日本国内では、1年でたった1か月しかチャレンジすることができない流氷ダイビング。ダイバーであれば一度は見聞したことがある氷の下を潜る、冬特有のダイビングです。氷の下には、過酷な環境下であることを忘れてしまうほどの絶景が広がっています。
流氷ダイビングの圧倒的な魅力
流氷ダイビングは、寒い冬の北海道であればどこでも潜れるとイメージされがちですが、知床半島のウトロや羅臼(らうす)の2月のみ。しかも流氷が接岸しているタイミングで潜るという、非常に希少なダイビングです。
流氷ダイビングの魅力はなんといっても氷の下の遊泳。
氷の隙間から差し込む太陽光と氷の厚みによって放たれる自然のグラデーションは圧巻です。流氷は常に動いており、すべての光景が一期一会。天気・流れ・氷の厚さと量、すべてに左右されます。流氷と海と光が織りなす美しい自然の造形は、芸術といっても過言ではありません。
寒冷地に生息する氷の妖精「クリオネ(ハダカカメガイ)」は、ずっと見守っていたい天使のようなかわいさ。クリオネを見るために流氷ダイビングに行くというダイバーも、少なくありません。
また、オホーツクホンヤドカリやキタユウレイクラゲなど、北の海特有の水中生物がダイバーを夢中にさせます。
ちなみに陸では、流氷ウォークや砕氷船での海上遊覧、そして北海道の絶品料理をたらふく堪能でき、水中も陸もとても内容の濃いダイビング旅行を体験できます。
ベストシーズンとダイビングスポット
上述のとおり、潜ることができる時期は流氷が接岸する2月、場所は知床半島のウトロと羅臼です。ただ、必ず潜りたいという方は、ダイビング環境として安定しているウトロを選択しましょう。
ボート、もしくはビーチからエントリーする(海へ入る)一般的なダイビングと違い、流氷ダイビングはポイント(潜る場所)まで、なんと流氷の上を歩いて行き、自分たちで氷に穴を空けてエントリーします。
ダイビング中、頭上に広がる一面の氷は、男性が思いっきり叩いても割れることはなく(筆者の元同僚が実験)、少々不安に感じる方もいるかもしれません。ただ、水中にも陸にも現地スタッフがおり、陸のスタッフとロープでつながっているので、迷って戻れないということはほぼなく、安心してダイビングができます。
流氷環境でのダイブタイムは15〜25分と、通常の3分の1程度です。水中撮影が好きな方はあっという間に時間が過ぎてしまうので、潜る前に撮りたい生物や風景の構図をしっかりイメージトレーニングをしましょう。
必要なスキル
直接水面に出ることができないオーバーヘッド環境のため、PADIのアドバンスド・オープン・ウォーター・ダイバー資格、もしくは同等資格以上が必要です。
また、平均水深が6mと非常に浅いため、中性浮力(水中でのバランス)がしっかりと取れるスキルも必須。
水中、陸、ともにスタッフとの連携が必要なので、ハンドシグナル(水中での共通合図)をきちんと把握、ブリーフィング(ダイビング前に行われる事前説明)はしっかりと聞き、わからないことは必ずスタッフに聞くなどして解消するようにしてください。
申し込み先によりますが、アイスダイビングに特化した資格を保持していることが条件の場合もあります。流氷ダイビングにチャレンジしてみたい方は、予約するダイビングショップに必須条件やスキルを確認しましょう。
少し気の張る内容ですが、よくよく考えると流氷ダイビングに限ったことではなく、ダイバーとして必要なスキルや知識がほとんどで、定期的にダイビングを楽しまれているダイバーであれば自然と身に付くものでもあります。
ぜひ肩肘張らずに、流氷ダイビングを計画時から楽しんでください。
必要な準備と費用
流氷ダイビングは安全対策や防寒への十分な配慮が必要で、スキルや知識が伴います。
流氷ダイビングを楽しむために、受講をおすすめしたいコースはこちら。※PADI公式ページ参照
*ドライスーツ・ダイバー スペシャルティ・コース
*器材スペシャリスト スペシャルティ・コース
*ピーク・パフォーマンス・ボイヤンシー スペシャルティ・コース
必須ではありませんが、器材が凍ったり、エントリー後頭が痛くなったり(数秒で終わる)など、通常とは異なる環境下でのダイビングになりますので、特にスキルに不安がある方はぜひ受講を考えてください。
ちなみに各コース12,000円ほどで受講でき、もし既に受講済みの方は、海代だけで何度も練習ができます。※国内PADI加盟ダイビングショップ参考
ダイビングスキルアップへの意欲は、スタッフ側にとって、とても喜ばしいことなので、堂々と「練習したい!」「コースを受けたい!」とダイビングショップに相談してみましょう。
また、現地ショップへ直接予約するよりも、ダイビングショップのツアーを介するほうが、水中以外のガイドやケアを受けることができ、ダイビング仲間も増えて楽しい思い出になるのでおすすめです。
一般的なドライスーツは3.5mmを使用しますが、流氷ダイビングの場合は5mmのネオプレーンやラジアル素材のダイビングスーツを使用します。
ドライスーツ 流氷プロ 4 ORD
3,5mm 5mm 6,5mm プロドライスーツ ダイビング
フードは目だけが空いた寒冷地用のフードを着用。グローブも3.5mm以上を推奨しますが、厚すぎるとカメラのボタンが押しにくいので薄手で暖かい素材のグローブを選びましょう。
肌が出ている部分以外も必ず防寒対策が必要です。思考力の低下や低体温症につながる危険もあるので、中のインナーもしっかりと専用のものを選びましょう。
レギュレーターはアイスダイブに耐えうるかどうかも必ず確認し、わからない場合や寒冷地使用でない場合は現地でレンタルします。絶対に非対応や未確認のまま使用しないように、注意してください。
ざっくりですが、流氷ダイビングで準備が必要な器材の金額です。
アイスダイブ向けドライスーツ → 約280,000円
フード → 約10,000円
グローブ → 約10,000円
インナー → 約40,000円
高価な買い物となりますので、レンタル可能な機材は活用しながら、ご自身の予算やダイビングの頻度に応じて、必要な機材を検討してくださいね。
ライター
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マリンスポーツのジャンルを得意としたwebライター。海遊びの楽しみ方やコツを初心者にも伝わるよう日々執筆活動中。スキューバダイビング歴約20年、マリンスポーツ専門量販店にて約13年勤務。海とお酒と九州を愛する博多女です。