、オスの方がメスよりも大型です。春先から夏にかけて体重が減少し、秋は冬眠に備えて脂肪を蓄え体重が急増します。

発達した上腕の筋肉と鋭い爪を持ち、基本的には木登りが得意です。嗅覚が非常に優れており、聴覚も発達しているといわれています。

ヒグマ
体長: オスは1.5~2.0m・メスは1.4~1.7m
体重: オスは150~200kg・メスは60~150㎏

国内で最大級の陸上哺乳類です。体毛は褐色から黒色まで差があり、月の輪模様がある個体もいます。肩部の筋肉が盛り上がっているのが特徴です。

ツキノワグマ
体長: オスは1.2~1.5m・メスは1.0~1.3m
体重: オスは40~100㎏・メスは30~60㎏

体毛は黒色。特徴である胸部の月の模様は個体ごとに異なり、ない場合もあります。

クマの食べもの

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ヒグマ・ツキノワグマともに、植物食中心の雑食性です。ササなどの草本類、イチゴ・ヤマブドウ・サルナシなどの木の実、ブナ・ミズナラ・コナラ・クリなどのどんぐりなどを食べます。

植物以外にも魚や昆虫、動物の死体、弱ったシカなどの動物を食べることもあります。冬眠の前には、大量の栄養を蓄えることが必要です。両種とも、季節に応じて自然のなかで手に入るものを餌としています。

クマのくらし

クマは基本的には単独で行動しますが、繁殖期にはオスとメスが一緒にいる場合もあります。11月頃から3~5月まで冬眠し、メスは冬眠中の1~2月に冬眠穴の中で子どもを出産します。

子グマが母グマと一緒にいるのは、ツキノワグマで生後1年半ほど、ヒグマで生後1年半~2年半ほどです。子グマが成長し、オスで2~3歳、メスで4歳ほどで繁殖可能となります。このころ親元を離れて分散し、特にオスは長距離を移動することもあります。

クマの出没が増えている理由

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クマの出没が増えている背景には、生態的な要因と社会的な要因があります。まず、クマは餌となる木の実などの量に応じて、行動圏を変化させています。奥山の餌が不足した場合、クワやクリ、カキなどの果実を求め、人の生活圏に出没することも珍しくありません。食物不足の時期やたくさんの餌が必要となる冬眠前には、餌を探す活動時間が長くなり、早朝・夕方だけでなく夜間も人里に現れる可能性が高まります。

また、春から夏にかけて生まれた場所周辺での餌をめぐる競争を避け、繁殖のパートナーを離れた場所で見つけて近親交配を避けるため、広範囲に分散する若いオスの習性も、出没の一因となっています。

さらに、中山間地域で過疎化と高齢化が進み人間活動が減少していることも、クマ出没を増やす要因です。耕作放棄地や藪が広がると隠れ場所が増え、放置された果樹はクマを誘引してしまいます。管理されなくなった雑木林のドングリも、クマにとって魅力的な食料です。

クマの出没を防ぐためには、餌場としての魅力を取り除き、人の生活圏とクマの生息域を分ける意識が欠かせません。

クマとの遭遇を防ぐための対策

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アウトドアの計画をたてる際、クマと出合うリスクについても検討が必要です。クマの生息地に足を踏み入れないことが一番でしょう。

しかし、クマの生息域が拡大している現在、生息地を完全に避けることはできないかもしれません。ここでは、クマによる事故を防ご安全を確保するためにためにできる対策をご紹介します。

クマの生息地域を知る

目的地がクマの生息地域に含まれるかどうかを知るには、自治体の情報を調べる必要があります。環境省「クマ類の出没対応マニュアル 資料編」では都道府県ごとのURLが一覧できます。

しかし、必ずしも最新情報ではないので、「目的地の自治体名」「クマ」「情報」という検索ワードで調べると、新しい情報にたどり着きやすいでしょう。北海道秋田県東京都長野県については、目撃情報を地図上で確認することが可能です。

旅行を計画する段階で、クマの生息情報も確認しておくことをお勧めします。

クマがいるかもしれない時

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基本的には、クマも人間と遭遇したいわけではありません。鈴、ラジオ、おしゃべりなどで人の存在をアピールすれば、クマの方が避けてくれるはずです。しかし、川の近くでは音がかき消されてしまうこと、鈴は自分が動かないと鳴らないことを心に留めておきましょう。

また、クマが人の生活圏に出没する時間帯は、早朝・夕方が多いとされているため、その時間帯や夜間の外出を控えましょう。

さらに、いつもと違う匂いや新しいクマの痕跡(糞、足跡など)を発見した場合には、早めに引き返す心構えが必要です。クマを誘引してしまう残飯やゴミは必ず持ち帰り、単独行動は避けてください。

クマと出合ってしまった時

クマに遭遇してしまった時の対策については、下記の記事が参考になります。

1日6頭も…数々の遭遇体験から語る。誤解だらけのヒグマ対策〜実践編〜
1日6頭も…数々の遭遇体験から語る。誤解だらけのヒグマ対策〜実践編〜

クマ撃退スプレー(ベアスプレー)は強い味方ですが、使用する場合はクマの目や鼻・のどを狙って顔に向けることが重要です。射程距離が5㎡ほどの製品が多く、クマを引き付けてから噴射しなければなりません。

草の背丈が高い場合や藪の中では噴射が難しいこと、風向きによっては自分にも刺激成分が影響することを心得ておきましょう。いざという時にすぐ手に取れるように携行するほか、躊躇せずに噴射するためには事前に練習することも大切です。

クマによる被害が増える中、安全にアウトドアを楽しむには事前の備えが欠かせません。まずは目的地がクマの生息範囲に含まれているか確認し、必要な対策を講じましょう。クマの生態を知り、遭遇を防ぐ行動をとることが、自然との健全な関わりを続ける第一歩です。

参考
クマ類の出没対応マニュアル

曽我部倫子

ライター

曽我部倫子

東京都在住。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、小さなお子さんや保護者を対象に、自然に直接触れる体験を提供している。

子ども × 環境教育の活動経歴は20年ほど。谷津田の保全に関わり、生きもの探しが大好き。また、Webライターとして環境問題やSDGs、GXなどをテーマに執筆している。三姉妹の母。