何もない山でトイレをどうするか
まだ東京に住んでいたとき、会員制キャンプ場を作るため、山梨県北杜市白州町に山林を購入しました。当時は、東京⇔山梨間を行き来していたので、山梨ではその山林が我が家の居場所なわけです。
最初はテントを張り、水は近くの道の駅で汲んできて、寝泊まりしながら開拓作業をしていたのですが、とにかく困るのがトイレでした。
まずは、コンポストトイレに行きつくまでの話をしたいと思います。
野でそのままする
山を買ってから、最初のうちはまだなんの準備もなく、「トイレに行きたくなったら車で10分ほどの道の駅に行けばいいや」と思っていました。ところが、いざ便意をもよおしてくると、その10分が耐えられなくなり、まずは「野」ですることに。
男性の小便なら、なんてことはありません。
ただ、女性はそういうわけにもいきません。
道の駅のトイレに行って、戻ってきて間もなく小学生の息子に「今度はうんちがしたい」なんて言われると、また、片道10分かけて道の駅に向かうのが、正直めんどくさいわけです。
そんなこんなで、「野」で用を足すことが最初は何度かありました。
40代の私にとって、小学生の頃は「立ちション」をするのはごくごく当たり前のことで、周りの友達も同様でした。しかし、いまはそうはいきません。マナーを守らなくてはいけないのです。
「野」で用を足すというのは開放的なものでしたが、時代は変わりました。
災害時用トイレ
いつまでも、野で用を足すわけにはいきません。
そこで導入したのが、「災害時用トイレ」でした。
- 段ボールを組み立てて便座にする
- その中にビニールをセットする
- 用を足したあと排泄物に凝固剤をかけてかためる
- ビニールを二重にして車で持ち帰る
一緒にいるのは家族だけで、周囲から見られるようなことがない場所です。とはいえ、それなりに目隠しは必要だろうと、ビニールシートと木の枝で囲いも作りました。
しかし、これは正直失敗でした。
というのも、このときはまだ東京と山梨を行き来しており、ビニールで二重にした排泄物(凝固したもの)を車で東京まで持ち帰ったのですが、車内が臭くて臭くて……。
ある程度、山林での生活も日常の一部になることを踏まえると、排泄物を別の場所に運んで処理するのは、無理があると実感しました。
そしてコンポストトイレへ
災害用トイレの苦い経験から、以下のような気持ちを抱くようになりました。
- 常に日常について回るトイレ問題のストレスをなくしたい
- 「野」からは卒業して、自分の土地内で処理したい
しかし当然、未開拓の山林に下水設備はありません。仮設トイレの導入も考えましたが、もっと自然のなかで生きるのにふさわしい選択肢はないものか、と思っていました。
そこでいろいろ調べた結果、それまで知らなかった「コンポストトイレ」に行き着いたのです。
コンポストトイレを導入
コンポストトイレを作るのに必要なものや、設置したときの工夫についてご紹介します。
コンポストトイレ用のキットを購入
まず、コンポストトイレについて簡単に説明します。
コンポストトイレとは、排泄物を水で流さずに、微生物の力を使って分解して処理するものです。排泄物を土・落ち葉・おがくず・米ぬかなどと混ぜ合わせ、撹拌(混ぜること)して発酵させます。
コンポストトイレにはいろいろなタイプがあり、完成品も販売されています。
私はYouTubeで知ったコンポストトイレ用のキットを購入しました。自給自足的生活ですので、電気を使わずに便と尿を分離するタイプを選び、コンポストトイレ用のパーツを購入して自作しました。
コンポストトイレを作る
実際に購入したのは、便と尿を分離するための受け皿と、排泄物と腐葉土などを撹拌する容器です。それ以外は自分で作りました。
コンポストトイレをDIYするために購入したものはこちらです。
・便座
・便座を設置するための木材(座るための箱)
・撹拌用の鉄の棒
・尿を溜めるためのポリタンク
・尿を受け皿からポリタンクへ入れるためのジョウゴ
購入したパーツと組み合わせて、コンポストトイレ本体が完成しました。
あとはトイレットペーパーホルダーをつくり、使用済みのトイレットペーパーを捨てるゴミ箱や、小便をしたあと受け皿を水で流す水差し的なものを用意しました。
コンポストトイレは、水洗トイレのように水を流せばキレイにはなるわけではありません。用を足したあと自分で流すのです。
実はこのとき、まだDIYを始めて間もない頃だったので失敗ばかりでした。とくに円形にくり抜く作業には苦戦しました。コンポストトイレを作ったときの様子は、こちらの記事にも書いていますので、よろしければご覧ください。
コンポストトイレ用の場所作り
さて、コンポストトイレ本体は完成しましたので、次は設置場所です。
最初は、ひとりだけ入れる小さなプライベートテントを購入して使い始めました。
災害時に寝たり、アウトドアで着替えスペースとして使ったりする長方形のものです。
しかし、長くはもちませんでした。
失敗の理由は、次の2つです。
- 用を足すには小さすぎて、ほとんどスペースがなかった
- 山から吹き下ろす風に耐えられなかった
コンポストトイレには、排泄物を撹拌するための容器と、尿を溜めるポリタンクが必要です。これらを覆っている木箱は、それなりのサイズになります。
また、快適に用を足すには、座ったときある程度の空間が必要です。しかし、狭すぎてゆとりがほとんどなく、目の前に圧迫感がありました。
またこの場所は甲斐駒ヶ岳の麓にあり、山の麓ならではの吹き下ろしの風など、とにかく突風が吹くことが多かったのです。そんな環境に長く耐えられるものではありませんでした。
手持ちのワンポールテントをトイレスペースに
結果的に、それまでずっとキャンプで使っていた「テンマクデザインのワンポールテント」をトイレ用にしました。(とてももったいないのですが、そのときあるものでやりくりしようとしたら、必然的にそうなりました)
これは設置にそれなりのスペースが必要なため、山の中腹に唯一あった平地にテントを張り、トイレスペースにしました。
十分な広さがあり、山の中腹ですので誰からも見られることがありません。テントを開けっ放しで用を足しても問題のない、とても快適なトイレになりました。
コンポストトイレを実際に使ってみた感想
実際にコンポストトイレを使ってみると、思った以上に快適でしたが、もちろん苦労もありました。ニオイや排泄物の分解状況を紹介します。
気になるニオイについて
ニオイは、正直ほぼ感じることはなかったです。
とくに便は腐葉土と撹拌するのでまったく気になりません。
コンポストトイレは、30リットル程度のサイズの容器に、半分ほど腐葉土や落ち葉をいれている状態で使用します。用を足したあと、便座に座った状態で簡単に撹拌できるように、長めの棒を取り付けています。
用を足したら、その撹拌用の棒を前に倒して元に戻す作業を5回ほど繰り返します。
そうすると、容器内の排泄物はもう形がみえないほど腐葉土に混ざり、ニオイも感じません。
どちらかと言うと、臭うのは尿のほうかもしれません。尿を溜める10Lのポリタンクに、あらかじめ2〜3L水をいれておきます。小便をしたあとは水で受け皿を流すので、ポリタンク内の尿はだいぶ薄まるのですが、それでも多少臭いを感じることがありました。
使用後のトイレレットペーパーについて
トイレットペーパーはコンポストトイレ内には流せません。横に設置したゴミ箱に捨てるのですが、これもニオイは気になりませんでした。
普段、水洗トイレで流すときと違い、しっかりトイレットペーパーで包んでから捨てているからかもしれません。
排泄物の分解について
使い始めたのが冬場だったので、おそらく氷点下まで下がったときには、まったく分解されていなかったと思います。実感としては正直わかりません。
日常生活で常に利用していたら、分解されず徐々にニオイがきつくなったのかもしれませんが、そこまでの使用頻度ではないため、腐葉土と混ざってしまえば気にならなかったです。
あまりに寒すぎると微生物が死んでしまい、排泄物を分解できなくなってしまいます。冬場でもしっかり分解させるには、電気毛布などで包んで分解を促進させる、微生物を殺さない、という方法もあるようです。
コンポストトイレで大変だったこと
コンポストトイレを使ってみて、大変だったことはおもに2つありました。
尿を薄めて処理
とにかく大変だったのが、尿の処理です。
「人間の尿は、5〜10倍程度に希釈すると自然環境に影響がない」という情報を知り、とにかくできるだけ水で薄めて土地内に撒くようにしていました。
ところが、1回のトイレで結構な量の尿が出ますので、薄めて処理することを考えると、10Lのタンクがあっという間にいっぱいになってしまいます。
どうにかして半自動的に希釈して、浸透処理させることができないものかと考え調べましたが、結局実現には至りませんでした。
虫の大量発生
暑くなってきて虫が大量発生したこともありました。
これはずっとではなく、一時的なことが何度かあった、という程度です。
夏はとても暑くなるのですが、コンポストトイレを置いていたキャンプ場の山林は、広葉樹が生い茂り、比較的涼しい場所でした。木陰が多いこともあり、この程度の発生で済んだと思っています。
もっと暑い場所だったら、さらに虫に悩む頻度が増えたかもしれません。
キャンプ場に簡易トイレを導入~コンポストトイレ卒業
キャンプ場に簡易トイレを導入し、コンポストトイレを作業場に移設しました。その後、自宅の水洗トイレが完成し、コンポストトイレを卒業することになります。
会員制キャンプ場のトイレをアップデート
会員制キャンプ場の山林では、しばらくコンポストトイレの利用を続けていました。
キャンプ場のコンセプトは「何も無い山でキャンプしよう」とか「開拓を一緒に楽しもう」といったもの。コンポストトイレでも受け入れられる環境だったとはいえ、月額費用をいただいて運営していることや、処理に苦労する面もあり、簡易トイレをリースで導入することにしました。
導入したのは、「快適トイレ」と呼ばれる仮設トイレで、国土交通省が定める仕様をクリアしているものです。建築現場における環境整備を目的にしているようです。
基準としては、主に次のような仕様が求められます。
・洋式便座であること
・水洗または簡易水洗機能があること
・臭い逆流防止機能があること
・施錠機能がしっかりしていること
・照明設備があること(電源は必要としない)
・衣類をかけるフックがあること
・鏡付きの洗面台があること
・擬音装置があること(推奨仕様)
上記以外にも細かい仕様がいろいろあり、入口の目隠し設置など女性に対する配慮も見受けられます。
このトイレを選んだ一番の理由は「臭いがあがってこない逆流防止機能」でした。
とにかく、ニオイというのを避けたかったのです。
実際に、一般的な仮設トイレで経験したようなニオイはなく、臭くて困ることもありません。まったく臭わないとは言い切れませんが、気にならないレベルです。
キャンプ場の会員の方も、トイレのアップデートには喜んでいただけたようです。とはいえ、きちんとしたトイレを作るまでの繋ぎと考えています。
コンポストトイレを作業場に移設&簡易小屋を自作
キャンプ場に簡易トイレを導入したので、これまで使っていたコンポストトイレは作業場に移設しました。
ちょうどその頃、キャンプ場から車で10分ほどの場所で小屋作りをしており、トイレに困っていたのです。小屋作りによって多くの端材が出たので、暫定対応として、落ちていた木や端材でトイレの小屋を作ることにしました。
一見すると、とてもオンボロで今にも倒れそうなトイレ小屋ですが、ツギハギで作った小屋は思いのほか丈夫です。トイレスペースとしての広さもしっかりあり、かなり快適に用を足せる空間が出来上がりました。
「見た目が悪くてもいいから、端材や自然の木を使って小屋を作りたい」という思いを形にできたのです。
小屋が完成したら、ハーフビルドで自宅を作る計画もあったので、自宅のトイレが使えるまで1年ほどの辛抱という気持ちでした。
そしてコンポストトイレからの卒業
そうして、ハーフビルドの自宅建設が始まります。
ハーフビルドなので、基礎工事や建前、屋根工事、板金工事、水周りや電気周りなど、業者さんにやっていただく作業も多々あり、仮設トイレが設置されました。
こちらはコスト優先のいわゆる仮設トイレです。会員制キャンプ場に導入したような「快適トイレ」ではないので、フラッパーのすぐ真下がそのまま便槽となっていて、正直臭いです。業者さんはこちらを使われていました。
我が家は、仮設トイレが設置されても、概ねコンポストトイレのほうを使っていたと思います。実際、そのほうが快適でした。
「コンポストトイレを使ってください」と言ったところで業者さんも困りますし、コンポストトイレの容器があまりに溜まり過ぎてもこちらが困ります。
そのような期間を経て、ようやく自宅に水洗トイレが設置され、屋外には浄化槽も設置されました。とてもキレイで便利な、でも世間では当たり前のトイレが完成しました。
このとても便利でキレイなトイレに行き着くまでの道のりは長かったです。トイレにはとても苦労させられました。でも、そのおかげでトイレのありがたさを感じましたし、「有事の際もなんとかなる」という自信もつきました。
現在のトイレ事情
現在、自宅には、排水が浄化槽につながっている便利な水洗トイレがあります。
会員制キャンプ場は、相変わらず「快適トイレ」のリースが続いている状況です。「快適トイレ」とは言っても簡易トイレなので、ちゃんとしたトイレを作りたいと思っているのですが、なかなか優先度をあげられずそのままに。その点を除けば、トイレに困ることはほぼありません。
コンポストトイレも今はお蔵入り状態で、まったく使っていません。
そんな状態がもう1年半以上続いています。
もともと、山を買ってキャンプ場を作り始めたタイミングでトイレがなくて困り、致し方なくたどり着いた答えがコンポストトイレでした。コンポストトイレを使いたい、という理由から始まったことではありません。
快適なトイレが使えれば、それに越したことはなかったはずなのです。
コンポストトイレから学んだこと。今後の構想について
移住にあたり、実際にコンポストトイレを使うために勉強して、重要性も感じました。
水の大切さ・排水の難しさ
コンポストトイレは、うまく仕組みを作ることができれば、非常にエコな循環システムです。山で生活していると、水の大切さ、排水問題の難しさを知ることになります。その上でもコンポストトイレは取り入れるべき、と実感しています。
何より私は、“自給自足的な生活”を目指しているわけです。
自給自足的ということは、最終形は「外部からのインフラ提供や物資供給がなくてもいかに生活が成立するか」という視点になります。最近はさまざまな世界情勢の変化もあり、より有事の際の対策を意識することが増えました。いずれコンポストトイレの再設置も考えています。
コンポストトイレの活用方法
今一度コンポストトイレを設置するとしたら、万が一のための対策だけではありません。たとえば、我が家の庭スペースに、友人がキャンプ泊をしたときにも使えるトイレをイメージしています。
そうなると、以前のようなツギハギのトイレ小屋ではなく、もうちょっとちゃんとしたトイレを作りたいと考えています。
まず考えられるのは、コンポストトイレをより進化させることです。
ソーラー発電によって、電気毛布等を用いてコンポスト容器を温め、尿を蒸発、分解させる方法。また、尿を分離させて半自動的に水で希釈させる仕組みを作り、排水した先に放水・濾過装置を作って植物を育てる堆肥にする方法など、いろいろな可能性がありそうです。
山に来て、トイレに困ったことで試行錯誤を繰り返しましたが、学びも多くありました。都会で暮らしていたときは、排泄物はただ除去すべきものという捉え方が強く、自分の排泄物と向き合うことはありませんでした。でも、自分でなんとかしなければならない状況になると、汚いものという見え方が変わり、本来あるべき姿のように感じました。自給自足的な生活においては、都会暮らしにはない柔軟な考えをもつことが大切だと思います。
ライター
山羊男(ヤギオトコ)
東京でネット業界のディレクターを15年ほど勤めた後、コロナ禍の2020年に39歳で山梨県北杜市へ移住。妻と当時小学4年生の息子と家族3人で、会員制キャンプ場を手作りしながら田舎暮らしをはじめる。完全に素人からのスタートで、小屋作りや家作りなどDIYしながら、自給自足的かつ健康的な生活を目指して、日々実践中。現在は会員制キャンプ場のほかに、オートサイトキャンプ場管理人、オーガニック食品などを扱う小売事業、ネット関連事業を展開。