世界中の観光地の環境や文化が、観光によって失われる危機にあります。そこで今注目されているのが、観光客一人ひとりに責任ある行動を求める「レスポンシブルツーリズム」です。自然環境の保護につながるため、アウトドアでも活かせるヒントがありそうです。
レスポンシブルツーリズムとは
「レスポンシブルツーリズム」とは、観光客一人ひとりが旅行先の環境や生態系、文化に与える影響に責任を持って行動することで、持続可能な観光を推進する考え方を指します。旅行先に配慮できる旅行者は「責任ある旅行者」と呼ばれますよ。
オーバーツーリズムや観光公害が問題視されるなか、レスポンシブルツーリズムが新たな観光スタイルとして注目を集めています。
サステナブルツーリズムやエコツーリズムとの違い
環境保護に関係するサステナブルツーリズムやエコツーリズムとは、定義が少し異なります。
サステナブルツーリズムは、観光が環境や地域経済に与える影響を考えた持続可能な観光を意味する言葉です。エコツーリズムは、地域の環境や文化の学習・体験を通して、環境保護への理解を深める観光を指します。サステナブルツーリズムは、環境や経済、社会文化に適用されるのに対して、エコツーリズムは環境に焦点をあてているのです。
サステナブルツーリズムとエコツーリズムは、「現象」としてツーリズムを捉えています。一方、レスポンシブルツーリズムは、旅行者の姿勢に着目した「考え方」なので、概念レベルで2つとは異なるのです。
レスポンシブルツーリズムは環境にどう貢献する?
レスポンシブルツーリズムでは、観光地の自然に配慮する「責任ある旅行者」に来てもらうことで、環境への良い影響が期待できます。旅行者の配慮によりマナー違反やオーバーツーリズムによる環境破壊が軽減できるため、間接的に観光保全へとつながっていくのです。
世界と日本のレスポンシブルツーリズムの事例
ここでは、レスポンシブルツーリズムを取り入れている国や地域を紹介します。
アメリカ・ハワイ
観光業が盛んなハワイでは、約40年も前からレスポンシブルツーリズムに通ずる概念が生まれています。「マラマハワイ」と呼ばれる、思いやりの心を大切にしようとする取り組みです。
専用のWebサイトでは、「有害成分入りの日焼け止めの使用禁止」「エコバッグの持参」など、観光客にお願いしたい具体的な5つのアクションを提示し、環境保護に貢献しています。
パラオ
無数の島々から成るパラオでは、入国時に環境への配慮を約束する「パラオ誓約」の署名が義務付けられています。
パラオには世界遺産に登録されるほどの価値がある島々やラグーンを求めて、国民の7倍以上もの観光客が訪れています。しかし、不法投棄や自然物の持ち帰りの事例が発生したため、環境保護のために誓約を設けるようになりました。
誓約を破ると最大100万ドルの罰金が課されるほど、法的拘束力のある誓約書が特徴です。
日本・白川郷
岐阜県の有名観光地である白川郷では「白川郷レスポンシブル・ツーリズムサイト」を設けて、観光客に対するマナー啓発活動を行っています。
白川郷は、今でも約500人の住民が暮らし、地域を守り続けています。しかし、オーバーツーリズムや一部観光客の不適切な行動により、環境や住民の暮らしに被害が発生しているのです。
そこで、専用のWebサイトを作り、5言語で「ゴミは持ち帰る」「指定駐車場を利用」といった具体的なルールを提示して、地域を守っています。
環境に対して“責任ある観光客”になるためのヒント
旅行の際は、ここで紹介する6つのヒントを意識しましょう。
ゴミは持ち帰るか捨てるべき場所に捨てる
観光の際中に発生したゴミは、持ち帰るか指定された場所に捨てましょう。ゴミのポイ捨ては、生態系に危害を加えたり自然環境を損なったりする可能性があります。
観光の際はゴミを入れられる袋を持参し、持ち帰る習慣をつけることで環境保護に貢献できますよ。また、現地で捨てる場合は、ゴミ箱の分別ルールをきちんと確認してから捨てましょう。
レンタサイクルや公共交通機関などのCO2排出量が少ない交通手段を選ぶ
CO2排出量が少ない交通手段を選ぶのも大切です。移動で使う交通手段は、環境負荷に大きな影響を与えます。
そのため、自家用車やタクシーではなく、CO2排出量が少ないレンタサイクルや公共交通機関を使用しましょう。レンタサイクルは、運動不足解消につながります。また、公共交通機関であれば、渋滞を避けて効率的に移動できるメリットもありますよ。
人気の観光地へはオフシーズンに行く
混み合う観光地へはオフシーズンに行くのも効果的です。観光地が混み合ってオーバーツーリズムが起きると、環境に負荷がかかるだけでなく、地元の人々の生活にも悪影響を与えかねません。
オフシーズンに行けば観光スポットが空いているので、環境に配慮しながらも快適に旅行を楽しめますよ。
自然物を持ち帰らない
観光地にある自然物(石・貝殻・植物)の持ち帰りはやめましょう。軽い気持ちで持ち帰ると、生態系に大きな影響を及ぼしてしまうリスクがあります。
観光地で魅力的な自然物を見つけた場合は、現地で写真を撮って思い出に残し、物自体はそのまま残してくるようにしましょう。
環境に配慮した宿泊施設を選ぶ
環境に配慮した宿泊施設を選ぶのも環境保護に貢献できます。環境に関連する認証マークを持っていたり省エネ・節水に取り組んでいたりする施設が例として挙げられます。
そういった宿泊施設を積極的に選ぶことで、施設側にとっても励みになり、より良いサービスが提供できるようになります。宿泊施設を予約する際は、ぜひ環境への取り組みをチェックしてみましょう。
地産地消の食材や商品を選ぶ
地産地消の食材や商品を選択するのも大切です。
地産地消商品を選ぶと、輸送時のCO2排出削減につながるため環境に大きく貢献できます。また、訪れた土地の活性化にも貢献でき、その土地の食文化を知るきっかけにもなりますよ。
「責任ある観光客になるヒント」を意識して旅行すれば、環境保護に貢献できます。それだけでなく「一人ひとりが旅行先の環境や生態系、文化に与える影響に責任を持って行動する」というレスポンシブルツーリズムの考え方は、キャンプやハイキングといったアウトドアにも大いに役立つでしょう。私たちの意識ある行動が、アウトドアフィールドの保護にもつながります。紹介したヒントを参考に“責任ある観光客”になり、地球環境を守りませんか?
参考サイト:
責任ある観光“レスポンシブル・ツーリズム”とは – Malama Hawaii|ハワイ州レスポンシブルツーリズム情報サイト
ライター
エレナ
フリーランスライター。学生時代の海外ボランティアをきっかけにSDGsやエシカルに興味を持つ。主にSDGs、英語学習、留学、旅行について執筆。リフレッシュには自然の中でのんびり過ごすのが好き。