夜空を見上げても、昔より星が少なくなったと感じたことはありませんか。そんな星空を守るための制度「星空保護区」が今、世界中で注目されています。その取り組みを知り学び、この秋冬は満天の星に会いに出かけてみませんか?
星空保護区とは?

星空保護区とは、どのような制度なのでしょう。詳しくみていきましょう。
夜空を保護するための取り組みが認められた地域
星空保護区とは、国際NGO「DarkSky International(ダークスカイ・インターナショナル)」が1988年に創設した認定制度で、過剰な人工光を抑え、夜空の暗さを保つ取り組みを進める地域を公式に認定するものです。
この団体は世界各国に支部を持ち、日本では「ダークスカイ・ジャパン」が活動しています。
星空保護区に認定されるには照明に関する厳しい基準を満たす必要があります。
星空保護区のカテゴリー
星空保護区は、対象や取り組みに応じて次の5つのカテゴリーに分けられています。
| Dark Sky Community(ダークスカイ・コミュニティ) | 市や町全体が対象。住民への教育活動と照明のルール作りが求められる。 |
| Dark Sky Park(ダークスカイ・パーク) | 公園などが対象。観光客向けの星空イベントを開催している。 |
| Dark Sky Reserves(ダークスカイ・リザーブ) | 700平方キロメートル以上のエリアが対象。とくに暗いコアゾーンと、住民の暮らす周辺のバッファーゾーンに分かれている。 |
| Dark Sky Sanctuaries(ダークスカイ・サンクチュアリ) | 人がほとんど住んでいない秘境が認定され、長期保存が望まれる。 |
| Urban Night Sky Places(アーバン・ナイトスカイプレイス) | 都市部でも星空を守っている場所が選ばれる。 |
日本の星空保護区(2023年時点・4地域)
これらのカテゴリーのうち、日本で認定されている地域は次の4つです。
- 西表石垣国立公園(沖縄県):Dark Sky Park
- 神津島(東京都):Dark Sky Park
- 美星町(岡山県):Dark Sky Community
- 南六呂師(福井県大野市):Urban Night Sky Place
星空保護の取り組みが環境保護につながる理由

現代では、夜でも必要以上に明るい照明が多く使われています。オフィスビルや電光掲示板などの過剰な照明は、「光害(ひかりがい)」と呼ばれ、環境省も問題提起しています。
さらに、国際的な研究では、夜間に飛ぶ渡り鳥が人工光によって進路を誤る事例や、昆虫が光に引き寄せられて大量に死滅する現象が報告されています【DarkSky International/UNEP】。
星空保護区の取り組みは、こうした光害への対策と直結しています。たとえば、街路灯を上方向に光が漏れない設計に変えることで、省エネやCO₂排出削減につながり、人と自然が共生できる環境を守ることにもなるのです。
こうした国際的な取り組みは、日本各地でも導入が進んでいます。ここからは、実際に認定された4つの地域を紹介します。
日本の星空保護区4選

星空保護区は同じ認定でも、地域ごとに環境や取り組みの特色が異なります。山岳の国立公園から都市近郊のコミュニティまで、日本の4つの地域はそれぞれ違った形で夜空を守り続けています。その個性と魅力を一つずつ見ていきましょう。
沖縄県・西表石垣国立公園|日本初の星空保護区、夜空に輝く南十字星
西表石垣国立公園は、日本の一番南西に位置する八重山諸島にある自然豊かなスポットです。2018年3月、日本で初めて、アジアでも2番目に「International Dark Sky Park」として認定されました。
星空保護区に認定された理由は、長年にわたり人と自然の境界を守り、美しいサンゴ礁や希少な動植物を大切に保全してきた取り組みが評価されたためです。
園内では、全天を彩る1等星すべてと88星座のうち84星座を観察できます。とくに12月から6月にかけては、日本では珍しい南十字星を眺めることができ、国内でも数少ない星空体験が可能です。
東京都・神津島|都心から4時間で出会える星空の楽園
神津島は、東京の中心部から南に約180kmに位置し、都心から船で4時間でアクセスできる離島です。2020年に「International Dark Sky Park」として日本で2番目の星空保護区に認定されました。
都市の光が届かない立地と、島の中央にそびえる天上山を中心とした自然環境が、暗い夜空を守り続けています。
都市部の明かりが全く届かない立地と、島の真ん中にある天上山を中心とした手つかずの自然が、暗い夜空を維持するポイントとなっています。
夜になると島全体が静寂に包まれ、頭上には天の川が広がり、まるで天然のプラネタリウムのような光景が楽しめます。都心からはかなり時間がかかりますが、東京から直行便で行ける数少ない星空保護区として、週末旅行の行き先にも選ばれています。
福井県・大野市南六呂師|一年中安定した天体観測が楽しめる場所
福井県大野市の南六呂師地区は、白山の山々に囲まれた自然豊かな地域です。2023年8月に、アジアで初めて「Urban Night Sky Place」として認定されました。
都市部に近い立地でありながら、市街地からも天の川を肉眼で確認できるほどの暗さが保たれている点が評価されています。こうした条件を満たす環境は、日本でも極めて珍しいとされています。
とくに冬は空気が澄み、夜空全体に無数の星が輝く光景を望むことができます。四季を通じて安定した観測条件を備えているのも、この地域の大きな特徴です。
岡山県・井原市南六呂師|開放感ある高原地域の星空
岡山県井原市美星町は、広島県との県境の標高300m〜500mの高原にある町です。2021年11月に、アジアで初めて「Dark Sky Community」として認定されました。
美星町は星空保護区認定を目指し、条例改正や街中の街路灯を取り替えた点が評価されています。認定後も、住民への啓発活動に取り組んでおり、地域全体で星空を守り続けています。
星空観賞スポットも多く設けており、とくに標高512mにある「井原市星空公園」が星空観賞のシンボル的存在として人気を集めています。公園にはベンチがあり、夜になると光が一切なく静まり返った空間で天然のプラネタリウムをゆったり楽しめます。近くには天文台もあり、口径101cmの大望遠鏡で星空の絶景を堪能できます。
【番外編】“ゴールドティア”を維持するニュージーランド・テカポ湖の一級の空

ゴールドティアとは、星空保護区の中でも暗さ・透明度・星の数などが国際的に最も厳しい基準を満たした地域にのみ与えられる最高ランクの称号です。そのゴールドティアに認定されたのが、ニュージーランド南島のテカポ湖を中心とする「Aoraki Mackenzie (アオラキ・マッケンジー)International Dark Sky Reserve」です。
湖畔には「善き羊飼いの教会」と澄んだミルキーブルーの湖水が広がり、2012年の認定以来、世界最高水準の星空観賞地として評価を受け続けています。
テカポ湖周辺は晴天率が高く、年間を通じて星空観賞のチャンスが多いのも特徴。さらに、街全体で光害を抑える取り組みが徹底されており、屋外照明は上方向に光が漏れない設計(full cut-off 型)の器具が義務づけられ、既存の灯具も順次交換が進められています。
また、夜間の車両は不要な走行を控え、観光バスも車内灯を消して運行するなど、住民と観光業者が一体で暗さを守っています。
そのため、晴れた夜には南十字星や大小マゼラン雲など、日本からは決して見られない南半球特有の星々を肉眼で観察できます。自然条件と人々の努力が融合したこの環境こそ、テカポ湖を「世界最高水準の星空観賞地」たらしめています。
星空保護区を訪れる前のマナーと心得

最後に、星空を心ゆくまで楽しむために、訪問前に覚えておきたい基本のマナーを3つ紹介します。
光を極力抑える
スマホの画面や懐中電灯の明かりは目を暗闇に慣れにくくし、星をを見逃す原因になります。ほかの観賞者の迷惑にもなるため、必要な場合は赤色ライトなど光害の少ない方法を選びましょう。
静けさを大切にする
星空の下では、静けさも大切な環境の一部。大声で騒ぐのは避け、地元の人や他の来訪者と空を共有する時間を静かに楽しみましょう。
新月を狙う
最も多くの星が見られるのは月明りの少ない新月前後。出かける前に月齢カレンダーをチェックして、星空観賞のベストタイミングを選びましょう。
【参考文献】
星空保護推進機構(IDSP-J)公式サイト
星空保護区®について|美星町観光協会
星空保護区| 石垣市 ・ 竹富町 ・ 神津島村 ・ 井原市 ・ 大野市 ・ 星空保護推進機構
星空保護区について| 石垣市 ・ 竹富町 ・ 神津島村 ・ 井原市 ・ 大野市 ・ 星空保護推進機構
天体観測の注意事項| 星結ガイド
テカポ湖の星空|JTB
環境省「光害(ひかりがい)について」
DarkSky International
United Nations Environment Programme (UNEP)
AstroArts「美星町がアジア初のダークスカイ・コミュニティに認定」
井原市観光協会「星空保護区®美星町」
ライター
エリ
フリーランスライター。学生時代の海外ボランティアをきっかけにSDGsやエシカルに興味を持つ。主にSDGs、英語学習、留学、旅行について執筆。リフレッシュには自然の中でのんびり過ごすのが好き。