これまでアートに触れる機会がなくても、「少し体験してみたい」と感じている人は多いのではないでしょうか。奥深いアートや芸術には心の健康に良い影響をもたらすことが、医学や心理学の研究からわかってきました。世界保健機関(WHO)もアート活動を推奨しています。スマホやPCから離れて、アートや芸術に触れてみるのはいかがでしょうか。
アートは心の処方箋にもなる!メンタルにもたらす効果とは
アートと健康。その結びつきを知る人は少ないかもしれません。今世紀に入ってから、医学の分野からアートが大いに注目され、芸術と健康の関係が明らかになってきました。その一端をみてみましょう。
神経生物学者が明らかにしたアートと脳の関係
ロンドン大学の神経生物学者セミール・ゼキ氏によると、アートに触れることで脳内のドーパミンが増加し、恋愛中に生じるような感情が生まれるのだそうです。こうして得られる恍惚感や没入感は、ヨガや瞑想による精神的な修養とよく似ており、脳にプラスの影響を与えると、ゼキ氏は主張しています。
わかりやすくいえば、芸術的な体験は脳にとっての「ジム」。美術館に行って作品を鑑賞するにとどまらず、音楽を聴いたり、クリエイティブな活動をしたりと、アート体験はさまざます。ジムに行って筋力を鍛えるように、芸術的な体験によって脳は活性化するのです。
WHOが芸術活動を推奨する理由
世界保健機関(WHO)もまた、芸術活動を推奨しています。主な理由は次の5つです。
1.ストレスの軽減やリラックス効果が期待できる
2.認知機能が向上する
3.コミュニティのなかで人とのつながりを得られる
4.創造性や感情表現を向上させる
5.心の健康の維持につながる
アートに触れることは、病気やケガからの回復期にも大きな役割を果たすことが、WHOのサイトに明記されています。さまざまなストレスを抱えている現代人にとって、芸術活動は健全な生活へのナビゲーションになるかもしれませんね。
医師が処方する「美術館チケット」
WHOの提唱を受け、スイスでは医師が患者に美術館のフリーチケットを処方するプロジェクトを発足させました。
メンタルを病んでいる人、慢性疾患に苦しむ人が、芸術鑑賞できる治療法。処方箋となった美術館のチケットには、モネやドガの傑作を所蔵するギャラリーのほか、市営の庭園も含まれています。
プロジェクトに賛同している医師のひとりは、美しいものを見ることで患者がストレスから解放される可能性を示唆しています。また、Covid-19蔓延によるロックダウンが、アートの重要性を再認識させてくれた、とも語っています。健康のために食べ物が必要なように、精神には文化や芸術が不可欠、というわけです。
アートに触れて楽しむ方法
アートと聞くとハードルが高そうで、一歩を踏み出すのを躊躇してしまう人もいるかもしれません。いろいろな楽しみ方で、アートを身近に感じてみてください。
「美術館は苦手!」という人におすすめの鑑賞方法
美術館は退屈で苦手、という人にお伝えしたい3か条です。
1.全作品をまんべんなく鑑賞する必要はなし
作家の五木寛之さんは、美術館を訪れたら「ここでひとつの作品を持ち帰れるとしたら、どれだろう?」と思いながら鑑賞するそうです。つまり、美術館に心に残る作品がひとつあれば鑑賞の価値あり、というわけです。美術鑑賞に王道はなし。好きな作品だけを鑑賞してみましょう。
2.オーディオガイドを活用する
各美術館には「この作品がウリ!」という傑作があります。それらを効率よく説明してくれるのがオーディオガイド。疲れたらオフにして休憩できるツールはとても便利です。
3.規模の小さな美術館を訪れる
世界でもよく知られた美術館は規模が大きく、すべてを鑑賞することなど不可能。またあまりに多くの傑作を一気に見ると、ストレス解消どころか疲労感が増大してしまいます。1時間以内で鑑賞できる小規模な美術館で、気軽にアートに触れてみましょう。
こんなにあるある、アートの種類
真面目な宗教画や、馴染みのない彫刻作品が好きではないという人も、心配は無用です。美術には実に多くの種類があります。
たとえば、ヴィトンなど有名ブランドとアーティストのコラボ。草間彌生や村上隆など、ポップでキュートなアートは、アートを知らない人も親しみやすいものです。
ユーモラスなオブジェが魅力のジェフ・クーンズ、富裕層に人気ながらオンラインで低価格のグッズが購入できるバンクシー、ストリートアートのスピリットが光るキース・へリングなど、進化し続ける現代アートに要注目です。
美術館はグッズや書籍も充実!ショッピングも楽しい
美術館を訪れる楽しみのひとつが、ミュージアムショップ。ここにしかない文具や雑貨が目白押しです。
アートをテーマにしたスタイリッシュなグッズは、芸術に親しむための近道になることでしょう。
鑑賞だけではなく実践で楽しむ芸術
アートに触れるのは、鑑賞にとどまりません。美術館を訪れなくても、健康によい芸術活動ができます。
WHOが推奨する芸術活動あれこれ
健康のためにアートに触れることを推奨しているWHOによれば、日常的にできる芸術活動はたくさんあります。
絵を描く、音楽を聴く、演奏する、ダンスをする、自然に触れる。これらはみな、芸術活動の一環です。せわしないテンポで進む毎日、スマホから離れて自分なりの芸術活動をしてみるとよいかもしれません。
筆者のアートの楽しみ方
私のアートの楽しみ方はとてもシンプル。絵画に描かれている衣食住に注目し、過去に生きていた人たちに思いを馳せてみます。
中世の男性たちの華やかな衣装、宗教画に描かれている食卓、かわいらしい子どもたち。人間の普遍的な姿、時代ととも移りゆく営みを、アートを通じて実感しています。
「人はパンのみにて生くるにあらず」という至言
聖書には「人はパンのみにて生くるにあらず」という言葉があります。物質的に恵まれているだけでは人間は生きていけないため、精神的にも満たされる必要がある、という意味です。
心を満たす糧となるアート。ぜひ身近に感じて楽しみたいものです。
参照:
Artribune「3 evidenze scientifiche dimostrano che andare al museo fa bene alla salute」
National Library of Medicine「Neural correlates of beauty」
世界保健機関(WHO)「Arts and Health」
世界保健機関(WHO)「What is the evidence on the role of the arts in improving health and well-being?」
as「Doctors prescribe ‘free’ solution to aid mental health」
Pittura Mista「Godersi al meglio una visita al museo, 5 regole per appassionati e per chi deve convincere qualcuno a farsi accompagnare.」
ライター
cucciola
ヨーロッパの片田舎で家族と3人暮らし。
学生時代に都会の生活で心を病んで以降、スローライフとスローフードで心身の健康を維持。気が向くまま、思いつくまま、風まかせの旅行が多数。
アートと書籍を愛するビブリオフィリアで1人の時間が大好き。